くーる きっと来る たぶん来る めっちゃ来る
「じゃあ徐中軍大将が漢中に向かったと?」
「ええ。加えて第二報によるとそのまま進軍し葭萌関で法殿と合流。竹を割る様な勢いで益州は成都を残し落ちたとの事です」
「流石は徐おじちゃん。ただ成都って凄い堅城って話じゃなかったでしたっけ? 流石に時間かかりそうだなぁ」
「それは仕方ありますまい。攻勢を急いで被害を拡大する訳にもいきません。一先ず陛下に被害の少なさを賞賛させる勅使を送るように頼んでみては? 無理な攻城もせずに済みましょう」
「急がば回れ、か。徐おじちゃんが居れば頼りになるんだけど。仕方ないか」
盧繁は長安で大将軍として各地の戦況を確認していた。主に賈詡が情報を取り纏めてくれており益州は無問題と判断。ポンと印綬を押して兵糧と物資の輸送を認可する。
「荊州は?」
「張将軍からの報告によりますと桓階、字を伯序と申す者が劉表を討つ為に接触してきたと。孫堅の恩義に報い仇を討つとの事で様子を見たいようです。多少の時間は掛かるかもしれないと」
「分かりました。朝廷でゴチャゴチャ言う奴がいたらブン殴っとくって伝えてください。ただ出来れば他に二、三個は策が欲しいな」
「念の為に伺いたいのですがブン殴ると言うのは比喩ですよね?」
「……あの。流石に酷くないですか賈さん。俺は別に易々と人をブン殴ったりしませんよ」
「閣下は非常に温厚だと言う事は皆が存じております。なれど怒らせると突発的に動くと思われておりますよ」
「……気を付けます」
「序でに言わせて頂きますが食邑は陛下と御相談の上で当分保持なされませ。陛下は始皇帝とは違い閣下を信任しておられる。ですが周りが如何見るかはまた別でございます。閣下は若いが故に受け入れ難いやもしれませぬが王翦を見習うべきかと」
盧繁は困った顔で頭を掻いた。そして賈詡の方へ伺う様な視線を向ける。出来れば外れて欲しいと思いながら。
「また董承あたりが何か企んでます?」
「いえ。と言うよりは皆様が安堵しておられるので万一にも食邑の返還を考えていた場合静止が必要かと思いましたので。御無礼をお許しください」
「陛下や他の人達が俺が不満を抱いてるんじゃ無いかって不安がってたと?」
「有体に言えば実際に功績に対して褒美が妥当と見られておりません。前提として黒山を平定し公孫瓚を討ち取り袁紹を撃退した褒美が大将軍と言う異例の抜擢で済むはずも無い。更にあの時と打って変わって今は朝廷にも余裕がある」
「廷臣としては後ろめたい、って事です?」
「正に。それが不安となり、不信となれば排斥となりましょう。閣下は人一倍に己の客観が苦手な様ですので」
賈詡の真摯な態度に盧繁は己の認識の間違い認めざるおえなかった。
「分かりました。陛下と話しておきます。有り難うございます賈さん」
黙礼する賈詡を傍にそれはそれとして盧繁は隠居したさに震えた。
「それで袁紹のアホは?」
「何も。樊右将軍が冀州から時折青州へ強攻を繰り返しております。最近では兵糧も集まらぬ様で」
「袁義父上が汝南袁家の跡目となったのを通達したのは如何ですか?」
「効いております。と言ってもこれは袁紹個人にですが。門生故吏は閣下に敗れた時点で大半が袁紹とは距離を置いていましたから。
内通者の言によると酒量が増え気が短くなり肥え始めたとの事で」
天下の敵は益州、荊州、青州に居る。しかし正直言えばもう盧繁が出るまでも無い。賈詡はそう考えていた。
だからこそ盧繁に一つ献策する。
「何処か、出来れば荊州。此処に陛下御自ら御出陣頂くのは如何でしょう」
「親征ですか」
盧繁は少し考えて。
「良いかもしれない」
そう頷いた。
賈詡が胸を撫で下ろしている事にも気付かず。
〓劉表〓
「成都が、落ちたか……」
ああ、目が湿り口が渇く。全てが重い。これが絶望というものか。
「蒯越よ」
「は」
「使者は」
「首となって帰ってまいりました。馬騰韓遂と同じにございます。盧植の子が政に加わっても同じとは……。また涼州の軍閥に送ったと同じ様に、加え……その」
……言葉を濁す何か、か。大方予想は付いていたが。宗族をこの扱い、いや宗族故にか。
「察したわ。申せ」
「は。その、この木箱に首を入れて返せば臣下は大赦すると」
貧相な木箱だ。これに……ッ。
「私の首を、か」
「…………っ」
目を伏せる様に頷く。想定通りだ。ああ。
……やはり、か。
「意地の悪い事を聞いたな。策はあるか」
ある訳が無い。馬騰韓遂でさえ不可能であった事を我等が出来ようものか。奴らとても樊稠と李傕郭汜程度に撃退されている。それも李傕郭汜の仲違いの最中を狙ってだ。そこに盧繁が加わって如何しろというのか。
現に誰も言葉が無いわ。当然だ。儂とて分からん。進退極まったものよ。
だが少なくとも蒯越は信用できる。袁紹の策に乗り宦官誅滅を助成した。即ち袁紹と同じ罪を纏っている。
「極めて希望は薄う御座いますがもしも盧繁を討てば、いえ討てずとも危険を及ばせる事ができれば、或いは荊州への征伐を遅らせる事が出来るかと。
しかし成功したとて勝てるとは限らず、朝廷の怒りは計り知れません」
……それは成功しても賊滅にならんか? いや絶対になるだろ。しかし、な。
「蒯越。何進の元に居た時に盧繁を見ていただろう。所感を聞かせてくれ」
「人外」
……。
「幾度か鍛錬を見た事は御座いますが。私も武人の真似事をした事が御座います。そして真似事ではなく児戯と悟らされました」
「それを討つ。暗殺すると言うが。如何やってだ」
「朝廷で孤立した董承に資金を流し、内に兵を入れ決起をさせる。
とは言え輔、周なれば即ち国必ず強し。陛下と盧繁めの関係は強固。また今の朝廷は盧繁こそ強固な鉄鎖を支える支柱。余りにも危険かつ可能性の低い一手。
はっきり申し上げて隙が無さすぎる。己の無才を恨むばかりで御座います」
「いや、十分だ。私では策一つを思い付くこともできなかった。無駄でも、やらぬよりはマシだろう……」
「では」
「頼んだ」
「承知致しました」
さて、荊州の豪族供が如何動くか。
「父上!!!」
騒がしい……何だ?
「いったい如何した琦よ。御主がそうも慌てて参るなど。お前程の礼節を弁えた者が」
「父上!! 御許しを!! しかし此れは尋常では御座いません!!!」
何だその、布は? 質の悪いボロ布を懐から出すなど……。それだけの事が?
「如何か御覧ください!!」
ふむ。何、逆賊劉表を討つ為に盧繁を総大将とし親征を行う。成る程。
ついては私の首に懸賞と褒美か。ふむふむ。
……親征、か。
「……ぅーん」
「父上、如何致しましょう。これは——父上? だ、誰か!! 医者を呼べ!!!!!」




