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64 噂の真偽

 初っ端あんなこともあったため、俺たちはローブを被って姿を隠すことにした。

 ここでは身なりが奇麗なだけで標的になってしまう……そんな恐ろしい場所なのだと、実際にその洗礼を受けたことで改めて認識出来たのだった。


「てめぇ! さっさと動きやがれ!」


「ぐぁっ!! ご、ごめんなさい……」


 少し奥まった所に入れば、聞こえてくるのは男の怒号と子どもの叫び声。

 

「……」


 出来ることなら助けてあげたい。だが、助け出した所でその後どうする。

 今この瞬間から助け出したところで、子供がここで一人で生きて行くことは出来ない。結局はまた別の地獄が待っているだけだ。


 所詮はただの自己満足……。

 むしろ一瞬の希望を与えてしまうだけ、その方が酷いことになるかもしれない。

 理想と現実は必ずしも一致しない……頭ではわかってたはずなんだが、それでもやはりいざ目の前にすると中々にキツイものがあるな……。


「思ったよりも冷静なのね。貴方のことだから、てっきり誰彼構わず助け出すものだと思ったのだけれど」


「出来るならそうしたいさ。けど、その後を俺は保証できない。むしろ悪化する可能性だってあるんだ……だから俺には、彼らを助けられない」


「ステラ……あまり、気負わないでね」


 ルキオラは悲しそうな声でそう言う。

 俺が力不足ってだけなのに……彼女は本当に優しいんだな。

 

 その後、俺たち三人は手当たり次第に聞き込みをして回った。

 その結果……何やら怪しげな馬車を見つけることに成功したのだった。


「ねえ、あの人って……」


「あれは……」


 馬車から聖職者らしき男が降りてくる。

 その男は昨日広間でアリアたちと揉めていたあの男だった。


「お、親分……言われていたブツを用意いたしやしたぜ」


「ご苦労だったな。受け取れ、報酬だ」


 路地から出てきた男と彼の会話が聞こえてくる。

 と同時に、手足を拘束され、目隠しをされた状態の少女が何人も馬車へと運び込まれていった。


「……これだけなのか?」


「すいやせん、この貧民街の子共もだんだん数を減らしてきちまいやして……」


「はぁ……そろそろ限界か。基準を拡げるか……もしくは、いい加減別の国に侵攻するかを考えねばならんようだ」


 ……どうやら聖職者が少女を集めていると言うのは間違いなさそうだな。

 それに他の国への侵攻って、相当ヤバイ話をしているだろあれ。


 ただ、今の段階だとこれに大司教が関わっているのかがわからない。

 もう少し情報が必要だ。何かこう、良い感じにぼろを出さないものかねぇ……。


「おい暴れんじゃねえ!! 大人しく……ぐぁっ」


 その時だった。運ばれていた少女の一人が暴れ始め、彼女を運んでいた男の顔に頭突きをした。

 それが偶然だったのかはわからない。だが今の攻撃が相当に効いたのは確かなようで、男はその場にうずくまっていた。

 そして地面に落ちた少女へと聖職者の男が近づいて行く。


「何をしている……? お前、自分が何をしているか……わかっているのかぁ!?」


「ん゛ぐっ!?」


 その後、あろうことか地面に落ちた少女を聖職者の男は蹴り飛ばしたのだった。

 酷い……あまりにも酷すぎる。手足を拘束されている彼女は今はもう抵抗も出来ないのに、彼は少女の無防備な腹を蹴り続けていた。


「せっかくお前のような価値の無い者にも、大司教様は救済を与えてくださると言うのに……それを拒むなど、万死に値する!!」


「大司教……だって?」

 

 大司教による救済……それが何なのかはわからないが、どうやらそのために彼は少女を集めているらしい。

 と言うことはだ。この一連の少女の誘拐は大司教が先導している可能性が高いということになる。

 こうなった以上あの少女には悪いが、このままあの馬車を尾行し、確たる証拠を手に入れるべきだろう。


「ステラ……あたし、もう我慢できないよ……」


「……すまない、ルキオラ。辛いのはわかる。だがここは……どうか耐えてくれ」


 ルキオラの声は怒りに満ちていた。

 だが、今ここで彼らに俺たちの存在がバレる訳にはいかないんだ。

 

「はぁ……はぁ……お前が、悪いのだぞ。大司教様の寵愛を拒むお前が悪いのだ……」


「……」


 気付けば、少女はピクリとも動かなくなっていた。

 口からは相当な量の血が吐き出されていて、全力で蹴られ続けた腹は肉が裂けて内臓が飛び出ていた。

 恐らくもう……亡くなっているだろう。


「……さっさと詰め込め」


 聖職者の男はそれだけ言って馬車の中へと戻る。

 そして少女たちを積み終えた馬車は移動を始めたのだった。


「……行こう」


「……うん」


 気付かれないように、俺たちは馬車を尾行し始めた。

 あの少女のような被害者をこれ以上出さないためにも、大司教の悪事を明るみにしてやる必要がある。

 ……俺にはその義務があった。

本作をお読みいただき誠にありがとうございます!

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