両雄立つも儘ならず
たった三年。だがその三年は盧繁の体を大きくするに余りあった。整った顔立ちから幼さは消えて代わりに精悍さを増す。
まぁ今めちゃくちゃキレてるから精悍さ何て無く忿懣漏れ出た剣幕だが。
「じゃあ後よろしく。白兎さん」
命令する声は優しいが大斧を握る手は怒りに震えている。だから伝令は即座に仕事へ向かった。残された盧繁の前に二騎。
「さぁ我らの相手をして貰おうか!!」
「此の文醜と顔良のな!!」
盧繁は中々出来そうなのが来たなとは思ったが負ける気は一切しなかった。馬を操る巧さから武人軍人としての敬意はあるがそれはそれとして時間がいる。だからこそ盧繁は怒りと忿懣に委ねた表情を浮かべ。
「総大将に一騎討ちを申し込むんだ。どんな相手を寄越す気かと思えば誰だテメェ」
盧繁の形相は神獣のソレだ。獬豸をも喰い殺せよう表情。
逆鱗に触れられた青龍のような瞳で睨み、朱雀の翼が如く迸る怒気を発しながら白虎の様に息を潜め、玄武の様に不動にして王龍か麒麟の様に佇む。
それは紛う事無き人であったが、しかし其れを信じるのは難しかった。
「ハハハ。経験が足らねぇな小僧。そうだろ良さん」
「そうだな文殿。生憎、狙いは分からんが。アレで青いところもある様だ」
顔良文醜はそう言って笑う。必然の必死を前に、至上の至高を前に、身は震える。
だが目の前の青年が無言で切り掛かって来ておかしくない状況でペラペラと、それも武人を挑発する様な品性の欠片も無い類だとは思えなかった。
微笑ましささえ覚える。覚える事ができるのだ。敵にとっても惜しい男達であった。
「……行くぞ!!」
盧繁は止めた。非合理的で良いと。無粋が過ぎれば自身が耐えられない。
日驥が声に合わせて走り出す。盧繁は右手で大斧を握り右手で腰から手斧二本を纏めて掴む。立髪と馬面で正面から隠して。
対して顔良と文醜も馬を走らせた。挟み討つ形を狙ってか息を合わせる。二本の大刀が羽を広げた。
三騎が馬蹄を鳴らして迫る。日驥が頭を下げてボッと音。纏めて投擲された斧。
「な!!!」
「く!!!」
顔良文醜は意表を突かれたが弾いて見せた。だが文醜の大刀の刃は半ばから、顔良の大刀の刃は切り落とされてしまう。それでも唯の棒となった得物を振った。
一騎と二騎が交差するに合わせて。
ゴウと、いや轟と。炸裂した爆音、消え失せる顔良文醜。衝水湖に四つの水柱。
「今だ!!! 突撃いいいいいい!!!!!」
盧繁の号令で盧繁軍が一気に動き出した。
〓袁紹〓
うお!! ら、雷鳴? いや、いったい何だ今の音は……。
……顔良と文醜は何処に?!
「今だ!!! 突撃いいいいいい!!!!!」
な、は? 何処に?
「伝令!! 左軍が後輩より奇襲を受け混乱しております!! 援軍を!!」
「伝令!! 右軍が側背から攻撃を受け混乱。何将軍が討死!! 張寧国中郎将と高将軍が押し留めていますが劣勢!!」
「閣下!! 此の戦場は!!」
「如何か!! 撤退の下知を!!」
「あれは止められませんぞ閣下!!」
顔、良……文醜? どこだ。
「閣下!!!!!!」
——ッ!!!
「田豊……、……先生」
「……。閣下、負け戦でございます。アレは止められませぬ。出来れば近場の城に逃げなされ」
「な、鄴城は!」
「命と城!! 何方がお大事か!!騎兵は敵の方が上!! これ以上は申さずとも分かりましょう!! 一刻を争いますぞ!!」
……いや、だが!!
「袁紹のボケは何処だアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」
……!! 血の、津波?!
「撤退!! 撤退だ!! 高陽へ撤退!!」
ああ……俺の軍が、天下が、崩れていく。
「逃す訳ねぇだろうがァッ!!!!!」
……人が、弾け飛ん!!
「ああああああああああああ!??!!?」
離れ、離れなければ!!
嫌だ!!!
嫌だ嫌だ嫌だ!!!!!
嫌だ!!!!!!!
「フグゥ……もぅ嫌だ!!!!!!!」




