72 はぐれたアリア
どうやら彼は俺たちに出会う前に幻覚を使う低級悪魔と戦っていたらしい。
そしてその際にアリアとはぐれてしまったのだとか。
こんな状況ではぐれたらまぁ……そりゃやけにもなるよな。
「すまねえ、いきなり斬りかかっちまって」
「良いんです。こんな状況ですからね。エルドさんの方も大変だったのでしょう? それで、貴方がよければなんですが……アリアさんを探す手伝いをしても?」
このまま彼女を放っておけば間違いなく死ぬだろう。
それは俺としても避けたいし、彼女がまた別の生存者と出会っている可能性だってあった。
少なくとも今は彼と協力することにメリットこそあれどデメリットは無いはずだ。
「それはありがたいが、良いのか? アンタらも出来るなら早くこの国から逃げたいんじゃ……」
「いえ、俺たちは生存者を探しているのでまだこの国から出る気はありません」
「そうか……凄いなアンタらは。俺はアリアと逃げることだけで精一杯だった。魔物と戦える力を持つ意冒険者でありながら、人を見捨てて俺たちだけ逃げたんだ」
「……仕方ないですよ。この状況では自分たちのことだけで精一杯でもおかしくはないですから」
俺だって、ステラとしての責任が無ければ出来る限り早く逃げたかった。
それこそルキオラとメイデンの二人だけでもさっさと避難させることを選んだだろう。
でも彼女たちは俺のためにこの国に残り、共に生存者の捜索を行ってくれている。そして今もこうして俺の判断に従ってくれているんだ。
……その期待に応えるためにも、絶対にアリアを見つけ出さないとな。
「それで、彼女とはぐれたと言うのはどの辺りなんですか?」
「ああ、確か……」
エルドについて行くと、低級悪魔の死体が転がっているT字路に行きついた。
「ここでコイツを殺した時にはもう、アリアはいなかったんだ」
「となると、別の道に進んでしまった可能性がありますね……」
今来た道にいないのは確かとして、どちらか片方の先へと彼女が進んでしまった可能性は高い。
となるとここは二手に分かれるべきだろうか。
「メイデン、ルキオラ、そっちを任せてもいいか?」
「構わないわよ。貴方のルキオラは私がしっかり守って見せるから安心してちょうだい」
「べっ、別に私はステラのものって訳じゃ……ま、待って、嫌って訳じゃないの。むしろその方が良いと言うか……いえ、何でもありませんよ。こちらは私たちにお任せください」
「そ、そうか……頼む」
ルキオラのあまりの豹変っぷりにエルドは呆気に取られていた。
「それではエルドさんは俺とこちらを探しましょうか」
「ああ、よろしく頼む。……お願いだ。生きていてくれ、アリア」
二人と別れ、エルドと共に道を進む。
すると少し歩いた所から低級悪魔の死体がちらほらと現れ始めたことに気付いた。
「……恐らくはアリアさんが倒したものですよね、これ」
転がっている低級悪魔の死体には斧のような武器で叩きつぶしたかのような傷が付いている。
彼女が背中に抱えていた武器が大斧であることからも、この先に彼女がいる可能性は高いだろう。
それからまた少し歩いた先で、地面に何かが転がっているのを見つけた。
それは人の腕……それも女性のものだった。
「なっ……!? 嘘……だろ……!?」
その腕にエルドが駆け寄って行く。
もしやとは思うが……。
「この肘当てに腕輪、間違いなくアリアの腕だ……」
「……」
ずっとアリアと一緒にいたであろう彼がそう言うんだ。
見間違いでも無く、きっとあれは本当に彼女の腕なんだろう。
「アリア……俺がもっと強ければ、俺がもっと慎重に動いていれば、君を助けられたのか……?」
エルドの悲痛な呟きだけが辺りに響く。
こんな状況だ。全てを諦めて悲観的になっても仕方がないだろう。
だが……まだその時ではない。
「エルドさん、まだ諦めるには速いです」
「……なんだって?」
「もし彼女が既に亡くなっているのであれば、この場に遺体が無く腕だけが残っているのは少々おかしいと思います。それに地面をよく見てください。垂れた血が向こうにまで繋がっています」
「……よく見りゃその通りだな。きっと俺一人じゃ気づけなかった……アンタのおかげだ、ありがとう」
極限状態では人の認識能力は大きく欠如してしまう。
俺だってあの二人が似たような状況になったら彼と同じようになってしまう可能性もあるんだ。
だからこそ、冷静な人が近くにいてやる必要がある。
「でも腕を失っているとなると、もうあまり長くはないと思います。急ぎましょう」
「そうだな。待っていてくれアリア……!」
再び道の先にいるであろうアリアを目指して進み続けた。
「くっ……なんなのよ、コイツ……!!」
すると、女性の声が……アリアの声が聞こえてきた。
「あそこですエルドさん!」
エルフとしての視力があってようやく確認できるほどの距離が俺たちとアリアとの間にはあった。
だが彼女の前には中級悪魔と思われる大型の魔物もいる。
このままでは間に合わないだろう……。
「アリアァァッ!!」
「エルド!? ……逃げて! コイツは、私たちじゃ手に負えない!!」
……仕方ない、あれを使うしか無いか。
「……モードチェンジ『マナウォリアー』」
そのスキルを発動した瞬間、俺の装備品は瞬く間に消え去り、代わりに露出度の高いビキニアーマーが現れた。
そう、あの忌まわしき戦士化のスキルである。
しかし今はこれを使うしか無かった。
何しろこの状態の俺は身体能力だけで言えば戦士系の300レベル以上に相当すると言っても過言ではない程なんだ。
であればこの程度の距離、文字通りひとっ飛びである。
「ぐぉっ……!? なんだ今の速度は……」
地面を強く蹴り、アリアの方へと跳躍する。
するとエルドの声があっという間に遥か後方へと飛んで行った。
「ニンゲンノニク ヤワラカイ オンナノニク……クワセロッッ!!」
「そうはさせない……!」
そのままの勢いで中級悪魔の首を刎ねた。
と同時にフライを発動させて勢いを殺し、アリアの前へと着地する。
「貴方は……! いえそれよりも……その恰好は一体?」
……うん。そうなるだろうとは、思ったよ。
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