電話の向こう
⸻
これは去年、私が経験した話です。
私は実家の家族ととても仲がいい。
一人暮らしを始めてからも毎晩のように電話をしていました。
特に母とは話が弾むことが多く、夜の9時を過ぎると“いつもの習慣”のようにスマホを手に取る。
その日も仕事終わりにシャワーを浴び、部屋着に着替えてベッドに横になりながら母に電話をかけた。
「今日も疲れた〜猫ちゃんはどうしてる?」
他愛もない会話が続く中、ふと母の声のトーンが変わった。
「……ねぇ、誰かいるなら電話は後にしようか?」
え?と私は思った。
「え、一人だよ?」
「だってさ、さっきから隣で男性の声がずっと聞こえるんだけど?」
一瞬、背筋がゾクリとした。
部屋には私ひとり。テレビもつけていない。
窓も閉めていて、外の音すら聞こえない静けさ。
なのに母には“誰かの声”がずっと聞こえていたというのだ。
私は怖くなって笑いながら誤魔化すように言った。
「こ、怖いよ〜……やめてって笑
でもまぁ今日は疲れたしまた明日電話するね!」
そう伝え電話を切ったあと
私は部屋の中をぐるりと見渡した。
そこには当たり前だけど誰もいない。
けれど母の言葉が頭から離れなかったのです。
なんとなくスマホを構えて部屋全体を撮影し
「ほら、誰もいないよ。笑 一人で〜す笑」
と母にLINEで写真を送りました。
すぐに既読がついて、返ってきたメッセージ。
「怖がらせたくないけど……
テレビ台のガラスになんか映ってるよ.....。」
一瞬、心臓がドクンと脈打つ。
慌てて送った写真を拡大して確認する。
テレビ台の黒いガラス面。
そこにこちらをじっと見つめる男の顔がうっすらと映り込んでいました。
息が止まりそうになった。
うっすら映るその顔には見覚えがあったのです。
私は翌朝すぐに実家へ帰省し、母に相談しました。
数日後、霊感のある知り合いに部屋を見てもらったところ
「これ……生き霊ですね。すぐにでも対処した方がいい」と言われ
私はやっぱり、と思いました。
あのうっすらと映る顔は数ヶ月前に別れた元彼に似ていたのです。
何度も復縁を迫ってきて、別れを受け入れなかった彼。
私の部屋に“居座って”いたのは――
彼の執着だったのかもしれないと感じました。
すぐにお祓いを依頼し、それ以来目に見えた変化は起きていません。
今も私は同じ部屋で変わらない日常を過ごしています。
……ただいつものように家族に電話をかける時間
あの瞬間にふと誰かの“気配”を思い出してしまうことがあるのです。
⸻