現代の常識古代の非常識
「え、父上。それ本気ですか?」
「ああ、うむ。本気らしい。太后様の説得、いや脅す気らしい。厳密にいえば十常侍をだがな」
親子が諦念が籠った溜息を吐いた。
「袁本初はアレですか。野心を隠す気が無いんですかね? と言うか乱世になれば活躍出来るとでも思っているんですかね。陳主簿がちゃんと提言をしたのでしょう?
「余り言うな。宦官の動きを掣肘すると考えれば悪手では無い。それに臣民の不満も制御出来ぬ領域となってしまった。
いっそ大将軍殿は宦官の排除も成すべきだと考えている。太傅殿も朝廷から民心が離れ過ぎる事は懸念しておいでだ」
盧植は溜息をまた漏らす。
「とは言え中央を信用出来なくなっている仲穎殿を呼ぶのは余りにも不味い。
彼は小府に任じる代わりに軍権を取り上げる露骨な政争を仕掛けられた。そのすぐ後に今度は并州牧に任じての軍権剥奪。これで朝廷を信用しろと言うのが無理筋だ。
何よりそうでなければ生きられない地にいた彼の性格は凶悪。誰にとっても良い結果にはならんだろう」
「誰がンな政争を仕掛けたんです? 戦ってる最前線でしょうに……」
「最初の謀略は蹇碩だ。二度目は大将軍の弟の車騎将軍だな。太后様側だ。加えてタチの悪い事に軍権の預け先は皇甫左将軍を指定してだ」
「うわ……。じゃあ董殿は皇甫左将軍様を?」
「ああ。恨んでいる。仕方のない事だ。だが物の見事に謀略に嵌った。こうなれば誰も信用出来まい。
更に涼州で董卓と肩を並べた鮑鴻を横領で捕えたのも不味かった。奴は蹇碩に付いていたから軽い探りを入れたそうだが叩けば出る程に罪を犯していた。いたのだが……」
「董からすれば。いや前線指揮官にすれば戦の最中にやられては良い気はしませんね。目の前に敵がいるのに護るべき朝廷のゴタゴタで兵力を減らされ指揮系統をメチャクチャにされてます。しかも自分の軍権を奪う意思を向けられた上でだ」
「大将軍と太傅が軍勢を率いたまま駐屯出来るように取り計らったが……」
盧植は息子の方に手を置く。
「お前は一先ず最低限の荷物を纏めておけ。周大同殿が北に隠れ家を用意してくれいる。変事があればそこへ避難するのだ」
「分かりました。そうします」
一方その頃。河東郡安邑県。袁隗と董卓が相対していた。
「其方の不信も重々にわかる。蹇碩との政争で手が回らなかったのは事実。申し訳なかったな前将軍殿」
「袁太傅。分かった。アンタに頭を下げられちゃあ何もいえねぇ。俺の不満は抑えよう。だが部下は無理だぞ」
「じゃろうなぁ。であれば前将軍殿と兵の不満を和らげる術は我等にあるかな?
我等としては駐屯だけで十二分だ。助かっている。その礼として此の老骨が骨を折る。それで御寛恕願うとしよう。
少々の無茶も聞く用意が大将軍にも儂にもある。直ぐにとはいかずともいずれ叶えよう。望むがままを仰ってくれ」
「……そうだな。三つ程ある」
そう言うと董卓は竹簡を三つ出す。それを袁隗は開き見て。
「二つは分かる。だが最初はこれで良いのかな? 確かに即座に叶えられるが」
「うむ。それで良い。それが良い」
「分かった。必ず答えよう。喪中故に約束しか出来んが」
「それはそうだ。さ、飯でも食おう。馳走されてくれるな?」
「勿論じゃ。感謝する」
そう言うと二人は豪勢な食事を取り始めた。酒も進み気安いやり取りをする様になってふと董卓は思う。それを酒の酔いで止めず問うた。
「ところで太傅殿は喪には服さんのか?」
「服しておるよ。ホレ貴方と同じ白い喪服じゃろ。しかし、まぁ何分もう歳故な。陛下を思う嘆き深く食事も取れん。おかげで無理が祟って儂は都で寝込んでおる。そう、歳じゃからな。あ、此の酒美味いのー。月氏の酒じゃろ。いや久々に飲んだわ。美味い美味い」
「……ええ、ああ。はい。そいつぁ月氏の酒です」
「おお矢張りか!! 老いたとは言え儂の舌も捨てたもんじゃない。此れでも食事には一家言あると思っとるよ。
牛肉も精が付く。羹を作った者は良い腕をしとりますな。もう一杯貰えるかの?」
「……是非。あぁ周の坊ちゃん。嘉謀殿と文和殿もしっかり食ってくれよ。周県令に土産を持っていってくれ」
非常に困った顔の董卓は三人に話を振った。三人は巻き込まないで欲しいと言う顔を堪え頷く。白い喪服を纏う太傅と前将軍の会食は夜遅くまで続いた。
〓盧繁〓
「繁よ。十日後は空けておいてくれ」
「ええ、と。はい。何事ですか?」
「董仲穎殿の孫娘との婚約をして貰う」
「はい?」
何言ってんだ父上?
「袁太傅に頭を下げられてな」
…………えぇ?
「流石に断れなかった」
「あぁ……うん。まぁそれは無理っすねぇ」
「了承してくれるのか?」
「まぁ家長の決めた事ですし……。ただ俺はともかく頌姫殿が何と思うか」
「袁太傅はな……政治家だ」
「はい」
「窶れておられた」
「……はい?」
「窶れておられた。話を先んじて通し了承を得たが一族の女人悉くから驚く程に小言を言われたらしい。と言う訳でな」
「はい……あ」
頌姫殿。そんなチョッパ◯じゃ無いんですから。トニ◯トニ◯なチョッパ◯でしか見ないで——。
「ドウ?!」
腹がぁぁぁ……。ヘッドバットの威力ぅ……。と、言うかベアハッグ?! 俺、何かした? あ、婚姻もしてないのに二人目の婚約者が発生してたわ。
これはどーしようもねぇわな。
「子昌様」
「何でしょう」
「董家の娘と婚約をするまで側に居る我儘を御許しください」
「その程度で良ければ」
「……狡いです。これ以上の我儘は言えませんのに」
「失礼しました。では、のんびりと致しましょう」
「はい」
さて、良いんだけどベアハッグの解除っていつになるかな……。後鳩尾に顔突っ込んで喋られるとくすぐったい。
……寝たね。この子ね。正解がわからん。
俺も寝るかぁ。
周異・大同
字は適当。異と逆の意味を持つ同、あと何故か大同小異って四字熟語が出てきたから大。意味は覚えてない。なんか大体同じみてーな意味だった気がする。周瑜の父で洛陽県令。




