上から落ちて右へ左へ
雒河の北岸にある南北に長い長方形の都市こそが後漢の都たる雒陽であった。その天下の中心地にある十二の門の一つ上東門に人集りが出来ている。中心には屈強で大きな体躯を誇る英雄が立つ。
最近まで牢に入れられていたとは思えない力強さと覇気。興味深そうな見物人達はしかし近寄ることさえ儘ならない。そうで無くとも人として無粋な真似はしたく無かった。
そこに遥か遠くから馬蹄が響く。二頭の黄金にも見える馬を疾駆させる聞いた齢にしては大きな子。紐で二枚の鉄板を吊るし大きな斧と小さな斧に矢筒を背負う。馬には弓と首桶が吊るされていた。その子は英雄の前で下馬し跪く。
「父上!! 愚息、繁!! 子長兄上の仇を取って参りました!!」
誰もが咄嗟に涙を堪える。孝行、これほどの事があろうか。だが此の素晴らしき会合を目に焼き付けようと堪えた。
跪く息子に英雄が歩み寄る。いや既に駆け寄っていた。息子の前に立つ。
「こンの戯けがアッ!!!!!!!」
そして本気で拳骨を叩き落とした。
「痛ってええええ?!!!!!!!」
観衆は目を皿にする。酷い者だと目玉が飛び出しそうになっていた。三人に一人は鼻水を垂らしてる。
頭を抑えて地面英左右にゴロゴロしながら悶える息子に英雄は容赦無く。
「言ったはずだぞ繁!! お前は延を失った俺から更に息子を奪うのかと!! 此度の事がどれだけ危険な事だと思っている!!
更にせめて孫仲の首で満足すれば良いものを皇甫中郎将殿の陣営に紛れ込むだと?!! どれだけ迷惑と心配を掛けたか分かっているのか!!!」
「も、申し訳御座いません。真に無茶をしました」
英雄は長い溜息を漏らす。そして息子を引き寄せその大きな懐に抱く。
「無事で何よりだ。牢から出そうとしてくれた事、何より私に代わって延の仇を取ってくれた事、感謝する。頼むから無茶をしてくれるな。お前は賢いのだから」
「はい。真に持って……以後改めます」
此の光景に涙を止められる者は居なかった。
更に曲陽にて張宝を討った知らせが届き都はお祭り騒ぎとなる。皇甫嵩の凱旋の数日後に英雄とその息子は宮城に呼ばれた。
〓盧繁〓
「皇甫嵩が言うのでな。盧植、お前の罪を不問とし尚書にする。また息子の孝行見事。故に食邑千戸を父盧植に与え盧繁は二十になったと同時に郎官とする。努めて驕る事なき様にせよ。特に盧繁」
またアホ程やる気が無さそうに数珠みたいなのが付いた冠を冠ってるだろう皇帝が言う。
マジかよ幽州に帰りてぇんだけど。父上が尚書って此処に止まれってか? 董卓も居るっぽいのに冗談じゃねぇ。
……ん? 待って。今、俺名指しで調子乗んなって言われた?
いや否定出来ねーけど。
え、名指し何で?
「感謝いたします陛下」
父上、そんな何事もなかった様に答えないでくんない? いや、そうせんと拙いけど。俺も何も言えんけど。
……なんか微妙に釈然としねー内に参内が終わったけど?
え、俺アレじゃん。董卓のいる朝廷で働く事が確定したんですけど。実質ディスられに来ただけじゃね?
キリのいいとこ最終話です。取り敢えずここまで読んで頂き有り難うございました。
暇潰しにでもなれてたら幸いです。
なんか言っといた方が良いっぽい事を聞いたんでもし御手隙であればですが、いいねとかポイントとか頂けたらヒャッホウです。
って書いてたら何か歴史ランキング五位以内なっててクソビビりました。久々にあんな上位に載れて嬉しかったんで急遽一話書き上げて明日の20:00に公開します。ほんと有難う御座いますマジで。やったぜ。