表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
盧植のおそらくは居ただろう子供に転生?した系三国志の話  作者: 凡凡帆凡
だからァギチギチ過ぎんだってこの辺!! 二、三年掛けて起こる様な事が一年どころか半年で起きてんじゃねーか!! 編
32/44

歌舞伎で白波賊が元の白浪物ってのがあるらしいんだけどあんまり白波賊に義賊イメージがない......

 

 白波谷に郭泰、字を大賢という老人が居た。十万もの配下を率いる賊とは言え当に大将と呼ぶべき者である。そのゴリゴリの筋肉達磨爺さんが口を開く。


「……話と違うんですが」

「ま、待て、私は——」


 言葉は丁寧だが含まれる色は憤怒の赤。曇天の内に底篭る雷の如き声。右手の二本指は顳顬に添え左手で内通者の頭を掴む。


 郭泰は丸い。大きく丸い岩だ。彼が掴むのは枝の様な男。非常に理性的な眼を異常なまでに熱して睨む。岩漿に勝るとも劣らない怒りの眼差し。


「ええ、まぁ私個人と致しましてはハナから当てにはしていませんでした。ですが貴方が私の友柄達を扇動した事実は相違なき事。私の様な者を大賢などと呼び付き従ってくれた者達の貴方は仇だ」

「ま“、ま”で……」

「ですが顔も知らぬ貴方の主人には感謝していますよ。何せ友柄達が食うに困らずにいれたのは貴方方のおかげだ。まぁ顔を見せた張譲程に信用できた訳では無いですが」

「お“お願いだッ待って!!」

「韓頭目」


 一人の頭目が肩を跳ねさせる。匈奴との連携や此の使者を連れて来た片翼とも言える韓暹である。白波賊の中でも外交と言うとアレだがまぁ外部との提携などで重宝されていた。だが現状その立場は危うい。


「同郷の者を殺すのは忍び無い。ですが貴方の為にも」


 そう言うと郭泰は手を広げた。使者が地に落ち咳き込む。それに近付いた郭泰は足を上げて。


「フン……ッ!!!!!」

「ッギぃあ“あ”あ“??!!!」


 一瞬の内に発された重い気合い。使者の膝を踏み砕いた。


「貴方が殺しなさい。貴方の為に」

「へ、へい大賢様!!」


 大敗してから周りの目が日増しに鋭くなっていく事に怯えていた韓暹は万感の感謝を捧げながら息を吐く様に剣を抜いて血を這う使者に突き立てた。

 喧しい悲鳴と静止が響く。退路を絶たれた賊達が責任者の惨状を白けた目で眺める。肉を刺す音が重なる。


「ハァ……ハァ……感謝します!! 深く感謝します大賢様!! 俺ぁこんな事になるなんて!!」


 何度も刺しながら狂った様に刺しながら狂態を晒して韓暹は剣を突き立てる。何度も何度も何度もだ。そうして韓暹が息絶え絶えに使者が息絶えて。


「さ、皆さん。此れからです。と言っても皆揃って討死と言う前提の逃走ですが。戦え無い者達は私達が脅しつけたとでも言えば良いでしょう。さて貴方は如何します? 攣鞮単于」


 視線を受けたのは異民族。弓を背負い毛皮を纏う匈奴の壮年男性。だが心身が酷く老人の様に萎びていた。


「帰る場所も無ク、帰る術も無イ。このオフラは同胞逃ス。大賢にも世話なタ。オマエも逃ス」

「深く感謝します大人。では私と共に夜半に先陣を切って頂きましょう。出来うる限り暴れて皆を逃すのです」


 泰然と言う郭泰に皆が覚悟を決めていく最中に酷く早い足音がして頭目の一人にして片翼たる楊奉が立ち上がった。楊奉は武力80から90辺りで他のステータスが高くて30くらいの見た目だ。


「どしたアッ!!!」


 対して駆けてきた青年は武力と統率が少なくとも90は有りそうだった。将来有望って感じである。彼は問われ慌てた様に。


「頭!!! 大頭ァッ!!! 朝臣を自称する俺くらいの年の奴が降伏勧告に来た!!!」

「馬鹿か徐晃オメェ!!! おちょくられてんだよ!!! 今すぐにブッ殺してこい!!!」

「いや、でも……!!!」

「もう良い!!! 休んでろ!!! 俺がブッ殺してくる!!!」


 皆と一緒に思いっきり耳を押さえていた郭泰が立ち上がる。


「待って下さい青年。その使者は名乗りましたか? 盧子昌と名乗りませんでしかたか?」

「な、名乗っておりました」

「直ぐに此処へ。丁重に迎えてください。皆も手出し無用と通達を」


 白波賊では珍しい事に郭泰の命令に返されるのは疑問の表情。


「彼程の年月で朝廷に支えていておかしく無い者が一人だけ居ます。大人はともかく皆さんは聞いた事があるでしょう。数万の軍勢に単騎攻め込んだ少年の話を」

「……広宗の夸父児(足早子供巨人)


 青年が呟けば郭泰が頷く。


「かの子供は儒学者盧植の子息と聞きます。また皇帝陛下の強い要望で羽林として側に置かれたとも。であれば奸臣奸賊とは違う」

「大賢様としちゃあ話をする価値はあるって見込みなんですかい?」

「そうです楊頭目。それしか手がない。それが実情ですがね」


 少しの期待、大きな恐怖。それらを混ぜた緊張と共に朝廷の使者を迎える事を白波賊は決めた。


 〓盧繁〓


 ……賊って割には身綺麗だなムサいけど。


「良くいらっしゃった使者殿。戦場故に碌な物も出せず恐縮だが。まぁ一先ず座ってください」

「失礼致します郭大賢殿、御言葉に甘えて座に腰掛けさせて頂来ましょう。戦場であれば十二分過ぎる御配慮としか申せません。郭大賢殿、騎都尉盧子昌、感謝致します」

「……それで此度の御用件は」


 話早くて助かるわ。朝廷だとバカみてぇに迂遠な物言いする奴いるし。楊脩とか、あと楊脩とか。


 ……楊脩くらいしか居なかったわ。


「勧告です。山東で起こる賊軍の対処も準備は終わりかけ。涼州の乱は近々沈静化します。ですので——」


 あん? なんかスゲェ吃驚してんな。


「山東で起こる賊軍の対処?」

「ええ、はい。虱潰しにしていきます。そちらの準備で大尉殿はいらっしゃって居ません。今回の勧告が受け入れられなかった場合は出陣なさるかもしれませんが」

「何と最早。董前将軍が出て来たと思っていたのですが。驕っていたな……」


 何か黙っちったけど。


「それで盧騎都尉。勧告の内容を教えて頂きたい。状況が状況、協議もしますが内容によっては御受けするつもりです」

「降伏するのなら白波賊は私の麾下で働いて頂く。当然ですが何かあった場合は私が責を負います」

「ほう?」

「号して十万の軍勢。それは今回の戦を鑑みれば平地呼べるのは多く見積もって三万と見ました。後は女子供でしょう」


 黙ったな。見定める様な目を……まぁ俺の年齢考えりゃそうらそうか。


「実態を言ってしまえば苛政に喘いで流民とかした者達。ですので一万を兵とし、二万を屯田兵とし、残りを屯田民としようと考えています。まぁこんな小僧を信用し難いのは分かりますがね」

「それが本当なら受け入れましょう」

「そりゃあそ……ん?」


 アレ? 俺の耳狂った? ン?


「え、受け入れるって言いました今?」

「はい。受け入れると言いました」

「あの、失礼を承知で何故ですか? 言っておいて何ですが信用出来る要素が一つも無いでしょう。証拠は一応持って来ましたが」

「おお、それは是非確認したい」


 あ、えーと詔勅、詔勅っと。


「兵には父上の塾がある河南郡コウ(糸編に侯)氏県に駐屯してもらい同地にて開墾をして頂く形を考えています。戸数を伺ってからになりますが列侯相として父上の弟子に当たる高文礼先生が実質的に立つ形で。

 それで、その、お受けして頂ける理由は一体何故でしょうか。漢朝に対しての信用は既に無いと考えていましたが」


 ……いや。待て、時間か?


「……それは。もう現状に耐えられぬ者が出ています」


 やっぱり。そらそうか。


「納得頂いた様ですね。御察しの通り黄巾蜂起に便乗して立ちもう五年になる。此処までくると協力者も減るのです。

 実際に我等は窮乏を始め自警団に返り討ちに会った事もある。私も歳で人一人持ち上げるのが精々。それに盧先生に悪い話は聞かず貴方は若き勇者と聞いた。

 朝廷が許してくれると言うのなら、我等の命を長らえてくれると言うのなら、それは受け入れるに余りある」


 いやエグい切実だな。まぁ勝ってりゃ別だが折れかけてた所にボコられて、挙句に逃げ道も無くなりゃ心も折れるか。こう言う時は動くに限る。


「では先ずは貴方を典農都尉とし兵の指揮官、武曲や従事の策定をお願いします。兵の方は共に来て頂き屯兵や屯田民は順次と言う形で移動を」

「承った」


 よし。そんで。


『オフラ、ハン、これデ、通じるカ、話』


 うお! こっちが吃驚するぐらいスゲェ吃驚した顔しやがった匈奴の爺さん。あービビった……。急に立つんだもん。はー。


『驚いた。我等の言葉を使えるのか』

『ヘタ、スマン』

『珍しい事もあるものだ。東の連中訛りだがわかるぞ』

『それ、良かった。俺、漢朝の使者。名、盧繁、字、子昌いう、ます』

『何だ。我等への宣戦布告か。それとも死ねとでも言うのか』

『前にキタ、オフラ、ハン。その時、漢朝、コンラン、してた。受け入れる、ムリだった。デモ、今、違う』


 あー喋りにくい。えーと。たしかぁ。


『漢朝、仕える、約束。する、ある、今、だったら、全員、受け入れる、出来る。漢朝、俺、盟約、出来る』

「……もう良イ。其方の言葉デ話セ」

「ああ、すみません。では御言葉に甘えて。

 オフラ単于が故郷に帰れる。そうなった際はまた話し合いとなりますが、幾ら放浪の旅を好む貴方方でもそろそろ一度腰を落ち着けたいのでは無いかと考えての交渉をしたいと考えています。

 彼等白波と共に今降ってくれるなら黄巾の活躍の事も踏まえて融通が利かせられると言う程度の話になりますが」

「盟約の内容ハ?」


 お、好感触?


「端的に言えば此れまでの様に漢朝へ騎兵の供出をして頂けるならその対価に穀物を融通します。また状況に応じて別の地へ転居して頂く事は有るでしょうが、穹廬を建て生活できる土地を此方で見繕う用意が出来る状況となりました。

 若輩の私では不安かと思いますが父と董大尉および袁太傅の連盟で約束いたします。私も血判の用意があります」

「……考えル時間ヲくれ」

「もちろんです」


 おお、匈奴の人が更に2人来た。聞こえる感じだと不審3、諦念3、妥協4ってとこか。でも話の纏りは早そうだな。


「漢朝に降ってもイイ」

「何か条件が?」

「我等の法は如何なル」

「私達が指定した範囲の土地では貴方方の法を優先します。ただ折り合いで如何しても法が執行できない場合は有り得る。その場合の贖いは別途相談したいと考えています」

「ならば、イイ。違えてくれるナ。ロシハン」

「必ず」


 さーて後は受け入れ準備、さっさと進めねぇとな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ