60 ステラの置き土産
「……あれ、宝石は!?」
「さっきまでそこにあったはずだけれど……壊れてるそれじゃないかしら」
皆の声で我に返ると、そこには砕けた宝石があった。
「……ステラ?」
「ん? あぁ、ルキオラか。どうしたんだ?」
「なんだか、ステラの体から出てる魔力が少し変わったような気がして……」
魔力……か。恐らく彼女の記憶と一緒に魔力も俺の中に流れ込んできたんだろう。
と言うか、この感じだと彼女との会話はルキオラたちには見えていなかったのか……?
それどころか時間自体があまり進んでいないような……ああ、そうかなるほど。
早速彼女から受け継いだ知識が活きたな。
どうやらあの宝石には時間操作魔法がかけられていたようで、俺と彼女が会話をしていたのは物凄く圧縮された時間の中でのことだったみたいだ。
つまり、ルキオラたちにはさっきの俺と彼女の会話は見えていないし聞こえてもいないと言う事になる。
それなら、話しておかないといけないな。
この世界のステラのことを……そして、今の俺のことを。
――――――
俺の話を聞いたケラルトとルキオラに二人は、これでもかってくらいに驚いていた。
対してメイデンは割と落ち着いているというか……なんなら普段通りとまで言える状態だ。
「メイデンはもっとこう……驚いたりしないのか?」
「確かに驚きはしたけれど、ある程度予想通りだったもの」
「予想通りって……」
このトンチキな話を予想通りって、一体何をもってこんな予想をしていたのか。
……まあ、それはこの際置いておくとして。次に重要なのはこのアトリエについてだった。
彼女の言葉通りならこのアトリエは崩壊し、ここにあるマジックアイテムも魔導書も全てがその下敷きになると言う事になる。
ぶっちゃけ、そんなことになるくらいなら俺が貰いたい所だった。
「別に良いんじゃないの。きっとステラもそのつもりで貴女に記憶を与えたのでしょうし」
と、ケラルトは言う。
しかし一応はグリーンローズの王家の遺産ということになるわけで、彼女の方にこそ正当な権利があるはずだった。
とは言えそれを彼女に伝えても、このレベルのマジックアイテムや魔導書を管理しきれる気がしないとのことで、結局俺が持っておいた方が安全だと言う事になった。
ただ、魔導書に関してはあまりにも危険過ぎるもの以外は王国の図書館に寄贈することにする。
きっとその方が今後の国の発展……いや、世界の発展に繋がるはずだ。
また、それ以外にも何か重要なものがあったらいけないので、とりあえずアトリエ内のありとあらゆる物を俺とメイデンのアイテムボックスに放り込んだのだった。
その後、入って来た時と同じようにケラルトが結界を開き、俺たちは聖地から出て街へと帰ったのである。
それから数日後のこと。
アイテムボックスに適当に放り込んだ物を三人で整理していた時のことだ。
「これ、何かしらね」
メイデンが取り出したのは一つのマジックアイテムだった。
当然ステラの記憶を持っている俺はそれが何なのかはわかる。
……わかるからこそ、それを使わせるわけにはいかなかった。
「さあ、何だろうな。とりあえずそこら辺に置いておいてくれ」
「あらあら……今の貴方にはこっちのステラの記憶があるのでしょう? それならこのアイテムが何なのかわかると思うのだけれど」
クソッ、勘が鋭いせいで雑な話題反らしだと全く意味がない。
「あたしも気になるなぁ。けど、ステラが言いたくないなら仕方ないよね」
「うぐぐっ……」
そんなに悲しそうな顔をしないでくれルキオラ。なんかこう、罪悪感が凄い。
「ほら、彼女もそう言っていることだし……観念しなさい?」
「おっお前わかってやってるな!?」
「さあ? なんのことかしら?」
確信した。メイデンはあのマジックアイテムがどういう物かわかったうえで言っている。
「おいやめ、あっ……」
メイデンとわちゃわちゃやっている間にマジックアイテムが起動してしまった。
「ステラ!? ……え?」
「……ふふっ。ステラ、よく似合ってるわよ」
メイデンが俺の姿を見るなりからかってくる。
だから、嫌だったんだ。
このマジックアイテムは簡単に言えば、頭からケモミミを生やすためのものだった。
どうしてこんなものがあるのかと言えば、彼女の記憶曰く「面白そうだったから」……だそうだ。
そのせいでこんな恥ずかしい姿をメイデンに見られることになってしまった。
くそっ、何でステラはこんなものを作っているのか……!
しかし真に恐ろしいのは、「面白そうだったから」で作ったようなトンチキマジックアイテムがまだまだたくさんあることだ。
……やっぱり、こんなマジックアイテムなんて持って来なければよかったのかもしれないな。
「その耳、ふわふわで可愛くてあたしは良いと思うよ?」
「……ありがとうルキオラ」
「そうね、ふふっ……凄く可愛いわよ」
「メイデン、お前は許さん」
ルキオラから言われるのは恥ずかしいながらも嬉しいが、メイデンから言われるのは駄目だ。絶対に許さん。
「あら、手厳しいわね。でも可愛いと思うのは本当よ? ほら、こことかモフモフで凄く……」
「んぅっ!?」
「……ステラ、それは私を誘っているってことで良いのよね?」
「は……? え、待てメイデン目が怖……んぁっ」
ケモミミにはしっかり神経が通っているのか、彼女の柔らかな手で触られる度に何とも言えないゾクゾクが襲ってきて……って、何を考えているんだ俺は。
相手はあのメイデンだぞ。下手な事をすれば更なるネタにされるのは目に見えている。
なのに……。
「メイ……デン……?」
彼女の目を見ていると、不思議と抵抗する気は起こらなかった。
「そ、そんな……メイデンもステラもいつの間にそんな関係に……」
待ってくれルキオラ、違うんだ。これは本当に違うんだ。
そうだ、チャーム。メイデンはチャームを使えるんだ。きっとそのせいでこんなことに……。
「ふふっ、抵抗しないってことは……そう言う事よね?」
「……ステラのそんな顔、あたし初めて見たよ。……凄く、可愛いね」
あれ、ルキオラの様子もおかしくなってないか?
……いや、彼女は割と積極的だったか。それが今爆発してしまったと言うだけで。
「貴方のその蕩けた顔をもっと見せてちょうだい?」
「あたしにも、ステラのもっといろんな姿を見せて欲しいな」
ジワジワと近づいてくる二人。
待ってくれ、これ以上は……俺の尊厳が、無くなってしまう……!
「ステラさん! 依頼の話で相談が……って、これは何事ですか!?」
と、その時だった。突如として部屋の扉が開け放たれ、アーロンが入って来たのである。
最初の内はきちんとノックをしていた彼女も今ではこんなに大胆に……だが、そのおかげで助かった。
彼女の突然の来訪により、メイデンとルキオラの二人による俺の尊厳破壊はそこで終了となり、間一髪のところで俺は一命をとりとめたのだった。
本作をお読みいただき誠にありがとうございます!
これにて『第三章』は終わりです。次章をお楽しみに!
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