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若気の至り黒歴史

 黄巾賊の軍勢は大半が民衆で有る。無論それは古い時代であるが故に凶猛だ。

 人間そうは変わらないが野盗異民族などの人殺しが隣にいて死人が道端に転がって当然の時代の人間と、家畜どころか魚さえ絞める事が稀有になった時代の人間では暴力や戦いに対する認識と意識は変わる。

 だが何時の時代も相手を殺す技術を組織だって行う事なら兵は民を凡そ圧倒した。


「黄巾の軍勢は進むも退くも将どころか総大将を先頭に立てるでしょう。民衆が大半故にそうしなければ誰も付いて来ないどころか何処に行けば良いかも分からない。

 だから皇甫将軍の想定が当たっていれば少なくとも進軍中の先頭集団に張梁の野郎は必ず居る。そして総大将を守るには最低でも兵と将が必要で既にそう言った連中は父上に万余り斬られています。

 要はその集団さえ討てば敵は統制を失い此の戦いは終わる程に弱点は顕著でしょう。それが黄巾賊と言う窮乏した民と其れを扇動した連中の弱点です」


 子供が言う。余りにも無邪気に。悪戯小僧が言う。


「そして黄巾の連中は進軍撤退する順路も凡そ分かる。何せ敵が打って出るなら此処から広宗まで一日では着きません。

 即ち陣営を設営する必要がある。ただ向こうは賊だから物資が少なく民が居る為に陣営を築くのは現実的じゃ無い。複雑な進軍は不可能で道は明確だ」


 成る程と大人が納得できる状況を説明していく。並み居る者達を率いる校尉鄒靖は大真面目に聞いていた。今代の幽州で並ぶ者の無い傑物たる盧子幹の息子の言葉を。


「皇甫将軍にも申し上げましたが広宗を包囲した際に父上が焼き払ったので敵の輸送に使える様な船は少ない。

 だから輸送は馬車か牛馬を頼る事となり其れ等を休め給餌する為の物資を集積する地が必須です。それは特に井戸などを必要とし時間もないですから駅馬をそのまま用い、敵が皇甫将軍に全力で当たる必要を考えれば守備兵は少数。つまり防衛設備は獣避けの柵程度に少数の兵しか居ない敵の兵糧庫が出来上がる訳です。

 その拠点を敵の本軍が過ぎた後に占領すれば腹一杯に飯が食えますし敵の大半を降伏させられるかも知れません」


 少し黙考した校尉鄒靖が口を開く。


「なぁ。それ守り切れるか? 俺達の軍勢はこの前の戦いで二千程に落ち込んだ。敵の数を考えると維持は難しいぞ」

「じゃあ焼きましょう。敵の戦線、敵の城、その両方から良く見える様に。

 そうだ。生木を入れて濛々と煙を立たせてやりましょう。ケツに火が付けば兵士だって逃げ出します。兵士崩れと民であれば何を言わんや。

 丁度良い、張梁の野郎に兄上を討った事を後悔させられる。さっきも言った様にもし撤退する敵中で離散せず纏まった部隊があれば奴がいますよ。それを討ち破れば皇甫将軍に良い手土産が出来ます」


 飲まれていた。黄巾の乱を戦ってきた男達が小さな子供の狂気に。だが冷静に考える。


 校尉鄒靖は考え、考え。


「それで行こう」


 〓盧繁〓


 ウエェ〜〜〜〜〜〜〜〜〜イ!!!!!


 ヨッシャアアアアアアアアア!!!!!


 フゥーーーーーーーーーーー!!!!!


 ヤベ、マジ声出そうなくらい嬉しいわ。マジ待ってろよ張梁の野郎、ド頭叩き割ってやっかんなマジ!!


 いや父上の背がデカいんで歳の割に身長はあるが、それでも軍人に比べりゃ小さいんで偵察に出たが。


 へっへっヘッヘッヘ。


 黄巾の馬鹿供が進んでいきやがった。しかも隊列を組めてる一団が最先頭だ。後のは疎だから間違いなく仇がいやがる。


 と言うかほぼ全軍じゃねぇかコレ。皇甫将軍マジ凄ぇな。予想的中ってレベルじゃねぇ。


 ……よしよし。馬車だのを置いて行きやがったな。残った連中で物資の集積所の管理ってところか。


 こうしちゃいれねぇな。さっさと戻ろう。敵も少数だが騎馬がいるみたいだし。


「鄒校尉。盧繁、只今戻りました。敵が設営を開始」

「良し。劉備」

「此処に」


 玄徳殿が前に。


「先鋒は任せる。騎馬は全部連れてけ。荷運び用に牛も預ける」

「は!」

「盧子昌!!」

「は!」

「お前は俺の横!!」

「……えぇ」

「返事!!」

「ヤダ!!」

「ガキみてぇに剥れてんじゃねぇ!!」

「ガキですもんね!!」

「お前縛り上げて盧先生の所に連れてってやろうかア“ァン!?」

「本当にすみませんでした校尉」


 クッソォ〜。ケチンボめ。吝校尉。


「何だその吝校尉とでも言いたそうな顔は」

「どんな顔?!」

「鏡でもあれば見せれたろうな。今のお前は危なっかしい。ここまで来りゃあ仇が討てそうなら力は貸してやる。

 だがもしもの時にはお前を逃さにゃ先生に申し訳が立たん。そもそもコッチにお前を連れて来たくは無かったんだ。だからこれが最低限だ」


 ……最悪の場合俺を逃して死ぬ気か!!


「……無茶を申しました。誠に申し訳ありません。そして感謝致します」

「そうだな。ちったぁ頭が冷えたか。ベラベラ提言なんぞして来やがった辺りで危なっかしいと思ったが。まぁ若気の至りってヤツだ。気にするな」

「重ねて感謝を」

「おう。受け取っとく」


 間を開けて。


「劉備」

「はは」

「敵を蹴散らす前に物見を出しておけ。先行した敵との距離が近けりゃ火をかけるだけで良い。余裕がありそうなら俺たちを待て」

「承りました」

「良し。誰か意見のある者は居るか?」


 鄒校尉は見回して頷く。


「出陣だ!!」

「「「「「応」」」」」

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