出会い頭
楊秋・季陰
字は適当。
長安から北西に安定郡がある。涼州の最東端の郡であり城数も八と少ない小さな郡。そこに盧繁と皇甫酈が進軍した結果。
「えへ、えへへへへへ。良くぞいらして下さいました!! ええ、それはもう」
めちゃくちゃ厳つい感じのオッさんが媚び諂いと言うには余りに必死な、血の気の引いた凄い形相で腰を曲げながら出迎えるという、出迎えられた側の居心地が悪過ぎる会合を果たしていた。
「大将軍閣下!! 皇甫後将軍!! この揚秋は御二人に拝謁出来る幸運を深甚永世感謝いたします!!」
盧繁は心底流石だと思う。涼州三明にして安定出身の皇甫家の威光をまざまざと見せられているのだから。まぁ英雄の一族の脇にいるのも凄く気不味いが。
それはそれとしてオッさんが余りにも可哀想なので地元の英雄よりは歳下の若造が話したほうが気楽だろうと。
「揚殿。態々のお出迎え感謝いたします。
皇甫家の方々や孔殿から話は伺っていますが万一にも齟齬があってはいけませんので伺わせて頂きました。
御約束の物も持って来ておりますので」
非常に好青年に見えるだろう。百人が百人そう言うだろう盧繁の軍礼。された側の楊秋がヴワっと汗を。
「おおお、御礼!! 御礼申し上げまう!!」
「まう……?」
「あ、あああ、しし、失礼をば」
「い、いやいやいや、そんな御気になさらず」
盧繁は気付いた。「あ、たぶん俺の方がビビられてる」と。
当然である。樊稠、郭汜、李利に長平観で馬騰韓遂が大敗北しのを楊秋は間近で見ていたのだ。その馬騰韓遂と言う涼州軍閥の双璧をバッキバキのボッコボコにした郭汜を喪が開けて帰るやいなや有無を言わせず制圧し、謹慎処分にして問題を起こしていない現大将軍とか化け物で有る。しかも地元の超絶名士の皇甫家の人間付き。
楊秋は随分と控えめに言って胃が炸裂しそうだった。なんなら飲み過ぎは良く無いと知った上で胃薬凄い飲んでる。芍薬甘草湯をガブ飲み。
盧繁はなら早く済ますべきだと考えて。
「では手早く進めますが楊殿は民心慰撫を引き続きお願いします。
そして皇甫後将軍殿は事前に通達しました通り朝那県に駐屯し高平と鳥枝県を含めた三県にて開墾をして頂きますので万一の時には援軍を派兵して下さい。尚その際の兵糧は此方から融通致しますので後安堵くださいますよう。
以上で同意頂いた内容と相違は御座いませんでしょうか」
「ええ勿論ですとも!!」
「良かったです。では楊季陰を校尉に任じ後将軍の麾下に着ける。此方が印綬です楊校尉」
「感謝致します」
安定に皇甫酈を配置した盧繁は主力の居る槐里県へ戻った。そして歩兵全てと騎兵の半数を残して西進を開始する。そして陳倉の西で天水より攻め上がって来ていた馬騰韓遂軍と偶発的に接敵。
『突撃!!!!!』
「進めェッ!!!!」
盧繁と馬騰の号令は同時だった。先頭は互いに大将、相対して鉄騎の数は盧繁が勝ち、全体の数では馬騰が勝る。結果は無為にして無常。
最初の盧繁の大斧の一振りに馬騰の馬が爆散し馬騰本人が弾丸の様に自軍を貫く。人馬が狂乱して一塊となって為すべき突撃が拡散して弓騎兵に狩られた。
そうして拡散した物はマシで突撃の中央にいた騎馬は盧繁の大斧で断たれるか飛び、ソレから逃れても後続の長い槍に貫かれ馬騰軍は唐竹割。
「あー吃驚したぁ。急に来るんだもん。焦るって全くもう」
涼州の主力が糞尿と涙鼻水を滂沱させながら逃惑う中で盧繁は心底おどろいた顔で言う。
『たぶん敵の方が驚いてると思う……』
呼廚泉がドン引きしながら思わず言う。
騎馬で機動戦などを行えば偶発的遭遇などと言うのは戦場では良く有る事。戦場の霧と言う言葉があるが拙速はその通り霧の中を全力疾走する様な物だ。だから騎兵将校なら経験則から互いに織り込み済みで有る。
とは言えそ引き潰されるとは思わない。
「んじゃあ逆撃されても嫌なんで一旦撤収。と言うか敵が詰まってて進めねぇ」
敵が居る事が分かったので常識的に撤収した。
〓徐栄〓
「え、アレ先遣隊じゃなくて本体なんですか?!」
「おそらく間違いございますまい。数千騎ともなれば主力には間違い無いかと」
賈軍師の言葉に愕然としている。御帰還早々にこれか……。末恐ろしいな子昌殿は。
「……て、訳で。たぶん、ちょっと馬騰軍半壊させちゃって。予定通り行くか如何か。すみません」
「えぇ……」
いや、此処で屯田を行い涼州益州からの進入を防ぎ敵が来たら地形を利用し包囲撃滅する策ではあったが……。
「クッソ……。馬騰はともかく韓遂が逃げちまうな。無駄に物資使うし遠征ヤだ」
……紛れもない正論をそんな駄々を捏ねる様に言われても。
「あ、あぁ、盧繁殿。駐屯と開墾の準備は済ませた。高殿曰く計画通りに進めば数年は戦えるそうだ。しかし遠征となると流石に難しい戦いになるぞ」
「ですよね……。困ったなぁ。韓遂の首に賞金を掛けても意味が無かったって話だし、さて」
確かに困る。出来ない事は無いが余りにも手間だ。うぅむ。
盧繁殿が涼州を攻める間にこの地を守るとして劉焉、の倅か。如きに遅れを取るとは思えんが……。
いや、やはり物資の消費などを考えると涼州か益州の何方か一方になる。
「なんか思い付いた人はいますか?」
盧繁殿が問うが、まぁ。直ぐに思い付く物でも無いか。ん?
「宜しいか」
賈軍師。
「閣下が追撃を為さらなかった理由を御聞かせ願いたい」
……? ! 確かに。おかしくは無いが。
「馬騰の兵で道が詰まってたのと敵の逆撃を恐れての事です。馬騰軍と別の道を用いて別動隊が迂回をしていれば側背を突かれる可能性がありましたから。何せ俺が連れてたのは騎兵だけですから余計にね」
「であればもしかすると敵は天水から動けて居ないかも知れません。追撃を最も得意とする騎兵からの逃走など不可能だと馬騰韓遂は承知の事。少なくとも戦力か気勢を削がねば逃げる事さえ難しいと考えるのが普通」
うむ、確かに。此処は後押しすべきだ。
「閣下、確かに騎兵から逃げるのは難しい。賈軍師殿の言う通りです。騎兵主体の敵なれば伏兵への留意も必要でしょうが涼州に詳しい方は多い」
「徐中軍大将軍も同感ですか。ならちょっと天水に行って来ます。此処は中軍大将軍に任せても?」
「お任せください閣下。劉焉、では無いか。いえ、劉焉如きに遅れはとりません。それどころか劉璋など論ずる価値もございません」
「心強い!! じゃあお願いします。政務や田畑の事は先生と周殿に」
「頼らせて頂こう。閣下、御武運を」
「行って来ます!!」
盧繁殿は大きく手を振り進発し大斧に首を三つ吊るして帰って来た。
「韓遂と馬騰と王宏の首取れましたよ!」
……だから怖いよ。




