なんか獅子と虎が戦ってたらしいよ
ここまで呼んで頂き有り難うございました。
暇つぶしになれてたら幸いです。
司州河南尹の洛陽より南方に四日か五日程歩いて到着する汝水南岸の地に梁県はあった。
「はい。急いでねー。アッチに車があるからねー」
盧繁が子供達を引率していた。父が賜ったコウ氏県に住まわせた匈奴の協力を得て荷物や子供達を長安に運ぶ手伝いだ。厳密に言えば牛を借りて白波賊だった兵に護衛と先導をさせてる。盧繁自身は匈奴騎兵を率いて実質的に徐栄麾下として動いていた。
「我等は白波〜挙げよ鯨波〜。背負う荷物に垂らすは一物。俺もお前も晃来晃去〜」
したら馬車の周りで軍歌が聞こえた。行進用に作ってもらった曲。それを兵達が一部替えて歌ってるのだ。
「コラ!! 子供の前で替え歌の方を歌っての誰だァッ?!! 教育に悪ぃだろォッ!!」
流石に盧繁は怒った。五つか六つ程の子とているのだ。時代的にアレだが。
「ヤベっ!!」
「バレた!! 逃げろ!!」
「出発だ出発!!」
盧繁の声に兵達が慌てて牛を進ませた。少し兵達を睨んでいたが仕方がないと溜息を一つ吐いて。
「……全く。ハイ。んじゃあ皆も車に乗ってねー。気をつけてね」
子供達を乗せていく。五戸で伍、十戸で什、百戸集めて里となる。里は里魁または里正が統べて里を集めて郷という。これが県であり軍制の根幹。
「盧の坊ちゃん!!」
そこへ声がかかり盧繁は振り返えれば、強いて言えば厳つい顔。本人の特徴と言えるのはその程度だった。徐栄の補佐に付けられた校尉李蒙だ。
厳しい見てくれで涼州出身者らしく西域の趣向が強い。と言うのも鎧の上に着物を纏い装飾を凝らした羌族や月氏の様な帯で留めている。その帯からは綺麗な鞘に入った剣を吊るしており、また背中には長柄に鉄球が付いた錘を背負う。
彼もまた涼州の戦乱と黄巾の戦乱を生き抜いた猛者であった。盧繁は軍礼して頭を下げれば下馬して同じく返される。李蒙が来たのであればある程度の予想は出来るが口を開く。
「これは李校尉。如何なさいました?」
「物見が軍勢を見つけたぜ。言い難いが……。東だ」
盧繁は瞳を閉じ大きく息を吸って、吐いた。予想通り嫌な予感は良く当たる。そう忿懣を吐息で吐き出して。
「東に行けば穎川だ。であれば養父の指揮下でしょうね。お気遣い感謝します李校尉」
「ああ、まぁ、なんつうか。気を落とさねぇでくれ。坊ちゃん」
盧繁は頷いて斧を握る。
鎧は官軍となって支給された筒袖鎧。その上に昨年狩った赤熊の毛皮を羽織っている。下は大きな毛皮で隠れているが腿裾を纏っていた。明光鎧を下賜される話もあったが成長途中だから断った結果だ。
月驥と星驥が近寄って。
「李校尉。行きながら説明をお願いします。徐中郎将は攻撃をなさる気でしょう?」
盧繁が月驥に跨りながら問えば李蒙は頷いてからサッと馬に飛び乗って。
「ああその通りだ。俺が来たのも半分は作戦を伝える為だ。敵は如何やら兵を休めてる様だから俺が羌の騎兵を率いて突っ込む。それで徐の旦那が烏丸の騎兵で追撃だ。
ってな訳で坊ちゃんにゃ迂回して欲しいんだよ。連中は川沿いを進んでるから上手くいきゃあ撃滅出来る」
「分かりました。であれば使えるのは匈奴の騎兵のみですね。残りは梁県の防衛に回ってもらいましょう。梁の守将は何方が?」
「俺達は騎兵しか連れて来てねぇ。何せ守るのは苦手だしな。旦那のとこの李象のヤツが指揮を取るってよ」
「分かりました。大賢爺様!! 徐中郎将の李従事が指揮を取ってくれるとの事です!!」
盧繁が声を張れば白い頭巾で揃えた兵達の中からズンズンと筋肉が出てくる。丸い目と丸い顔と丸い体の筋肉モリモリ爺ちゃん。軍礼を一つして先に梁県庁へ向かう彼を少し見送ってから。
「じゃあ行きましょうか李校尉」
「ああ!」
盧繁は知らなかった。誰かが発狂して虎となるかも知れない土地かも知れない地に来た男が後に虎と渾名される男である事を。とは言え知ってようが知らなかろうが結果は変わらなかった。それは間違いない。
〓盧繁〓
県庁には県令と県尉、それと徐中郎将のとこの韓従事と李従事。ウチのトコは典農都尉として郭の爺様と従事に楊子戴、韓陽昇だ。
さぁて。どうすっかな。だいたい敵は誰なんだか。橋さん張さん辺りだと正直やり難い。紀の兄さんだとナメると殺される。
「お待たせ致した」
……徐オジちゃんマジライオン。登場してそのまま上座に座った。対になる狛犬は何処って感じだな。
「物見を出したところ敵軍は孫の旗を掲げていた。区星征伐を成し遂げ荊州刺史を討った孫堅に相違ないだろう。難敵に相違ない」
徐栄はドンと地図に手のひらを乗せた。
「だが今ならば撃滅さえ適う。南西から北東へ流れる汝水に沿って敵は進軍し十里先の亭の周りで軍勢を休ませているそうだ。此れを騎馬を用いて急襲し撃滅する」
こりゃあ俺が聞くべきだな。
「徐中郎将。では歩兵は如何致しましょうか。退路たる此処の防衛を?」
「うむ」
「では指揮は其方にお任せ致します。此方は数は多いが同時に新兵が多い」
「分かった。では梁の防衛指揮は従事の祥牙が担う。李校尉!!」
「は!」
「敵先陣は三千程だ。いけるか」
「蹂躙いたす」
「良し!! お任せする。北中郎将!!」
「は!!」
「北中郎将には迂回し敵を待ち伏せて欲しい」
「承知いたしました」
「頼もしい。ただ北の山には薪を集めに行くかもしれん。それだけ気をつけて頂きたい」
「御忠告感謝致します!」
「では各々、勝とう」
「「「「「応!!!」」」」」
ッシャアオルァ!! マジやったったんでオラァ!! ……ん?
地図と軍議に集中しててアレだったけど敵って孫堅? 孫堅。……孫堅?!
え、コレ俺マジで気張らんと死ぬくね? めちゃくちゃヤベェ。
「どうしタ盧大人」
あ、オフラハーン。もう馬のとこまで来てたんか俺。もう向こうの言葉じゃねぇとな。
『オフラハーン。大将達が強敵の寝込みを襲う。俺達は迂回して逃げる敵を待つ。えーとアー、作戦なった』
「止メが仕事カ。正に狩りダな。案ずるナ。得意分野ダ。奇襲の準備するゾ」
『心強い感謝する』
さて、道はまぁ大回りするしかねぇわな。この時期だと無理に渡河は出来んし。村人とかには見られるってのは避難させたから大丈夫だが。
『静かに、だが急ぐぞ』
手を前に振っただけで匈奴の騎兵は後に続いてくれる。っていうか当たり前だけど馬操るの上手すぎだろ。ガチで音一つ立ててねぇじゃん。
いや、なんなら俺が一番チャラっチャラ煩いわ。鉄製の鎧着てるから布で防ぐにも限度があるとはいえこうも違うか。こんな事なら革鎧とか作って貰えば良かった……。
あ、アレが敵軍か。遠くてボヤけてるが孫の旗が見えるな。幸い湯気が見えるから飯の途中か。とは言え気を付けねぇとバレちまう。雪が幸いってとこだな。
コエェ……。もう少し時間が過ぎれば夕方だが、夜は危ねぇし。急ぐべき時こそ急がず騒がずってか。
俺は此処に残って先行って貰おう。絞って千騎とは言え数が多いな。いや下手に少数だと奇襲の効果が減っちまうけど。
……。
…………当たり前だけど馬術上手ぇな。
………………敵は飯食いだしたなアレ。
…………俺より年下じゃない? 今の子。
……。
……さて、先頭に戻るか。
此処は山と川が近い。木も多いな……。小山の裏手側に隠れれば戻る敵には見えない。
手を振れば意図を汲んでくれる。マジで助かるわ。つーかコレだけで突撃出来るように整列するの何? 伊達に数百年後に世界席巻するモンゴルの前身じゃねぇわ。
さて……暇。いや普通に暇なら良いんだけど黙ってないといけないのキツい。移動は気を張ってたから一息吐きたいが。
奇襲中だもんなぁー。そうもいかんしー。あー、暇ぁー、めちゃ暇ぁあー……あ。
「いた」
あ、違う違う。
『来たぞ』
肩から二の腕を真っ直ぐ、肘を直角に曲げて挙げた掌に視線が集まるのが、わかる。
赤い頭巾、兵は十数。アレか?
『構え!!!』
俺は大斧、強度の皆は環手刀とは違って湾曲した刀とか槍とか矛とか弓とか。
『攻撃!!!』
馬蹄が鳴る。敵が気付いた。星驥の立髪が炎みたいに逆立ってその先に白い大地、驚愕する十騎ばかり。その奥に汝水が流れてる。更に向こうに白の平原が広がってまた山だ。
風が気持ちいい。匂いは臭い。敵までほんの少し。近づく近づく。斧を構えりゃ俺を何本かの矢が飛び越えて敵に吸い込まれる。
上手ぇ。先頭の足を止めた。助かる。
頭巾。騎乗してる。馬は高ぇ。
孫堅じゃねぇなコイツ。
なら。
「オラァッッ!!!」
「ゴヴォッ……!!」
オッシャア!! クリーンヒットォッ!! ボケェッ!!
「で、誰だアンタぁ……」
「ゴフ、ゴホッ。お、俺が孫堅だ。ケフ」
……時間もねぇ、か。
「俺は知り合いだよ。時間稼ぎはしないってこったな? じゃぁ、さいなら」
忠誠心の厚い人だったな。
『首を包んだら敵を探す』
『分かった大人』
『コチュウセンさん。対岸には行ける? だいぶ寒いけど』
『敵の大将が逃げたかね?』
『たぶん……。囮が先頭でしたから。囮がこの逃げかたは、おかしい』
『確かにそうだな。だが馬が死んでしまう。川が凍っていれば話も変わるが』
『んじゃあ、運に任せて敵兵を討つとします』
『そうか。それが良い』
さっさと馬に乗るか。汝水を遡れば敵もいるだろ。その後は、さて。
まぁ今は目の前の事だな。
『出発!!』
李蒙・啓明
字は適当。啓蒙の啓と蒙の逆の意味の明でエエかってやったらなんか明けの明星って要は金星とか出てきちゃった。徐栄と一緒に色々やった人としてちょろっと出てくる。
李象・祥牙
正味オリキャラ。李蒙が書き間違えられて李象って書かれてる物があるらしい。何に書いてるのかは知らんけど。
楊奉・子戴
字は適当。白波賊の一人。
韓暹・陽昇
字は適当。白波賊の一人。




