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63 聖王都の貧民街

 朝が来た。

 温かいベッドから出るのはどうしてこう億劫なのか。

 そう、温かいベッドだ。まるでここで寝ているのが俺だけじゃないかのような……。


「わぁはぁ……」


 その瞬間、目に入って来たのは薄着の少女二人。

 忘れていた。そう言えば俺たちは三人部屋で止まることになったのだ。


 これは不可抗力……そう、不可抗力だった。

 なのですぐに視線を移し、出来る限り彼女たちの柔肌が見えないようにベッドを出て、寝ている二人に毛布をかけた。


「ふぅ……」


 こういったシチュエーションでの精神への負担は以前に比べれば大きく減っている気がする。

 恐らくはステラの記憶が混ざり合ったからだろう。

 ただ、彼女が上書きの危険性があったと言っていたように、俺の記憶や人格は上書きされたわけじゃない。


 要するに今の俺は千年以上生きたハイエルフの女の子であり、同様に日本で生まれ育った成人男性でもあるのだ。

 まあステラは生涯のほとんどをアトリエにこもって過ごしていたみたいだから、そのほとんどが魔法に関するものばかりなのだが。


 そうは言っても正直なところ、こんな状態では自分でも彼女たちとどう接して行けばいいのかわからない。

 それでも出来る限り、彼女たちの期待には応えていきたいと……そう思っている。


 その後、一階の酒場で朝食をとっていると二人も起きてきた。

 なので二人の分も追加で注文し、皆で朝食を食べながら今後の調査について話し合った。


 その結果、昨日の夜に聞いたことの真偽を確かめるためにも、俺たちは聖王都の辺境にある貧民街へと向かう事となった……。



 ――――――



 聖王都も人の多い場所は美しく整備されていて、暮らしている人々も比較的恵まれているように見える。

 少なくとも今のイダロン帝国のような荒んだスラム街とは全く違う。一見してまともな国……それがこの聖王都の第一印象だった。

 

 だがそれでも、全ての人々が救われている訳では無いようだ。

 辺境の方には物資も金も行き届いてないのか、中々に酷い有様だった。

 

「……あたしたち、歓迎されてないみたいだね」


「ああ、明らかに奇異の目で見られているだろうな」


 貧民街に入った時から俺たちは常に視線を感じていた。

 それもそうだろう。冒険者とは言え、こんなところに来るには俺とメイデンはあまりにも場違いな姿をしているんだからな。


「おっとごめんよ!」


「あ、あぁ……こっちこそすまない」


 その時、突然路地から少年が出てきてぶつかってしまった。


「ステラ、大丈夫?」


「怪我とかは無いし、問題ないよ」


「そうじゃなくて……持ち物とか」


「……? ……ああ、そう言う事か」


 一瞬ルキオラの言っていることがわからなかったが、すぐに理解した。

 ここは治安が最悪な貧民街。その状態であのようにぶつかってきた人間がそう言う事をする可能性も決して低くはないのだろう。


「心配はいらないよ。持ち物はほとんどアイテムボックスに入れているからね」


「あら、さっきの子が盗賊系のスキルを持っていないとも限らないわよ?」


「……ちょっと待ってくれ確認してみる」


 そうだ、この世界はスキルの存在するファンタジー世界だった。

 物理的に持っていないから大丈夫……とはならない訳で、盗賊系のスキルがあれば条件付きでアイテムボックスからもアイテムを奪えるのだ。


「えっと、大事な物は……特に盗まれてなさそうだな。けど何か違和感が……」

 

 基本的にはレベル差が大きすぎるとまともな物は奪えない。

 せいぜいレアリティの低いポーションとか安い装備品辺りが関の山だろう。

 で、そう言った貴重な物は大丈夫だったものの……アイテムボックスには何か違和感があった。


「あっ、低級ポーションが減ってる」


 違和感の正体はポーションの数だった。しばらく使っていないはずの低級ポーションの数が減っていたのだ。

 アイテムボックスを開くと確実に目に入るため、きっと残りの数が記憶に残っていたんだろう。


 つまりルキオラの心配は正しかった。無防備な俺はものの見事に盗まれていた訳だ。

 くっ、これが日本人の警戒心の無さってやつか……海外だとよく標的にされるらしいからな。

 ただ幸いと言うべきか、確認できる範囲で無くなったのはそれだけだった。


「どうするの? 今からならまだ取り返しに行けそうだけど」


「いや、良いよ。別にそんなに高価な物でもないからね」


 低級ポーションのために今ここで面倒事を起こすなんて、それこそ本末転倒だ。

 それほどの価値がある物ではない以上、ここは放置した方が良いだろう。

 

 こうして、貧民街での調査は幸先の悪いスタートとなったのだった。

本作をお読みいただき誠にありがとうございます!

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