人中と人外 人外ってかゴリラ ゴリラってかドン◯ー バナンザの方のド◯キー Switch2 持ってねぇけど
袁紹が礼儀正しく出て行った広間で説明は続く。内容としては皇帝の意向の通達と政治行動の折衝が中心だ。特に重要なのは廃位と言う非常にナイーブな話で此処を疎かにすれば味方を酷く減らす事になる。
「皆驚くじゃろうが此れは事実よ。陛下には殿下となって頂き殿下には陛下になって頂く。でなければ陛下の玉体が危ないのだ」
董卓、袁隗、盧植を中心に作られた派閥の説明会も佳境に入っていた。身内に入れた者には情報を開示すると言う姿勢。それも事実で有るが実際は選別準備だ。
情報を教えた結果、何処が如何動くか。それによって敵味方を選別する。そう言う思惑だった。
「理解は出来ますがねぇ……。いやは何とも」
飲み込めないとまでは言わないが飲み込み難い。そう言う表情をするのは北軍中候の鄒靖だった。他の特に武官は似た様な表情で複雑な心情を見せている。
先ず武官の大半の者が最初こそ縁故とは言え大将軍何進に対して好意的である。そうで無くとも大将軍以上に宦官は嫌いで宦官を保護した何皇后が嫌いだ。そんな何皇后の息子である劉辯よりは心情的に劉協の方が好ましかった。
とは言え皇帝を挿げ替えると言う行為に対する忌避感は強い。それが例え皇帝本人の考えでも複雑な事には違いないのだ。
「まぁ気持ちは分かるが陛下の意思だ」
董卓がそう言えば皇帝と陳留王を救った功績のある男の一人を無視できる者は居ない。また董卓が言っているが袁隗も盧植も否定しないのであれば政治的にも道義的にも不足はないのだ。そもそも同意こそし難くとも露骨な反対が出来る状況ではない。
「一先ずじゃ。これより——」
袁隗が口を開いたがスと一人が立ち上がる。
「皆様、武器をお持ちください」
それは盧繁である。即座に父が剣を抜く。董卓も続いた。
そして兵を連れた男が現れた。漢服を纏うが野蛮を絵に描いた男。異民族より蛮人の様だった。
「オマエ等に謀反の疑いが掛かっている!
摂生太后の詔勅により此の執金吾丁建陽が身柄を拘束する!! 死んで晒されたくなけりゃ大人しくしやがれよ謀反人供!! さぁ此奴等を全員取っ捕まえて牢屋にブチ込め!!
ヴァハハハハハハハハハハハハハ、ア?」
青年が真っ直ぐ進んで行く。手には鉄剣を握り淡々と進み、執金吾丁原の前で止まって目線を合わせた。丁原は青筋を浮かべ剣の柄を握る。
「……あんだクソガキィ。俺様を知らねぇかァッ!! 此の幾千幾万の賊を鏖殺した此の俺様しっ——!!!」
部屋にいた面々も兵も誰もが困惑しながら左右に視線を揺らした。酷く妙な事にッボという音の後に気が付けば丁原が消えていたのである。ただ拳を振り上げ青筋の浮かべた青年だけが残してだ。
「よりによって罪の無い俺の父上を牢に入れるだとテメェ等!!! 俺の前で其れを言う相応の覚悟は出来てんだろうナァッッ!!! あの左豊とか言うクソ宦官の猿真似をするその覚悟をッ……!!!」
悶絶して言葉の代わりに炸裂したのは憤怒の気炎。
鉄拳を振るったので抜いた意味の無かった鉄剣を執金吾の兵に向けて。傍になんか丁原っぽいのが落ちたが瞬きさえ無く迸る憤怒を発し豪炎を錯覚させながら怒涛。双眸は暗闇に潜む獣の様で火山の様に怒り狂いながらしかし肝を冷やさせる。
全員の顔を覚えたと言わんばかりに執金吾の兵全員を睥睨してから。
「掛カッテコイヤアッ!!!!!」
瞬く間にしかしズンと左足を前に。その踏み込み一つが床を凹ませ放射状に亀裂を刻んで見せる。ドッと全身に力が込められて。
「待て繁!!!!!」
父の言葉にビタリと止まった。盧繁がス、と構を解き剣を鞘に戻す。だがそれは触れば大爆発する。誰もがそれを理解していて誰もが動けなかった。ただ父親を除いて。
「太傅様、董殿」
「あ、う、うむ。張温よ!!」
袁隗が何とか声をあげれば屈強な男がビクリと肩を跳ねさせてから立ち上がる。宮廷の守備兵を統率する衛尉の職に付く男だった。
「は、はい……? な、何でしょうか?」
「先日より陛下は宮城を締め切る様に命じていたな!? 人一人通してはおるまいな!!」
「は? ……! はは! 確と!!」
「前将軍殿、そういう訳じゃ。此の状況下で騒乱を起こす逆賊である。偽勅を用いたともなれば処罰も止むを得んが」
袁隗が執金吾の兵達を見れば意図に気付いた董卓が一息吐いて。
「ああ、いや状況が状況だ。普通に考えりゃあ兵も騙されて従っただけだろうよ。袁太傅も酌量の余地はあると思うだろ?」
「うむ、言われてみればそうじゃのう。此の荒れ果てた状況もある。否定は出来んし拒否も出来まいな。では前将軍殿に任せようかの」
「分かった。おい! 并州勢! 残りの連中の中での代表は誰だ?! 出てこい!!」
董卓が問えば丁原が打ち上げられて倒れた結果立ち位置が先頭に代わった男が困惑と恐怖と切迫の表情で前に出た。更に丁原を睨みながら盧繁がバチギレてなければ目を引いただろう美男子が続く。
「お前らの名は?」
先ず普通にガタイの良いのが拱手して崩れる様に跪く。それは巻き込まれた理不尽に震え涙を流しながらの物。
「執金吾丞、李粛、字は子呈で御座います!
我等は唯命令に従っての事! 勅の偽造など思いもよりませんでした! どうかどうか寛大な処置を願います!
ああ偽勅だなんて、何で……」
「じゃあ逆賊を殺せ。それでお前らの面倒は俺が見てやる。安心しな」
董卓は優しく言った。反応を見れば命令に従っていただけなのは確かで他の兵も怒るか恐るかだったからだ。彼等にしてみれば気付けば逆賊という最悪の状況で、そりゃあ誰だって取り乱して当然のサプライズである。いっそ同情さえしていた。
だが李粛は丁原を見て固まりガチガチと歯を慣らして震える。董卓は片眉をあげて。
「何だ。出来ねぇか」
「宜しいでしょうか」
もうカヒュっという呼吸をした李粛に代わりもう一人が声を上げた。
周瑜は優美端麗、盧繁は壮美立派。であれば声を上げた男は華美絢爛だった。落ち着き払って顔を上げず。しかしスリルを楽しむ様な声色。事実その伏せた顔には艶やかな笑み。
「我等は騙されました。しかし建陽には良くして貰ったのも確かです。また並大抵の者では彼を殺せません。それは皆が知っている」
立ち上がる。薄い笑みを浮かべ美顔。目は伏せて。
「此の李粛にも、兵にも、逆賊を討つ心意気はあるのです。しかし逆賊の強さを知る故に寝ていても足が竦む。臥龍を恐れぬのは常人には難しい」
「ッハ!! 面白い事を言いやがる。お前はそうでも無さそうだがな。良くて蜥蜴ってところだろう?」
「前将軍様、とんでもない。私に多少劣る程度ですよ。それより李粛の潔白を示したいのですが」
「良い。余興だな? 折角だ。見せてみろ。何をする気だ」
「そこの強き青年は黄巾で名を馳せた盧子昌でしょう。私は当然力を抜きますが彼との打ち合いを披露させて頂きたい。私を基準に逆賊の強さを測って欲しいのです」
董卓はニっと笑った。美しい男も笑う。野味と興味に溢れた顔が相対す。
「止めとけ」
で、董卓はマジで言った。もうマジの真顔だった。マジ真剣に。
「悪い事は言わん。……そう言えば名前は聞いてねぇが本当に止めとけ。お前が今逆賊を討ちゃあ良い。お前達の地位も保証しよう。それで良いだろ」
「待ってください」
盧繁が制止した。
〓盧繁〓
「イラつき過ぎて頭狂いそうなんで折角ですから相手をして頂きたい。じゃ無きゃ、本気でコレをグチャグチャにしちまいそうだ」
ああ本当に許せん。何だコイツコノヤロウ。父上を牢に入れるとか、はァ?
足ツカンデ振リマワシテやりてぇよォ……。
「わ、分かった。分かったから子昌殿よ。そんな目でソレを見るな。そいつを并州勢の誰かに斬って貰わねぇと許してやれなくなっちまうから」
「ホントすいません董殿、皆様。ちょっと本気で冷静で居られなくて本当。コイツ……っ」
ああ、クソ!! 自分でも吃驚するぐらいキレちまった。丁何とかの所為で!!
「フム。フフフ良いじゃないか。私は賛成さ青年。孝徳の厚い事だ。そんな下の者の思いを受け止めてやるのも上の者の務めだろうしね。さぁ好きに掛かってくるといい」
話がわかるな。悪ぃけど胸を借りよう。また掴んだモン全部ヒン曲げちまうから。
「御言葉に甘えて行きますよ」
「フフ、ああ。さぁ来たまえ!!」
「オラァッ!!!」
おお!
「……!! なん、何なんだ此の力?!」
「スゲェ!!! 受け止めた!!! こりゃあありがてぇッ!!!!!」
「な、未だ——」
横にブチ飛ぶ。死にゃしねぇだろ!! 未だ未だだ!!
「ウラァ!!!」
「うおっ!?!」
避けるか!! 転がる様に!! 機転も良いじゃねぇか此の兄さん!!
「ハッハッハッハッハッハ!!! 寧ろ気分が良くなってきましたよ名前の知らぬ方!!!」
「わ! あ! く! 待! 踏みつけなど!! クソッ!!! ナめるなぁァッ!!!!!」
「おっと」
「な、掴まれ……」
おいおい反撃まで……。
こりゃあ……いや待て。
まただよバカがよ……。
「……フゥーーーーーーーーーー。すみません助かりました。部屋も荒れてしまった。……ハァ、またやっちゃったよ」
ガキだな我ながら。前世含めて何年生きてんだよバカだろ。成長せい——ん?
「え、何あれ人間?」
「こっっっわ」
「ほぼ見えんかった……」
「気付いたら部屋がメチャクチャに」
「子昌殿相手によく生きてたなアイツ」
「その、愚息が御迷惑を……」
「いや、まぁ、うむ……うむ」
背中からスゲェ聞こえる。ホントすみませんマジですみません。マジでコレやったわ。やらかしたわ。マジで後で詫びねぇと。
「俺、生きて此処を出られたら軍属やめるわ」
「そうするわ。俺も」
「ああ。人とは戦えても……アレはちょっと」
「そうか俺の目がおかしいんじゃないのか」
「消えたし飛んだしな」
「見た事ねぇよ。あの人が圧倒されるなんて」
「う、嘘だろ? 奉先殿が?!」
いやホントすいま——ん?
奉先……奉先?
……丁何とか。
丁何とかとたぶん字が奉先……。
……。
いやぁ、そんなバカな、ねぇ?
いやいやいや俺如きに転がされる様な男が呂布な訳ねぇじゃんね? もっと強いって! だって呂布だもん!!
そうだよ字が同じ人なんてそこら中にいるしさ。そんで呂布っつったらもっと……まぁ強そうってか強いのは間違いないけど……。何なら何か異常な怪力ぶりの俺の相手出来るスゲェ人だけどさ……。ほらアレきっともっととんでもねぇ化け物みたいな感じだってウン!! 呂布はもっとこう金剛力士像みたいな感じだって絶対!!!
……そうだ。董殿を殺す様な感じも。いや若干あり得なくもない雰囲気あるな……。
「っはぁ、ハァ、フー。驚いた。天下は広い。張遼よりも強いかもしれないな」
チョウリョウ……。
「気は紛れたかな子昌殿」
「あ、はい。感謝致します。えっと……」
「私は呂布、呂布奉先さ。覚えておいてくれ。子昌殿よ」
わ、わぁ……。
「では前将軍殿。皆様に我等の潔癖を御覧頂きたい。宜しいかな?」
「良いのか?」
「受けた恩はあれど騙された怒りも御座いますので」
まぁそれはそう。逆賊にされるとかヤだわな普通。いや普通じゃなくてもか。
「う、うぐ……」
あ、目ぇ醒したなゴミクソカス野郎が。
「ああクソ!! 呂布!! 此の俺に逆らった小僧を殺せ!! 執金吾を殴り付ける何ぞ言語道断だ!!!」
へぇ……見えたんだ。意外とやるのな。驚いた。
「何をしてる!! 早くしろ呂布!! それに李粛も——え」
「世話にはなったね建陽。騙した事はコレで許すよ」
「ま、待“で、リョ、ゴフ……ッ」
ああ、たぶん丁原あっさり刺しちゃった。
「丁度良い。気に入ったぜ呂布。強い奴は歓迎だ。此の董卓と父子の契りを交わさねぇか。悪い話じゃねぇだろう?」
「喜んで」
うわぁ……呂布だぁ。
李粛・子呈(?〜192)
字は適当。子と手紙とかでつつしんで差し上げるの粛呈。演義で呂布引き込んだ人。




