貴様アアア!!逃げるなアア!!!天命から逃げるなアア その気になっていたお前の姿はお笑いだったぜ 絶対⭐︎裏切りヌルヌルの前日譚
賈詡は黄巾の乱より続いた漢王朝の兵乱の後片付けを終えて熟思った。この若人を何とか朝廷に繋ぎ止めねばならないと。マジで切実に強迫観念と評すべきほど思った。
もう盧繁の発言力は絶大である。何なら盧繁本人が必死に低下させられないか悩むくらい皇帝よりもデカい。賈詡としては面倒な事にそれを自覚し隠居する気満々なのだ。
だが弱っているとはいえ豪族を抑え付け、本人の瑕疵が大きいとは言え孔子の子孫を掣肘して何ら問題と言うべき問題が起きなかった者、そんな存在は漢王朝以来存在し得なかったのである。
天下安寧の為に賈詡は今までに無いほどに思考を巡らせていた。因みにガチで皇帝や皇族に朝臣も頭を悩ませてたりする。賈詡と皇帝一族は共犯者だった。
そんな事は露知らず盧繁は隠居の為問題になりそうな事を虱潰しにしようと精を出している。立つ鳥跡を濁さず的な考えで頑張ってるのだ。だからこうなる。
「盧繁を琢郡公とし九錫を与える」
盧繁は固まった。ニッコニコの劉協。安堵した廷臣達。ただ盧繁だけ愕然としていた。そして滂沱の汗を溢れさせて膝を突き拱手し。
「陛下!! 無礼を承知で!! 畏れ多くも宜しいでしょうか!!」
「何だ盧繁」
切迫した盧繁に劉協が笑顔をむけた。
「臣盧繁は憂います!! 此の褒美は禅譲の形を取った簒奪の下地となりかねません!! 陛下には如何か御再考を!!」
「盧繁よ。しかし朕は聞いたはずだ。褒美は何が良いかと。私は一州を君に預ける事も考えたのだ。それを断ったのは盧繁である。であれば権威を与えるしかないではないか」
「しかし!! 陛下、御再考を!! 私は賊を平らげた為に恨まれております!!
また孔子の子孫に対する対応、孔融に関しては必要でありました!! ですが儒者として褒められた所業ではございません!!
漢王朝の為にこそ如何か!! 此の厚遇は畏れ多くも後の災いとなります!!」
「それらは必要な事だった。そして恨まれると言うが天下万民を見よ。いや長安だけでも良い。お前を望まぬ者が何処に居ようか」
盧繁が思わず頭を上げてグニョンとへ垂れ。
「もおーーーーおおーーーー!! 本気で勘弁してくださいよ陛下ァッ!! こんなん俺簒奪者一歩手前じゃないですか!!
こんなんでも一応は儒者なんですよ俺!! 父上に顔向け出来ねぇですって!!」
皇帝の額に青筋が浮かんだ。
「うるさい!! いい加減諦めろ!! もう今ここで禅譲しても良いんだぞ朕は!! 正直言って座ってるだけの帝位が気不味いわ!!
それに盧繁は功績立てすぎで褒美の用意が大変なんだ!! 食邑もすぐ返すし!! いや凄い助かってるけど!!」
「じゃあ隠居させてくださいよ!!」
「させられる訳ないだろ!! 絶対に逃さんぞ!! 絶対にだ!!」
「あーもー!! 陛下が御乱心だ!! ホント座ってるだけの皇帝の有り難みを朗々と語ってやろうか!!」
「じゃあ兄上に禅譲しようかな……」
「あ、ソレ。良いんじゃ無いですか? 是非是非」
劉辯が顔面蒼白ギョッとして。
「止めろぉ!!!!!」
霊帝のあたりから漠然と成就された天下に広がる漢王朝は末期だという感覚。今は盧繁が何とか漢王朝の内で納めてるが色々と無理が出てきている状況である。そう言う共通認識と錯覚が上下に確実に広がりつつあった。
それこそ盧繁の整った顔立ちとギャグみてぇな力など帝位を受けるべき瑞兆と見られつつあるほどに。盧繁もそう言う空気を薄々は察していたし袁術からはド直球に皇帝なれって言われた。だから早く問題を片して隠居しようとしてたのだ。
盧繁はハッとする。
「……陛下。耳を御すませ下さい。陛下がそのような事を申した為に豪雨でございます。天が怒っておりますぞ」
「バカな」
ドヤ顔の盧繁に劉協が呆れた様に外を見る。だが確かに慈雨と言うには強い雨が降り雷鳴も曇天に蠢く。盧繁は勝ちを確信して笑う。
しかし劉協は不満そうな顔で盧繁を見て。
「盧繁。今は兄上に禅譲すると言う話をしていた。だからでは無いか?」
「そも禅譲などと申すからでございましょう」
盧繁の言葉に合わせて雷が降った。ピシャァッって音が響く。盧繁の眉がピクってし皇帝の口角が僅か上がった。
「……だがな盧繁。朕は堯から舜へ禅譲したように倣うべきと考えるのだ。劉から盧へと、あ」
皇帝が立ち上がる。
盧繁が、群臣が振り返り、蒼天。
メッチャ晴れてた。
「盧繁。ほら見ろ!! 晴れたぞ」
盧繁は虹出ろ!! と思った。此の時代の虹は凶兆である。だが全然出なかった。盧繁は憮然としてしまう。白い鳥が煽るようにピチチチいってた。かわいいねコン畜生って思う。
真っ白なヤツ。白は瑞兆だ。年号になるくらいには瑞兆。
「盧繁?」
勝ち誇った劉協に盧繁は視線を彷徨わせ。
「た、偶々でしょう」
「盧繁よ」
「何でしょうか陛下、南蛮の使者も参りますので一旦——」
「天意である。琢郡公と九錫、な? 断るなら別の褒美を用意するが」
「……ウッス」
〓盧繁〓
拙い。拙い拙い拙い! 本気で拙い!!
何でこうなった!!? 帝位とか要らねぇって!!! 最悪これを理由に誅殺って線も有り得る。
いや陛下は大丈夫だけど他が如何見るかって話だろ!! 超ヤベェ!! だいたい皇帝なんて子孫に苦労させるのが決まってるような仕事誰がしたがるんだっつーの!!!!!
クソが!! こんな事なら孔融を朝廷に置いとけばよかった!! アイツ空気読めねぇから色々言っただろうにクソッッ!! て言うか鄭先生とか止めてよ!!!
あーもー天気空気読めや!! マジで何あのドンピシャの流れ!!
フッザッケンナ!!!
「クッソ……。こうしてる場合じゃねぇ。困った時は。賈さんだ!! 誰か至急だ。賈大尉を呼んでくれ!!」
ッチ。取り敢えず南蛮の対応について草案でも考えとくか。
益州を分割して将軍を置くのが丸いと思うがさて。そうだ伯符殿辺りに手柄を立てさせるのもアリかもな。南方での戦いは慣れてるし周瑜も喜ぶだろ。
一先ずはこんなモンで良いな。意見聞いてからだ。悩むのは。
「琢公」
ああ、公って響きが嫌すぎる……。
「……呼び立てて申し訳ないです賈さん。緊急で折り入って相談したい事が」
「ふむ、何でしょうか……?」
珍しく察しが悪いな。
「公なんて立場に加えて九錫まで渡されてしまいました……!! これは極めて、非常に拙い事です。漢王朝にも俺の胃にも最悪だ」
「そうでしょうか」
「当然です。劉氏の天下は前漢後漢を合わせて四百年近く続いたんですよ? 誰が他の天下なぞ望みますか」
「ふむ。成る程。懸念は確かに分かる話です」
「そこで何とか爵位を下げる方法は無いかと相談がしたいんです。お忙しいところ申し訳ないんですが……」
「ふむ、なるほど。わかりました。考えておきましょう」
「助かります。ああ、それと南蛮の事なんですが益州を分割して孫中郎将に駐屯して貰おうかと考えたんですが——」
苦笑い? どうしたんだ賈さん。
「ああ、失礼。そちらに関しては良案かと。であれば幽州も分割しては如何でしょうか。東西に長く連携もままなりません」
「それは確かに。評定の議題にすべきですね。人は少ないですけど距離があり過ぎる」
禅譲阻止に関しちゃ賈さんが案を出してくれるなら良し。じゃあ今日の仕事はこんなもんか。腹減ったし早く家かーえろ。
「それじゃあ賈さん。俺はこれで」
「ええ。お疲れ様で御座いました」
まぁ賈さんに任せとけば身の丈に合わん地位も捨てられるだろ。
「さーて今日の晩飯なにかなー」
◆◆完結◆◆




