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79 時間稼ぎ

「倒せた……のか?」


 これだけの規模の魔法となると残った爆炎や煙も凄まじく、それが晴れるまでは彼の死を確認することも出来ないだろう。

 

「ステラ、気を付けなさい……アイツ、まだ生きているわ」


 しかしメイデンはそう言って俺に警戒を促してきた。 

 目ではルシファーの姿を確認できないものの、メイデンによればまだ彼の魔力はこの場に存在しているらしいのだ。

 つまるところ、彼はまだ生きているという事である。


「あれでも駄目なのか……」


「魔法職じゃない私が言っても何にもならないかもしれないけれど、今のは間違いなく最高の一撃だったわ。それでもダメならそれだけアイツが強かったというだけのこと。貴方が悪い訳じゃない」


「ありがとうメイデン。そう言ってくれると気が楽になるよ。けど、そうは言ってもだ……」


 今の攻撃は第八等級魔法の中でも最高峰の威力を持つ二つの魔法をエクストラマジックで強化し、さらにそれを同時発動させたものだ。

 間違いなく今の俺が出せる全力であり最強の一撃だった。それこそ魔王ルーンオメガ相手であれば今の一撃で数十体が消し飛んでいたことだろう。


 これでも倒しきれないとなるともう……。


「ハァ……ハァ……! 今のは流石に死ぬかと思ったぞ……! だが、原初の魔王の力を持った私にはあと一歩及ばなかったようだね」


「はっ、嘘だろ……? まだ結構ピンピンしてるじゃないか……」


 姿を現した彼は片方の翼を失っていて、片足は膝から先が取れかかっていた。

 だが……最悪なことに魔法に関しては今なお健在のようだった。


 その証拠に、既に魔法を発動させているのだ。


「ついに……ついにこの時が来たのだ。体が馴染んでいないが故に、本当の本気が出せなかったが……今は違う」


「何だと?」


 今までのは本気じゃなかったって言うのか?

 二回目の攻撃に関しては終焉の魔物ですらワンパン出来るようなものだったはずだぞ……!?


「見たまえ、これこそが本当の原初の魔王の力なのだ……!!」


「おいおい……そんなのアリか……?」


 ルシファーは残っている翼を自らもぎ取った。そして代わりに背中から一対の腕が生えてきて、魔法を追加で発動させた。

 四つの魔法を同時発動させて攻撃を行う気なのだ。それもあの魔法陣からして、第八等級魔法の中でも最高峰の物をだ。


 これに関してはもはやステラの記憶をもってしても再現は出来ない……そう本能で理解してしまった。


「……そうか、そう言う事だったのか」


 さっきから彼が使って来る魔法が第八等級魔法の中でも妙に性能の低いものばかりだったのは、彼の体がまだ原初の魔王の力を最大限には引き出せていなかったからなのだろう。


 だが、それも過去の話。

 明らかに彼が纏っている殺気や圧が違うのだ。

 魔王や終焉の魔物を前にした時以上のものが俺の精神を……魂を襲っていた。


「怖気づいたかね? だがもう遅い。今までのは所詮、ただの時間稼ぎに過ぎなかったのだ。とは言え、それもこれで終わりとなる。この力さえあれば、貴様を今度こそ完膚なきまでに消し去れるのだからな」


「……」


 大地が、空気が、彼の魔法に呼応するかのように震えている。

 あの魔法を真正面から受ければ、いくら俺の魔法抵抗力が高いとは言っても耐えきれるかは危ういだろう。


「ステラ……」


「そんな顔をするなメイデン。……まだ、戦いは終わっていないんだからな」


 そう、戦いはまだ終わっていないのだ。

 それはルシファーもまた同じ。あの状態で攻撃を受ければ、今度こそ彼は死ぬことになる。

 だから、もう一度攻撃を与える必要があるんだが……それが問題だった。


「でも、さっきの攻撃は貴方の最大の一撃だったのでしょう? あれで仕留めきれないのなら、もう勝ち目は無いように思えるのだけれど」


 メイデンの言う通り、今の攻撃ではルシファーが放つ四つの魔法の同時発動攻撃を貫通出来ないのだ。

 要は威力が足りないのである。

 

「……これで終わりだというのなら、私はそれでも構わないのだけれどね」


「メイデン……?」


 威力不足に悩んでいたところ、メイデンが突然しんみりとした様子で話し始めた。


「私は、貴方と共に死ねるのなら本望ってことよ」


 いつものからかってくるようなニヤニヤとしたそれとは違い、儚げな笑みを浮かべながらメイデンはそう言ってきた。

 その様子は真剣そのものと言った感じで、茶化す気など一切無いことが伝わって来る。


「そ、そんな縁起でもないこと言わないでくれよ……それにまだ奥の手は……」


 それでも、俺はまだ死ぬ気はないし……彼女を死なせる気も無かった。

 何より俺にはまだ奥の手があって……。


「そうだよ! 何を言っているのメイデン!!」


 と、その時だった。

 復活したルキオラがメイデンにそう叫んだのだった。


「どういうことだ……? 彼女は死んだはずでは……いや、構わんか。どうせまた死ぬのだ。結果は変わらないのだよ」


 ルキオラの復活に最初は驚いていたルシファーだが、すぐにまた魔法の発動準備に入っていた。

 ……いや、魔法の発動まで遅すぎないか?


 もしや、四つもの第八等級魔法を同時に発動させるには相当な準備時間が必要になるのでは……。

 となれば好都合だ。何しろ俺の奥の手もまた、時間稼ぎが必要だったのだから。


「ここで諦めたら世界が……ううん、違うよね。あたしは……! 二人が、死んじゃうのは嫌だ。何としてでも、どんな手を使ってでも……生き延びて欲しいの。駄目……かな?」


「……駄目なわけあるか。俺だって、二人とずっと一緒にいたいと思ってるよ」


「……そうね。ここで諦めるなんて私らしくなかったわ。それに、貴方にはまだ奥の手があるのでしょう?」


 そう言ってメイデンはニヤリと笑いながらそう言って来る。 

 そうだ、その顔だよ。やっぱりメイデンはそうでないと。


「ああ、もう少しで……もう少しでアレが使えるようになるんだ」


「ハハハッ、別れの言葉は伝えたかね? 正真正銘、これが最期の一撃なのだ。その身で享受すると良い……!!」


「ッ!! 不味い、まだ時間が……」


 ルシファーが魔法の発動準備を終えたらしく、攻撃を放ってきた。

 だがこっちはまだあと少し時間が足りない。クソッ、このままだと……!!


「任せなさい……!!」


「ッ!? どうなっている……!? 腕が……動かん……!」


 メイデンの瞳が紅く光っている。恐らくは魅了を使っているのだろう。

 だが、彼女の様子が少しおかしかった。


「きっ、貴様ァァ!! この私が、低俗な魅了ごときで止まると思っているのかァァ!?」


「う゛っ……ぐぁ゛っ……!?」


「メイデン……!?」


 彼女の両目が、生々しい音と共に弾け飛んだ。

 メイデンのあの奇麗な紅い瞳が、今は見る影もなく消え去っている。

 そしてぽっかりと開いた眼窩は彼女の血で濡れていた。


 きっと魅了をアイツに……彼女よりも遥か格上となってしまった今のルシファーに向けて、無理やり発動させたからだ……。

 

「だ、大丈夫なのか!?」


「ええ、たかが両目くらい……数時間もすれば治るわよ」


「そうかもしれないが……!」


 目が弾け飛んだ瞬間の彼女の苦痛に呻く声が、今もなお脳に残っている。

 きっと、痛いだなんてものじゃなかったのだろう。

 想像も出来ない程の苦痛が彼女を襲ったであろうことは、もはや考えるまでも無く分かり切っていた。


「でもこれで……貴方の奥の手も使えるんじゃないかしら」


「ああ、君のおかげだ。ありがとう、メイデン」


「ふふっ、お安い御用よ」


「それじゃあ……正真正銘の最後の一撃を、アイツにぶちかますとするか……!!」


 視力を失っているメイデンをルキオラに預け、二人を守るようにして前に出る。

 そしてほぼ同時に、メイデンがルシファーにかけた魅了が解けたようだった。


「ふぅ……邪魔はされたが、所詮は低俗の魅了。貴様らが死ぬのが少し遅れただけだ。それとも、まだ何かするつもりなのかね?」


「その通りだ。俺もとっておきを残していたんでね」


「ほう、この期に及んで大それたハッタリをかますとは……魔王殺しも中々面白い事をするものだ。それとも、死ぬことへの恐怖で頭がおかしくなってしまったのかな?」


「言ってろ。お前が散々時間稼ぎをしてくれたおかげで、俺はとっておきの奥の手を使えるようになったんだよ」


 そう……結局のところ、これはルシファー自身があれだけ時間稼ぎをしてくれたおかげでもあるのだ。

 そうでなければきっと間に合わなかった。

 まあ、だからこそ彼を煽ったりして余分に時間を使わせたりした訳だが。


 そして、言わずもがな最後のピースはメイデンだ。彼女のおかげで、その時は来た。

 俺の持つ中で最も強い魔法……「世界魔法」であれば、ルシファーの四つもの魔法による同時発動攻撃だってどうにかなる。

 ……その確信が、今の俺にはあった。

本作をお読みいただき誠にありがとうございます!

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