めっちゃ泣くらしいねこの時代の葬式
「ホオンオンオンオンオンオンオボ、オボボボオォーオボボオボ」
「御爺様。有難う御座います。凄く嬉しいです」
祖父と孫娘が相反する表情で並んでいた。祖父スゴイ顔でガチ泣きし孫娘は朗らかに笑っている。そんな董家に相対する盧家の二人も相反する表情だった。毒気を抜かれた様な父盧植と重圧と覚悟を表に出さぬ様に表情を取り繕って柔らかく笑う盧繁である。
二人目以降とならざる終えない女性を気遣い笑う盧繁の抱く重圧と覚悟は重い。
この時代としても未成年たる庇護者の立場で二人目の妻を娶る事が確定した重圧。しかもその女性は十中八九続滅の憂き目に遭うと言う定めが大いに有り得る存在。そんな彼女を役職も軍事力も無い最中で如何にか救おうとする覚悟だった。
その心情を評するに端倪す可ざると言う枕詞が必須だろう代物である。
端的に言えば一人でさえ対応が分からないのに正室と側室とか胃が痛い。また己や親類縁者友人知人に加え、個人として好意的に見れる相手の命と立場が掛かってるのだ。重圧は感じるし覚悟を決めねばやってられない。
「では御両名。婚約締結という事で良いな?」
そして二家の間に座る袁隗がやり切ったと言う清清した表情で言った。董卓は己の太い腕に顔を突っ込む形で目頭を押さえて滂沱ぼ涙を流し、盧植はそれを何とも感慨深そうで意外そうな表情で眺めながら頷き返す。袁隗はそれを満面と安堵の笑みで眺めた。
「フグゥッ……ズビッ!!」
董卓がちょっと汚い音を立てて鼻を啜る。
「子昌殿、いや我が義理の孫の盧子昌よ。白ちゃんを頼むぞ」
そう言うと董卓は孫娘を促し、頷いた董白は盧繁の横に座り、そう言われれば将来の婿は頷く。
「不安は無いが少し試させてもらおう」
「試す。ですか?」
「ああ子昌。俺の手を握ってくれ。力比べだ」
そう言うと董卓は頑強で堅牢で太い腕を伸ばし手を差し伸べた。
「……仲穎殿。別の試し方にせんか」
「ん? 子幹殿。案ずるな。俺は両の腕で弓を引けるが力入れん」
「あ、いや。そうでは無くてな。……盧繁、その剣でやれ」
「あ、そうですね。分かりました父上」
そう言うと盧繁は腰の剣を鞘ごと握り潰し折った。最も容易く鉄剣をヘシ折る光景に董卓は汗をブワッと掻いて滂沱。英雄豪傑を見て来た男が取り繕う事も出来なかった。
「……子昌殿」
「はい」
「指は大丈夫なのか?」
「振ったら潰れるんでコレはただの鉄塊です。御心配頂き有難う御座います。義祖父殿」
「……白ちゃんを怪我させない様に気を付けてな?」
「はい。誰にも傷一つ付けさせません」
「あ、うん。本当、頼む」
盧親子が董白の紹介の為に連れ帰ってから袁隗と董卓の一族と重臣達が揃った。董卓は覗き穴から盧繁や盧植を見定めていた彼等を見渡してから横に座る袁隗に言う。
「太傅殿。アレ知ってたのか?」
袁隗はギョッとしてプルプル首を左右に。
「いや話は聞いてたんじゃが……。危うく漏らすところじゃった。死ぬほど吃驚した……」
「まぁ、でしょうな。お前らもコレで収まり着けろよ? 中央とのちゃんとした折衝役だ」
一族と重臣達は引き攣った顔をしていたがその中の一人が咳払を一つ。董卓の次子たる董承が己の目を疑いながら言った。
「いや頼もしい通り越して怖ぇよ……。そんであの子が何一つ怖気付いてないのが本気でスゲェ。大事にはしてくれるだろうけど……やっぱ怖ぇわ」
「まぁ、それは、そう」
董卓の言葉に続いて皆んな頷いた。
〓何進〓
「失礼致します閣下。報告が参りました。東郡太守橋元偉様が着陣したとの事。また武猛都尉丁建陽が孟津へ向かったそうです。加えて騎都尉は募兵を続けると」
入室するなり報告。張璋は話が早くて助かりますね。皆がこうなら助かるのですが。
さて、橋瑁と丁原は良し、と。
「そうですか圭笏。対応御苦労様です。何時も感謝していますよ」
「貴方様第一の家臣。此の張璋、此の程度を苦などと。さ、次の仕事を何なりと御申し付け下さい」
「聞き捨てならねぇじゃないかい!!」
うお?! 吃驚した……はぁ。此方が元気になりそうなほど元気ですね。
「お前の頭の良さは認めるが何進様第一の家臣はこの呉匡じゃないかい!!?」
「何を言うか。私とてお前の勇猛さは認めるが何進様第一の家臣はこの張璋だ」
あー火花が散ってますねぇ。眩い限り。
「ふん!! 負けんぞ張璋!! 閣下!! 呉匡、此処に報告いたします!! 張楊の奴は并州へ向かうそうです!! あの地の勇猛な兵を集めてくると言ってくれやがりました!!」
「成程、報告感謝しますよ子卿」
張楊は時がかかりますね。それにしても、さて……どれだけ集められるか。王匡も報告は何時になるでしょうか。
まぁ一先ずは董前将軍は上林園に駐屯して頂くとして彼と彼の部下の為に酒でも用意しましょう……ん?
「如何しました張璋?」
「いえ、孟津の策。あれで妹君が頷かなければ如何致しましょうか。立場上仕方ないとは言え宦官に囲まれていては……」
「そこまで頑な答えを出しますかね。流石に芯の奴も宦官の所為で賊が生じると分かれば辯の為にも頷くでしょう。何せ造営費の着服も事実ですから」
いや、と言うか芯のヤツ。外が見れないですから仕方ないとは言え宦官と結託するにも限度を考えてくれないと困るんですがね。苗の奴も宦官頼りが過ぎますし。
「それに宦官が妹を脅したとしたら好都合。妹が私を宮中に招いてくれれば操り人形にされた協君も含めて外に連れ出す事も容易です。まぁもし万一その時は宦官の連中には死を懇願させてやるが。
……失礼。まぁしかし心配も分かります。その時はその時ですね。また何も宦官全てを殺す必要は有りません。寧ろ宮中を考えればそれはそれで問題だ。二、三人を見せしめにすれば十分」
「閣下!! それで本初の奴が黙ってられますかい!!?」
「……ああ、確かに。本初殿は、悪く思わないで欲しんですが良くも悪くも青いんですよねぇ良い年こいて……。いや私も嫌いでは無いのですが。
すみませんね子卿。貴方の前では余り言いたく無いのですが恩ある袁家の事を思うと。その、少々……」
「いや、まぁ。御配慮感謝します……」
「……重ねて申し訳ない。詫びと言っては何ですが二人共、酒でも飲みましょう。久々に私も肉を切りました。細やかですが労わせてください」
「おお……! 感謝いたします」
「有難いじゃないかい!!」
まぁ張譲が此方に付いたのです。彼も最終的には追放の程で隠居でもして頂きますが、今は協調して切る尻尾を選んでいただきましょうか。そうすれば妹も分かってくれます。
「さぁ目一杯食べて下さい!! あ、喪中ですのでこっそりね」
張璋・圭笏
字は適当。何進の部局将。璋が玉器の一種である圭を縦に割って半分にした笏の字らしいからそっから取った。
何芯・夷光(?〜189)
名前も字も適当。何進の妹何太后。親父が真で兄が進だからシンって入れたら芯が出た。字は西施から。




