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虎の尾タップダンス

「ッチ、何してんの?」


 盧繁はめちゃくちゃキレていた。盧繁自身は儒学の孝行の現状に思う所はあるが、この時代の物として尊重しては居て、この時代の父を悼もうと考えている。その邪魔が現れガチめにブチギレている感じ。

 黒山賊とか言う連中を轢き潰した理由にもなるが早い話が袁紹と公孫瓚が戦うと聞いた為であった。公孫瓚と袁紹の所為で一々足止めを食らっているのだ。でなければ黒山賊が居る様な場所など通らない。


「マジでいい加減にしろや……」


 ほんで琢郡の西北に二日か三日ほど歩いた所に薊県ってのがある。現状の幽州の治所に当たるのが此処で劉虞と公孫瓚がギスってる場所だった。ほんでバカみてぇに盧繁に対して使者がやってくるのである。

 有り体に、しつこい。双方共に何か味方して欲しいのは分かるが本気で煩いし煩わしい。偲ばせろやと言う話だった。


「アンタね!! ウチの、その、あの、えっと、だだ、だ、旦那様は喪中なのよ!! どの面下げて来たってのよ!!」

「いや、しかし……」

「私達とても未だ婚約の身の上ですが養父様として喪に服しているのです。貴方の主君は養父様の元で学んだと聞きました。師の息子に奪情の恥をかかせようと言うのですか」

「あの、いえ。その様な」

「子昌様は粗食に耐えておられます。彼の方は人の十倍は食べねば身が持ちません。それを人と同じ様に食し酒は元より飲みませんが肉まで断っている。それは前も申し上げた筈ですかが」


 三人の妻が使者を詰めている。門衛家人を押し除け盧毓を押し除けた結果だ。盧繁はガチでキレていた。


「伯継殿」

「ろ、は……」


 ヌッと三人の妻の頭越しに盧繁は務めて笑顔を浮かべて出た。内心ブチギレてるのを必死に隠しつつ全然隠れてねぇだろうなと思いながら。顔面の筋肉と言う筋肉を総動員して表情を作る。

 それは使者の心臓を鷲掴みにする笑み。飢餓に狂った猛獣という凡そ正当にして真っ当な印象を叩き付ける。メチャクチャ青筋浮いてるし口は弦月の様に引き絞られて引き攣ってるし目は笑ってない笑み。ほぼ威嚇。


 使者こと公孫続はブワっと身を粟立たせ諾々と汗を流し身を固める事しか出来なかった。盧繁は優秀において幼くして異民族を薙ぎ払い族を燼滅し猛獣を爆散させた男。内心で父親に対する罵詈雑言を並べ立てる事しか出来ない。


「如何なされました伯継殿」


 尚、昔の呼び方は続の兄ちゃんである。なるほど今の呼び方は礼節には則っていた。そう礼節だけには則っている。


「いや、あの。その、そう余りにも使者を出した事を詫びようと思ってな……」


 公孫続は恐怖により今、大正解を引いた。


「ほう」


 盧繁の表情は変わらない。変わらないが話を聞く気にはなった。必死過ぎてわからないながらも公孫続は言葉を重ねる。


「幽州一帯の大事だ。父上も状況を憂慮し事態を変える一手を欲していた。だから無礼を承知で無茶をしてしまった。不躾な事をしたと思う。申し訳なかった!!」


 そう言って頭を下げる。


「……その言葉をお忘れなき様に願います。喪中の殺生は避けたい。また薊の棘が煩わしいからと薙ぎ払い焼き払う様な勿体無い真似もしたくは無いですから」


 すっげぇ雑に意訳すると『オマエら次来たらブチコロスからな』である。何がヤベェってマジでそそれが出来ちゃう事だ。盧繁に付いてきた五百の兵はそれだけの力があった。

 少なくとも幽州に於いて対抗し得るのは白馬義従のみと目される戦力である。いや鉄甲を纏うが故に弓騎兵が主体の白馬義従でさえ正面戦闘では勝てないと見られていた。だからこそ劉虞と公孫瓚は盧繁を味方に引き入れねばならないのだ。

 そりゃもう毎日使者を送り劉虞と公孫瓚の使者がひっきりなしに門の前で罵り合いをするくらいな必死さで。


「尚、これは襄賁候の使者にも伝えます」

「わ、わかりました……」


 公孫続は項垂れて帰る。それを見て期待しながら盧家の屋敷に入った劉虞の使者も同じ様に帰ることとなった。


 〓公孫瓚〓


「何を考えている!!!」


 この……ッ!!


「ッグ!!」

「俺の平手如きでふらつきおって!! 鍛錬が足らん!!」

「申し訳ございません」

「お前は将来白馬義従を率い天子の敵を鏖殺しなければならん!! そんな事で如何すると言うのだ!! いや、今はいい……」


 全くドイツもコイツも!!


「先生の御子息の事だ!! 百々の詰まり顔を見せるなとそう言われたのだな!! 如何なる無礼を働いた!!」

「それをしたのは私ではなく父上で御座いましょう!! 余りにも度が過ぎると皆が申し上げた筈です!!」


 ……確かに。


「と言うか!! 礼記の注釈を成さる方に師事を受けて何故この様な!! 孝徳を広げるどころか邪魔した様なものでしょう!!!」

「ぐぅ……」

「ぐうの音出てるじゃないですか!!!」

「そうだな。認めねばなるまい。打った事、すまなかった」

「……いえ。気持ちはわかります。

 行き詰まりを見せる現状で黒山賊を文字通り轢き潰した戦力を持った男が知り合いなのですから。

 冷静で居られなくなって当然でしょう」


 ……そう言ってくれるか。うむ!!


「続よ。一発は一発だ。貴様の拳の威力を父に教えてくれ!!」

「……はい?」

「ハッハッハッハッハ!! 遠慮するな!! さぁ来い!! 成長を見せろ!!」

「大丈夫なんです?」

「くどい!!!」

「で、では」


 ん? 随分しっかり構えるな。


 え、腹——。


「——ゴッヴォッ??!!! っおグゥ……」

「だ、大丈夫ですか父上!!」

「お、お前、腹はお前……」

「え、子供の頃の腕試しでは無かったので?」


 あ、そう言えば続が幼い頃に腹に力を入れて殴らせてたような……。


 そうだ。確かお前もこれぐらいは鍛えろと。


 ……しくじったァ。腹がぁ。


「いや、しかし良く立っていられましたね父上。無警戒に腹殴られて膝をつかないのは流石です」

「白馬義従の頭に、コヒュー……。不可能は、あんまり無い」

「まぁ盧家に使者を出すのは控えましょう。ですが琢県の商人に詫びの文だけでも出してみては? 些か以上に迷惑をかけましたから」

「良きに、計らっといて……」

「大丈夫です?」

「……大丈夫!!!」

公孫続・伯継

字は適当。公孫瓚の息子。公孫瓚の伯珪または伯圭みたいに伯に同じ意味の漢字にしようとしたら何かしっくりくるのがなくて継にした。


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