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1 私は魅了持ち

 この世界にはまるで神様が気まぐれを起こしたかのように、時々ギフトと呼ばれる特殊能力を持って生まれてくる者がいる。


 ギフト持ちかどうかは神殿に行けば教えてもらえて、子供が生まれてから飼い猫の様子がおかしいとか、生まれたばかりの子供の機嫌が悪くなるとよく雨が降るとか、子供が生まれた後に変わった現象が続く時はギフト持ちかどうかを疑う。そして親はすぐに神殿に子供を連れて行き、ギフト持ちかどうかの判定を受ける場合が多い。


 私の場合は特にこれといって何も無かったけれど、もしかしたら我が子が何かギフトを授かっているかもしれないと期待した両親の意向で10歳になった時に神殿に連れていかれてギフト持ちであった事が分かった。


「お子さんは魅了のギフトを持っているようです」


 しんと静まり返った神殿の祭壇の前に立ち、ひと抱えほどもある金属製の盆に張られた水面を見ながら、鑑定のギフトを持った神官が私たち家族にそう告げた事で、私が魅了のギフトを持っている事が知らされた。


 幼い私はその時初めて“魅了”という言葉を知った。


 田舎の小さな領地を男爵として堅実に運営しているだけの両親があまり良い表情をしなかった事から、私は自分のギフトがあまり歓迎されていない事を悟った。


 幸い私の魅了の能力はとても低く、いくつかの条件が揃わなければ魅了は発動しない事と、条件が揃って魅了が発動されたとしてもちょっと好感を持つ程度で、それも一瞬の間だけ発動するささやかな力だと神官が告げると「よかった…」と隣に立っていた母が小さな声で呟き、私の事をぎゅっと抱き締めた。


 それから1年も経たないうちに母のお腹に新しい生命が宿り、しばらくすると我が家には待望の男児である弟が生まれた。私の事もあったので、弟は生まれてすぐに神殿に連れて行かれた。そして弟がギフト無しだと知らされた時、両親が安堵のため息をついたのを付き添いで連れられた私は横で見ていた。


 両親もギフト持ちではなく、私以外に周りにはギフト持ちはいないので、両親はギフト持ちをどう扱っていいのか分からなかったようだった。


 私に授けられた能力が、天候を操るとか植物の成長を助けるようなギフトだったらきっと周りからも喜ばれたのだろうけれど、私のギフトは微弱な力とはいえ使い方によっては国を傾けかねない可能性の有る能力だ。


 なので我が家のような弱小貴族には過ぎたる力で、神様もどうしてこんな面倒な能力を私にお与えになったのかと、神殿に行く度に私は心の中で神様に毒づいていた。


 そして15歳になった私は王都の学園に通うために田舎のカントリーハウスから、王都の貴族街にある小さなタウンハウスへと生活の場を移した。


 私が王都の華やかな空気に当てられて道を外さないか両親は心配していたが、貴族学園において最下層の爵位に属している男爵令嬢の私は学園での成績も真ん中辺り。


 顔立ちは可愛いと言われる事もあるが、整った容姿の多い貴族社会の中にあっては注目されるほどの美しさではないし、瞳の色だって少し明るい茶色だ。髪色は美しい黄金色だが顔立ち同様、貴族の中にあってはそれだって珍しく無い。更に学園で私と交流があるのは自分と同じ低位貴族令嬢ばかり。


 学園生活2年目を迎えた私ことアネット・フォールは、両親の期待通りにひっそりと地味に学園生活を送っていた。


 そして私の魅了の能力は生まれてからこれまで一度も使われた事は無かった。




 ◆◆◆




「……ない」


 授業が終わって帰り仕度をしていた時に私はそれを無くしてしまった事に気付き、机の中や教室の床も確認したがそれらしきものは見当たらなかった。


 朝の準備で制服に着替えた時にアレを着けていた事は覚えているので、家に忘れたという事は無い。


「あらアネットさん、無くし物でもされたましの?」


 友人で私と同じ男爵令嬢でもあるサラさんが、いつもと違う私の様子に気付いて声を掛けてくれた。


 サラさんとは2年生になってから友人になったので付き合いは浅いが、家の爵位が同じなのと婚約者がいない等、お互いに共通点がいくつかあったことで仲良くなった。


「ええ、いつも着けていたマラカイトのペンダントが見当たりませんの」


「まあ、それは大変ですわ。どのようなデザインですの?」


「金で縁取られたカボションカットのペンダントで、10歳の時に両親からプレゼントされたものですの。気に入っていたので困りましたわ」


 私は令嬢らしく見えるようにおっとりとした口調で頬に手を当てたが、内心ではアレを無くしてしまった事に焦っていた。


 私が無くしてしまったあのペンダントは、神殿で魅了のギフトがあると言われてから両親がプレゼントしてくれたもので、6年間肌身離さずに身につけていた魔道具だった。


 数日前から留め具が壊れかけていたので、次の休みには街に出掛けて修理をするか新しいチェーンに買い換えようかと思ってそのままにしていた。


 魅了持ちである事を隠しているので言えないが、実はペンダントには魅了封じの効果が付与されている。


 私程度の力では魅了封じの魔道具を身に着ける必要は無いのだが、魅了持ちは誤解されやすいので、いつも着けているように両親から言われていてそれを守っていた。しかしこれまで魅了の能力が発現するような事は何も起こっていなかったし、数日くらいは大丈夫だろうと留め具をそのままにしていたのが良くなかった。せめてチェーンから革紐に付け変える事くらいしておけば良かった。


「裏面には家紋も刻まれていますし、もしかしたら落し物として届けられているかもしれませんから、学生課へ寄ってから帰りますわ」


 そう言いながら私は、ほほほと笑顔を浮かべる。


 本当は笑っている場合ではないが、ペンダントについて詳しく話せないので“ちょっと困っている”風を装わないといけない。


 魅了封じの付与が無ければあれは安物のペンダントにしか見えないので、誰かが拾って届けてくれるのを願うばかりだった。


「よろしかったら学生課までご一緒いたしましょうか?」


 人の良いサラさんは親切心でそう言ってくれたのだが、学生課に届けられていなかったら校内を探さないといけないので、申し訳ないがサラさんの申し出はお断りさせてもらう。


「まあ、ありがとうございます。でもサラさんもお忙しいでしょうから、私一人でも大丈夫ですわ」


「そうですか、どなたかが見つけて下さっているとよろしいですわね」


「お心遣い、ありがとうございます、それではごきげんよう」


 そう言って私は内心で冷や汗をかきながら学生課へと向かう。




 ◆◆◆




 学生課で紛失物を訊ねてみたが、ペンダントは届けられてはいなかった。


 肩を落としながら学生課の部屋を出ると、私はペンダントを探しに特別教室塔や食堂へも行ってみる。しかしペンダントを見つける事は出来なかった。


 領地にいる両親に手紙を送って代わりの物が届くまでどれくらいかかるのだろうか?


 私は王都に住んでいるけれど、魅了を封じる効果のある魔道具が売っているお店なんて知らない。もしかしたら両親は神殿を通してあのペンダントを手に入れたのかもしれないが、はっきりしない以上は焦って神殿に助けを求めるのは悪手かもしれない。


 上級生には私たちの学年よりも上位貴族が多い。私の魅了の発動条件では彼らに魅了をかけてしまうような事は起きないだろうが、それでも何かあった時にこの忌々しい能力を持つ私が、それを封じるものを身に着けていたのかそうでないのかでは責任の重さが変わってくる。


 この学園に何人のギフト持ちがいるのか分からないが、その中にもしも私以外に魅了持ちがいたとして、その人物が問題行動を起こすような可能性なんてほとんど無いのだろう。けれど、男爵令嬢でしかない私には権力とは無縁で、もしも何かがあった時の為にもあのペンダントは必要なものだった。


(だいたい恋だってまだしたことないのに、あの能力が発現するような事はないのよね)


 私の魅了が発動する条件で重要なのが、物理的な距離と私の精神的な思いの強さにある。


 物理的な距離というのは私の瞳と対象者の瞳がとても近くにある事で、具体的にはダンスをするよりも近い距離にお互いの瞳がある事。つまり恋人や夫婦でない限り有り得ない近さでお互いに視線を合わせる事らしい。


 精神的な思いの強さというのが、私自身が対象者の存在をとても強く欲する事。


 同じギフトを持っていても、能力の大きさや能力が発動する条件は個々で違うらしく、私の場合はこの2つの条件が同時に揃った時に初めて魅了の能力が発動するらしい。


 そして魅了の能力が発動したとしても、私の能力は精神を束縛する等、相手をコントロールするほどの強さはなく、私の好感度を一瞬の間だけ少し上げる程度なので、夫婦や恋人なら魅了が発動しても問題は無いだろうと思われていた。


 しかし、魅了持ちというのは能力の強さによっては相手を支配出来るので、世間的には忌諱される能力として認識されている。


 そして我が国のギフト持ちというのは神殿で判定されるのが基本で、ギフト持ちは王家にのみ報告されるので、誰がどのようなギフトを持っているのかというのは本人や家族が公表しない限り分からない。


 たとえ微力な能力であっても“魅了持ち”と知られると傾国の能力を持っていると誤解されたり、存在を危険視される可能性がある。


 だから私は自分が魅了持ちである事を隠すように両親から言われていて、使用人や弟にさえも秘密にしていた。

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