虎踏んじゃった虎踏んじゃった 踏んづけちゃったら、もう、ね?
涼州勢が申し出た降伏を長安の司徒王允は拒否。行方知れずとなっていた皇帝は河東郡安邑県にて声明を発表した。端的に王允と呂布は死刑とするが并州勢は首で大赦。
呂布が逃走し張遼が降伏。涼州勢は朝廷軍と合流。そこから一年程は良った。
「李傕と郭汜が仲違い、またですか……」
表情は変わらない。変わらないが辟易とした事がありありと分かる声色。尚書となった賈詡が溜息を漏らした。
元来の董卓麾下で中郎将を拝命していたのは董越、段煨、牛輔、徐栄の四名である。
この内で董越は李傕に殺され、段煨は弘農郡華陰に駐屯して距離を置き、牛輔は李粛の撃退以降行方不明であり、徐栄は幽州勢の筆頭として朝廷の内に組み込まれていた。
その為に涼州勢は元は校尉の李傕、郭汜、樊稠、張済が発言力を競う様な形になっているのだ。ただ張済は南陽へ避難している。そう避難する必要があるのだ。
だが賈詡は喪に服す必要があった。李傕と郭汜が仲違いをはじめ董卓の武曲であった樊稠が仲裁をしている状況なのである。喪に服す前にその樊稠へ状況を伝えある説得をする必要があるのだ。
「ほんと面倒くさい……」
そう言いつつ賈詡は歩み始めていた。
「ああ、よく来たね賈討虜ど、失礼。今は、えーと、アレ。陛下に何か色々と報告する。なんて言ったけ……」
「……尚書の事でしょうか」
「あ、ソレ。ソレだ。
賈尚書殿。御無礼を働いた。文官のアレコレはよく分からなくて。すまない。
よくいらしてくれたな」
快男児を絵に描いたようなムキムキマッチョマンが賈詡を出迎えた。涼州勢で最も部下からの好感度の高い男たる現右将軍の樊稠である。彼は快活な顔に苦笑いを浮かべて頭を下げた。
「お気になさらず。私も覚えられぬ事はとことん覚えられません。お邪魔致します」
「ああ、そう言って頂けると本当に助かる。ささ、こちちらへ。誰か、酒を!!」
樊稠は豪快に腰を下ろし、また豪快に酒壺を二つ。自分の方に置いた湯気の揺蕩う酒を鼎に入れて一飲み。
「さて尚書殿。どうしたのかな。喪の前に来てくださったのだ。相当な要件だろう?」
「まさしく。李将軍と郭将軍の事です。厳密に言えばその仲裁」
「ああ、それか……。すまないとは思っているが。いや、違うな私の力不足だ」
賈詡は首を振る。
「いえ、貴方以外で仲を取り持てる者はおりません。寧ろ良く決裂させずにいると人徳に感服するばかりです」
樊稠はモニョっと照れた。
「そして、とても申し上げ難いが樊将軍には、その仲裁を止めて出来れば軍を長安に退いて頂きたいのです」
「な……?! いや、何故」
「馬騰を撃退し劉焉を撃退した貴方は漢朝に必要です。そして貴方は郭将軍と共に敵を討った。申し上げ難いが李将軍は貴方を公平な仲裁者だとは思えない」
「つまり、何だ? 私を李殿が殺す気だと?」
「そこまでは申しません。未だ、という注釈は付きますが……。しかし、こう言っては何ですが樊将軍も心当たりがあるのでは?」
「う、ああ……。まぁ、な。李傕の奴は自覚はないが董の親分に心酔してたからなぁ。
親分は牛さん何かもそうだが普通にゃ生きていけねぇ類の連中も戦さえできれば懐に入れちまう人だった……。
そんな親分が殺されちまったんだ。せめて同僚の誼で俺が何とかしてたらねぇと李傕の奴が死んじまう。涼州の同胞だぜ、奴ぁ」
「お気持ちはわかります。私とて涼州の男ですから。ですが貴方が死ぬと李将軍どころか涼州人同士で殺し合いになる。
それは貴方と、おそらく数万人の涼州人が死ぬことになるのです。当然ですがその中には貴方の部下も……。
何も李将軍を殺せというのではありません。己の身を守り陣地を変え様子を見ていて欲しいのです」
樊稠は目を泳がせた。よしんば己が死ぬのは受け入れられる。だが部下や同胞の死は受け入れ難い。
大きく息を吸ってから樊稠は腹を決めて賈詡へ視線を投げる。それは戦に臨む様だった。
「賈先生、私はどうすれば良い」
「長安にて皇甫将軍と段将軍が涼州人の統合を図っております。そこで東方の諸将、特に袁紹を抑え込む為に張将軍と共に駐屯して頂きたい」
「成る程、な。……そうさせて頂こう」
「辛い選択をさせました樊将軍」
「いや、此方こそ。気を遣わせたな。感謝致します先生」
賈詡は安堵と共に喪に服し、李傕と郭汜は翌日には殺し合いを始めた。
〓張燕〓
土なんか耕したの、いつぶりかねぇ。
それにしても。
「袁紹と公孫瓚ってバカだったんだなぁ……」
なぁにアレ……。
「ああああああ!! ドイツもコイツも争いやがってイラつくわぁクソボケェ!! 喪中だっつてんだろカスゥッ!!」
あぁ、また蚩尤が怒り狂いながら大地をひっくり返してる。こんな硬い土をどうやってあんな砂みたいに掘り返してるんだ。鋤でどうこうなる話じゃないだろ。
「なぁ、飛燕さん。アレ、ダメだろ。ほら人として」
「ああ白兎。人間の出来るこっちゃねぇ。ぜってぇ逆らうなよ。何があっても牛角様の仇討とか考えるな、考えさせるな、な?」
「いや、まぁ、うん。無理だよ。普通に牛角の大親分が着けてた鉄板見たら無理。何で鉄板に拳の痕が残るんだよ。人間じゃないって。
何時も威勢の良い部下どもが凍えた犬コロみてぇになって全く役にたちゃしねぇもん」
「流石に軍中に押し入って来たって牛角様の言葉は疑ったが。あらぁ先ず真実だな。間違いねぇ」
「いやぁ降伏しといて正解だったね。じゃ無きゃあの土代わりに俺たちが飛んでたよ。うん」
「ああ。牛角様の言う事は間違いねぇよ。盧家の奴僕になってでも敵対だけはするなって遺言してくれたのは助かったぜ。ほんと何アレ」
いやぁ公孫瓚と手を組んで、序でに牛角様の仇討ちをと思ったが……。
拒馬河の堤を治してる光景なんか見ちまったらもうなぁ。まぁ異民族連中と連んでやがるのは気にくわねぇけど。
戦えない奴は私有民として俺達も武曲将として田畑を貰っちまったしなぁ。
「あーーースッキリしたぁ。たまに体動かさないと頭おかしくなる。
酒はともかく肉食えないし!! 何奴モ此奴モ話聞かねぇし!! 劉虞にせよ公孫瓚にせよアイツラァ!!!」
なってるって。頭おかしく。こりゃ気を空さねぇと。
「蚩尤の旦那。お疲れさんです!!」
「です!!」
空気が変わったな。切り替え早すぎてコエーよこの人。回れ俺の舌、俺の首から下はお前にかかってるぞ!
「いや飛燕さん、白兎さん。蚩尤じゃなくて子昌です」
「いえ! 字で呼ぶなど畏れ多いっす。すみません!!」
「ません!!」
「……公的な場ではやめてくださいね?」
えぇー・・・。
「……」
「……」
「何でそこ強情!!?」
これだけはシツコイんだよなぁ蚩尤様は。全く。ケチ。
「それで、です。俺は喪が終わったら洛陽に帰る必要がある。向こうも大概な状況なんで。
ただ邪魔する連中を薙ぎ倒しながら進む積もりですので」
「そんじゃあ俺らも連れてってくださいや」
「いやぁ、十中八九は袁紹とは戦う事になりますよ。黒山賊も食う物があれば賊である必要はないんですから平穏に生きるのも手でしょう。
だから此処の保全を頼もうと思ったんです」
えぇー・・・。




