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67 大司教とメイデン

「叫び声が聞こえたから飛び込んでみれば……貴方、まだこんなことをしていたのね」


 そう言うメイデンの顔はどこか昔を懐かしむような、そんな風にも見えた。


「何故なの! どうして私の好きにさせてくれないの!! ……あははっ、そう言う事なのね。これは神が与えてくださった私への試練。メイデン、お前をこの手で亡き者にすることで……私は救済されるの」


「あら、貴方に出来るのかしら」


「出来るわ。だって今の私にはあの子たちがついているんだもの。エミリー、ナターシャ、メアリーにルーリエ、お願い……私に力を貸してちょうだい」


 大司教の口から少女たちのものと思われる名前がスラスラと出てきた。

 嘘だろ……ついさっき攫って来たばかりの少女たちの名前をもう暗記したうえで、その手で何のためらいもなく殺したってのか……?

 それにあの顔は心の底から彼女たちへの慈愛に満ちたそれで……。


 駄目だ、見ていると頭がおかしくなりそうだ。

 ……狂ってる。そうとしか言えなかった。


「あは、あははっ……! メイデン、お前の最期を見届けてあげる!」


 ひとしきり不気味に笑った後、大司教はメイデンへと飛び掛かった。


「メイデン危ない!」


「大丈夫よ」


 その攻撃をメイデンは容易に受け止めたばかりか、自分よりも何倍も大きい大司教の体をはじき返していた。


「この程度では大した脅威にもならない。それはステラもわかっているでしょう?」


「それはそうだが……。正直言って、アイツは不気味で異質で、あまり関わりたくはないんだよ。それは君も同じだメイデン。君の身に何かあったら俺は……」


「あははっ、あははははっ! なんで、なんで勝てないの? 私はこの世界で力を手に入れたのに……どうしてなの?」


「あら、結構強めに飛ばしたつもりだったのだけれど、思ったよりも頑丈になったみたいね貴方」


 崩れた壁の瓦礫の中から現れた大司教は全身から出血していたが、それでも今なお戦意は喪失していなかった。

 一体何が彼女をそこまで駆り立てるのか。そしてメイデンとはどういった関係なのか。気になることは多い。


 だが……今はアイツを止める。それが最優先だろう。


「メイデン、俺が合図をしたら避けてくれ」


「わかったわ。それじゃあ、少しだけ暴れようかしらね」


 そう言うとメイデンはもう一本の剣を取り出し、二刀流の構えで大司教へと飛び込んで行った。


「ッ!?」


「こんな攻撃も見切れないのに私に勝つなんて、無理に決まっているでしょう?」


 メイデンの太刀筋は相変わらず素人そのものと言ったソレだった。

 だが戦士職としての攻撃力のステータスが、彼女が発動させたスキルが、その攻撃をまるで逸話に伝わる英雄の一撃なのではと見まがう物にまで昇華させていた。


「ぐぅっ……手足を切り落としたくらいで、良い気にならないで!!」


「流石は吸血鬼ね。これくらいじゃ全然効かないみたい。でも、これならどうかしら……?」


「メイデン、避けろ!!」


 彼女ならば避けてくれると信じ、ライトニングブラストを放った。

 この魔法は光属性の極太レーザーを放つ魔法だ。俺の魔法攻撃力で放てばその威力は大抵のアンデッドを容易く消失させる程になるだろう。


 光属性魔法が効果的なのは先ほどの攻撃で分かっていた。だからこそ、今度はもっと火力が高い魔法を放ち、奴を完全に無力化させる必要があった。


「ギャアアアッァァァァッッ!! 焼けるっ、体が! 熱いッ熱いぃぃッッッ!!」


 効果は絶大……それは彼女の断末魔を聞けば明白だった。


「嫌だ、嫌だァッ! 私はまだ、何も成し遂げていないのォッ……!! 私はこの世界でこそ、救済を……幸せになりたか……た」


 黒焦げになった大司教はもはやピクリとも動かなくなり、一切の声を発さなくなってしまった。


 ……不味い、殺してしまったのかもしれない。

 彼女がこの聖王都に良くない影響を与えているのだとしても、一応今は大司教と言う立場になっている。そんな存在を殺したとなれば……ヒエッ。


「安心しなさいステラ。彼女のレベルは低いけれど、仮にも吸血鬼なの。しばらくすれば元に戻るわよ」


「そう……なのか?」


「そうよ。だからその間に、やるべきことをやりましょう」


 メイデンはそう言って、俺に大司教の部屋へと案内するように促した。

 

「なるほど、要は彼女が大司教らしからぬ不正を行っていたのだと言う証拠を、部屋から探し出せばいいんだな?」


「その通りよ。いくら大司教と言えど、もっと立場が上の人間には逆らえないはず。その人に決定的証拠を見せつければ万事解決って訳ね」


 そうと決まれば、早速彼女が行っていた不正の証拠を探してやろうじゃないか。

 ……と、意気込んだ俺たちだったのだが。


「これ、少女たちの名簿だな」


「こっちは聖職者へ渡した裏金の帳簿ね」


「うわっ……他国への侵攻作戦みたいなのも既にある程度考えていたみたいだぞ。コイツらが動き出す前に対処出来て本当に良かったな……」


 そんな気合を入れる必要も無い程に、出るわ出るわヤバそうな書類がこれでもかと出てくる。

 結局、最終的には相当な枚数になってしまった。

 これだけあれば大司教一派の不正が認められるだろう。


 で、後はこれを誰に渡すかだが……。


「あなた方は……?」


「……」


 部屋の外から女性の声が聞こえてきた。

 しまった。完全にやらかしたな。探すのに夢中で意識が向いていなかった。


「えっと、これはですね。その……大司教様に関しての調査を……」


「大司教の……? ……ああ、そう言う事なのですね」


 女性は何かを理解したのか、頷きながらそう言う。

 待ってくれ、この状況で一体何を理解したと言うんだ?


「分かりました。あなた方が何者なのかは一旦置いておきましょう。それよりも……その書類、詳しく見せていただいても?」


「……どうぞ」


 彼女が何者なのかはわからないが、ここで拒んだところで状況は好転しないはずだ。

 それなら渡した方が良いに決まっている。


「ありがとうございます。ふむ……」


 書類を渡すと、彼女は「やはり」と何度も呟きながら全ての書類を軽く読み流していた。


「やはり、大司教は裏で不正を……それも相当に恐ろしい事をしていたようですね。……ですがそれも今日まで。この私が彼女を止めるのですから」


 彼女はあの大司教を自らの手で止めると言った。

 だがプレイヤーであるアイツをこの世界の住人がそう簡単に止められるはずが無い。

 下手に手を出して命を落とされでもしたら、それこそ最悪の事態だ。


「止めると言いましても彼女は……吸血鬼なんです。部外者である俺が口をはさむべきではないとは思いますが、そう簡単にはいかないかと」


「ええ、なので私が……聖女であるこのシルドミレニアが直々に手を下さねばならないのです」


「聖女……?」


 聖女だって?

 今ここにいる彼女がそうだって言うのか?


 確かに聖王都には国を統べる聖女がいた。それはゲームでも同じだった。

 だが設定だけが存在していて、聖女の姿はおろか名前さえもゲーム内では確認出来なかったのだ。


 そうか……聖女か。

 それなら確かに大司教をどうにか出来るかもしれない。

 このあと俺たちがどういう扱いを受けるのかはわからないが、少なくとも彼女に任せればもう二度とあんな酷い目に遭う子どもは出ないだろう。


「……大司教の悪行については私共が改めて調査を行います。あなた方には少しの間、我が教会でお待ちいただきたいのですが……構いませんね? お聞きしなければならないお話も多いようですので」


「え、ええ……それはもちろん」


「ご協力、感謝いたします」


 そう言いながら聖女は柔らかな笑みを向けてくる。

 ああ、民に慕われる聖女ってこういうのなんだな……と、そう思わざるをえないものを向けられては断ることなど出来なかった。

 それに大司教に関しては俺たちも他人事では無い。この国のためにも、彼女に協力できるのなら願ったりだった。


 こうして俺とメイデンの二人は一旦、聖女を中心とした本格的な調査が終わるまでの間、彼女が言った教会で待つこととなった。

本作をお読みいただき誠にありがとうございます!

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