呪いのビデオ
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これは10年以上前に私が経験した話です。
「呪いのビデオって本当にあると思う?」
友達のさやかがそう言い出したとき私は笑って答えた。
「いやいや、それ“リング”でしょ笑 映画の世界!笑」
たしかに昔からそういう噂話はありました。
見たら死ぬ、見たら呪われる、見たら幽霊が出る、
見ることによって色んな現象を起こすという噂。
でも現実にそんなものが存在するならとっくにSNSで話題になってるはず。
「じゃあさ、逆に探してみようよ。本当にあるかどうか」
その時は冗談のつもりでした。
でも私たちはノリで“呪いのビデオ”を検索し、本当に探し始めたのです。
いくつか都市伝説系のまとめサイトを巡ったあと
私たちはある奇妙な通販サイトにたどり着きました。
そこには、「呪物」「事故現場から回収された映像」「供養済み」といった胡散臭いワードが並び
その中に一つだけ“ビデオテープ”の写真がありました。
タイトルは「呪いのビデオ」
しかしその他にこれといった説明は書かれていない。
「値段そこまで高くないね。割り勘すれば買えるよ?笑」
そう言い私たちは面白半分でそのビデオを購入したのです。
──数日後、ポストに届いた封筒の中に入っていたのは
ただの古びたビデオテープ。ラベルも貼られていない。
「なんか怖くない見た目だね・・笑」
そう言いながら私たちはその日の深夜、部屋のテレビにビデオデッキをつないでその「呪いのビデオ」を再生しました。
映し出されたのはぼんやりと霞む山の風景。
それから波音の聞こえる海辺の映像。
風がそよぐ音、鳥の声。
まるでヒーリング映像のような不思議と心が落ち着く映像でした。
「これにお金払ったんか〜……笑」
「癒されるけど怖さはゼロだね笑」
呪いどころか眠くなるような雰囲気に苦笑いしながら
私たちはビデオが終わったあとも他愛ない話を続けていた。
ですがビデオが終わって30分後のことでした
「……ん?」
背中がぞわっとして全身に鳥肌が立つような感覚に襲われたのです。
急に空気が重くなる。
汗ばむわけでもなく、寒いわけでもない。
「ねえ、なんか変な空気じゃない……?」
そう言いながらさやかを見るとさやかも何とも言えない表情をしていました。
「わかる。なんか気持ち悪い。空気が……濁ってる感じ」
その場の雰囲気に耐えきれず、私たちは一旦外の空気を吸おうと部屋を飛び出しました。
エレベーターの前で息を整えながら私はふと
──さっきの風景、なんだったんだろう。
山と海の映像。
ただの風景のはずなのに脳裏にこびりついて離れない。
なぜ今その風景が頭から離れないのか
不思議な感覚になりました。
まるで私たちがあの風景を見ていたのではなく
あの映像が“こちらを見ていた”ような感覚。
「ねえ、あの景色なんか頭に残って・・」
そう言いかけたとき、さやかの顔が青ざめているのが目に入りました。
額には汗、目は開いたまま動かない。
「……?」
さやかの視線の先に目をうつす。
エレベーターのガラスに映る私たち2人の姿。
だがその後ろにもう一人女性が立っていたのです。
はっきりと見えるわけではない。
けれど明らかに人の“形”をしている
そして直感的にそれが"女性"だと感じたのです。
妙に背の高い影が私たちにゆっくりと近づいてくる。
恐怖で体が固まりました。
それでも私は声を振り絞り「走って!」と叫び
さやかの手を掴み部屋まで必死に走りました。
その夜、私たちは電気をつけたまま布団にくるまって2人肩を寄せ合い朝を迎えました。
──あの映像が原因なのか、正直それは分かりません。
ですが私たちは絶対にあのビデオが原因だと思っています。
次の日すぐにそのビデオを処分し、それ以来今の所何も起きていません。
……ただ時々、夜になると
ふとあの山や海の風景が頭の中にふわりと浮かんでしまうことがあります。
ふわりと浮かんだ瞬間、あの時後ろに立っていた女性がまた現れるのではないかと怖くてたまりません。
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