今までが暑過ぎて涼しく感じる。眠い
洛陽の盧家の邸宅で足音が響く。従僕から家主の息子まで驚くそれを奏でるのは切迫した表情の盧植だった。彼は半ば激昂した顔で息子を見つけ。
「繁よ!! 滅茶苦茶になった!! もう如何にもならんぞ!!」
盧繁はポカンとした顔で父親の見た事のない状態を少し長めてから読んでいた竹簡を畳み従僕を下がらせた。
「如何したのですか父上……?」
息子の困惑の表情を浮かべた問いに自分が余りにも冷静さを欠いていた事に気付き大きな深呼吸のうちに首を左右に振って!
「ああ、スマン。だが大変な事になった。何大将軍の匙加減を鼎をひっくり返して無に期した者がいた!!」
だが話す途中で憤怒と切迫が振り返す。
「本当に何事ですか?!」
「宦官連中とその一族縁者が悉く捕まった!! それも何大将軍の命令という体でだ!! それに此の命令を誰が出したかも分からん!!」
「それは、本気で拙い……」
「そうだ拙い。良いか繁。もう、こうなっては洛陽は危険過ぎる。俺は此処に残るがお前は幽州に退くのだ」
盧繁は願ったり叶ったりだ。自分が居たところで何も出来ない。力はあるが筋力で出来る事など高が知れている。
父の事は心配だが寧ろ邪魔となってしまう可能性さえあった。逡巡して成すべき事を考えて頷き。
「……分かりました父上。一先ず北の隠れ家にて待機致します。先ず周瑜にも伝えないといけませんね。
それと頌姫殿と参宿殿は如何致しましょう。少なくとも太傅様と董殿に伺いを立てるべきでは? 幽州は寒いですが彼女達の安全を考えれば洛陽よりはマシでしょう。
苦労をさせる事になりますが洛陽が荒れれば彼女達の身が危ない。望むのなら置いては行けません」
「そうだな。それが良い。先方の返答があり次第に急いで使いを向かわせる。お前は機を見て小平津から逃げよ。それと、毓の事を頼むぞ」
「確と」
〓何進〓
全くやってくれましたね袁紹。
私の名を使って宦官と親族を捕えるとはよくもまぁふざけた真似を。おかげで宦官連中が形振り構わず動かねばならなくなった。宮中を離れた宦官など捨て置くべきだと何故解らないのか。
藪を突いて蛇を出した様な物だ。
もしかして……態と、か? ……有り得る。いや寧ろ宦官を減らし勢力を弱めるのではなく一掃するのが一貫した奴の狙い?
だとすれば自分の思う正義が他者にとっても正義だと何故信じれるのでしょうか。と言うか正義と大義が有れば何をしても良いと錯覚するとは本当に救えない。そもそも宦官とて最低限は必要な悪だと言う事を理解できていないのか?
ああダメだ。状況が酷過ぎて全てを疑ってしまう。まさか己の力量も知らず甘やかされて勘違いしたボンクラだったのでは?
いや今はそれ所じゃありませんね。こうなっては一刻も早く芯に考えを改めて貰わねば。ああ長楽宮までの道がクソ長く感じる。
「やっと着いた。すみませんが子卿。此処で待っていてください」
「は! 行ってらっしゃいませ」
「はい」
さて、急がねば。
「臣、何進。参上いたしました太后陛下」
「兄上。いらっしゃいましたか。またですか」
「ああ、芯よ。そう言わないで下さい。と言うかそれ所では有りません。
もう既に諸常侍以下を誅さねば我等が殺されます。ですので光禄勲の三署朗辺りにお前の身を守らせるようと考えていますのでそこ通達に。加えてある程度の世話も任せようと思っていますからその積もりでいてください。
私も彼等には言い聞かせておきますが、特に侍女達には善く善く言含めておくように
「何を言っているのですか。と言うより護衛が必要なのですか? それに私は女で彼等は男ですよ兄上」
……流石に自分の年考えろよコイツ。いや、と言うか危機的状況だと言っているのが分からないのでしょうか。いや、寧ろ分かりたくない、のか?
「心中察するに余り有りますが言ってる場合では無いのです。何せ間抜けが私の名の下で宦官連中とその親族を捕まえてしまいました。その宦官の大半が居ない今は良いですが戻すので有ればせめて身は護らねばなりません」
「……兄上。部下の統制は確としてください。彼らの様な弱者は怯えてしまいます。軍の総帥たる者の務めでしょう」
「朝廷を牛耳る連中が弱者なものですか。それにそれだけ宦官が恨まれる事を重ねたのですよ。せめて何人か見せしめに殺さなければ宮中に乱入する者が現れるでしょう。全員とは言いませんから分かってください芯」
「……孟津を襲わせたのは兄上なのですか」
「そんな訳が無いでしょう。あそこを襲わせて私に何の利が? 寧ろあれは宦官の跳梁を許し黒山の賊を蜂起させた朝廷の恥です。それは即ち大将軍である私の恥辱だ」
「社稷を乱してまで私を脅そうとしたと噂が立っておりますよ」
「何故そうなるのか分かりませんが。そもそも良く考えて下さい芯。貴方は宦官を使って王栄を殺したでしょう」
「……それが何だと言うのです兄上」
「宦官は皇帝の周りの者を殺せるのです。事実俺も蹇碩の暗殺を辛うじて退けたの話知っているでしょう。また董太后が死ぬのは歳とはいえ早過ぎると思いませんか」
気付いたか? 随分と驚くものだ。董太后も董重も誰に殺されたかなど考えるまでも無いでしょうに。穢れ仕事は連中の十八番だ。
可哀想に怯えていますね。皇帝が宦官に殺された事は伏せておきますか。返す返すも皇帝などに見そめられたのが我等の運の尽です。
「太后とて連中は易く殺しますよ。良く考えて下さい。では今日は失礼いたします太后陛下」
あの怯え様なら数日で何とかなるな。太傅殿と相談の上で直ぐにでも準備をさせておきましょうか。殺す宦官の吟味ももう一度やっておきましょう。
にしても何処から孟津の件、宦官に漏れたんでしょうね。命ずれば愚直にやり切るからこそ任せましたが丁原は雑ですね。粗略で無思慮なだけでは無いですか。
まぁ物は使い様とは言いますが兵士が精々でしょうね。戦闘能力だけで言えば董卓とも渡り合えるでしょうし。まぁ涼州勢の前座としては十二分か。
おや? 子卿とあれは。
「何せ伝統だよ呉匡。漢が何れ程続いてる? そりゃあやり過ぎな連中は居るがそれ以外は皆殺しは問題も多くなるさ。兄上は性急過ぎるんだよ。袁紹なんか論外だ」
「根幹!! それを殺す必要が御座いますぞ車騎殿!! それと我が友を貶めないで頂きたい!!」
何故ここに?
「如何しました苗」
「太后陛下が来て欲しいと」
「内容は?」
「さあ? 私も通達されただけですので。また兄上を止めて欲しかったのでしょう」
「はぁ……そうですか。まぁ好きに語らって来るが良いでしょう。宦官には気を付けて下さいよ」
「アッハッハっハ!! 兄上、滎陽の賊を殺した私ですよ。宦官など恐るるに足りません。何より彼等は我等を引き上げ守った恩人では無いですか!!」
このアホ。
「……そうですか。私は一度帰ります。くれぐれも油断しないように」
「兄上も心配性ですね。分かりました。話した後は兵営に控えます。これで御安心頂けるでしょう? では行ってまいります」
「はい気を付けて」
大丈夫かコレ?
「すみませんね子卿」
「閣下が謝る事では……!!」
「いえ兄としてです。一先ず今日は帰りましょうか。近々太傅殿と話さねば」
「……その、お手柔らかに!!」
「厳しくは出来ませんよ。案じずとも」
「……はい。ん?」
「如何しました子卿」
「女が駆けて参ります。私の後ろに……」
「……ふむ。郭勝の一族ですね。案じずとも大丈夫ですよ」
確か妹の侍女をしていたか? 駆けて来たからか動悸が荒いですね。
「大将軍閣下!! 太后陛下が詔を下したいと」
「真ですか!!」
「ヒッ……」
「ああ失礼を。子卿、直ぐに準備を。私は妹に会って来ます」
「はい閣下!! こうしちゃいられねぇ!! 直ぐに兵を集めて参ります!!」
気が早い事だ。だが頼もしい。私も気が変わらない内に動きましょう。
「直ぐ行きましょう」
さて辯坊と劉協君も連れて出なければ。宦官連中が旗頭にされては非常に拙い。何より余りに無惨で可哀そ、う、だ。
「……張譲」
計られた。終わりですか。殺せて十人くらいですかねぇ……。
ああ、また仕事が増える。いや其れは気にしなくて良いか。
「ああ、ああ大将軍閣下。いや何進、何進ッ、何進!! 穢らわしき肉屋の孺子め!! お前もか!!! 其奴も此奴も此の私を裏切りおってえ!!」
「煩いですねぇ張譲。
それに何とも兵を引き連れ随分と得意な。私の足元に跪いてから未だ一月と経っていませんよ。天下騒乱の元凶宦官が裏切られたとは面白い認識だ。
片腹痛いですね」
「誰も彼も我等を元凶と言うが天下がゴタゴタ乱れているのは何も我等の仲間の所為だけではあるまい!!
そうだ先帝が王栄を殺した皇后を不快に思い処罰しようとした時も我等はそれを泣いて助けた!! 各々の家の財貨を掻き集め上意を笑い和ませ貴様の一門を救ったのだぞ!! それを今お前は我等その種族まで根絶やしにしようとしている!!
何と非道な事か!! 貴様は禁中が穢濁していると言うが公卿以下忠清な者が何処にいると言うのだ!!! やれ!!!!!」
おやおや。一ぃ、二ぅ、三。単調な。
「フンッ!!!!!」
突っ込んで来るだけなら暴れる豚の首より楽に首を落とせますね。
「ハァッ!!!!!」
前の男が邪魔で斬りかかれないとは何ともはや練度が低い事だ。
「デェア!!!!!」
やはり牛を切るよりは楽ですね。人間を斬るのは。唐竹割りです。
十二人くらいなら何とかなりますかね? 何か腰引いてるのもいますし。特に張譲とか。
にしても禁中を牛耳った張譲、此の化け物、耄碌が過ぎるでしょ。
「な……」
「張譲、何を驚いているのです?
貴方も言った通り私は肉屋。牛や豚を解体していたのですよ?
人間如き斬るのは易い」
「ヒィ……」
うわ失禁しましたか。これで退いてくれませんかね。臭いし。
「ク!! 殺れ!! 囲んで殺せ!! 此処で殺さねば我等は族滅だ!!!」
まぁ、ですよね。逃げますか。
「あ、待て何進!! 何をしている追え、追えーーーーー!!」
うーん。無理ですね。コレは。
殺せるだけ殺しますか。張譲は、追って来て無いですね。己の身の安全の嗅覚だけは残ってますかクソ。
「こ、殺せ!! があ?」
「ヒィイイイっぎあ“腕が!!」
「待て待って待——」
「ゴヒュ……?!」
「クソ!! 誰か引きつけろ”?!」
「あ、いやだ!! イヤ……ア」
「や、やったぞ刺してやった!! 此の渠穆が何進を切っで……え?! あ」
お、運が良い事に振り向きざま振ったら当たりましたか。にしても思いっきり背中を切ってくれましたコノ野郎。下の顎踏み砕いときますか。
よっと。
「がフュ……?」
それにしてもよく喋りますねぇ。殺し合いの最中に。ああ、それにしても背中が痛い。
せめて宦官一人は殺してやりたいが。
ああ、丁度良い。潰れた顎を押さえて喚くコレ。使いますか。
「よっと」
足元のゴミを投げれば背中は裂けましたけどよく飛びました。当たりどころが良かったみたいで三人ほど薙ぎ倒せましたね。
「ッシ!!」
投げた剣は直進。人の壁を失った。アレは畢嵐でしたっけ?
胸に刺さりましたねザマーミロ。
さて、ふむ。
「もう無理ですね」
全く大将軍が自刃する剣が敵の落とした代物とは嘆かわしい。
「よっと」
ああいたい。




