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57 グリーンローズの聖地

 あれ以降特に魔物に襲われることも無く、予定通り俺たちは明朝から本格的に森の中を進むこととなった


 そんなこの森は聖域と呼ばれているらしく、ヴォーガラン大森林よりもさらに濃い魔力が空気中や地中に混ざっているようだ。 

 確かにそう言われると肌がピリつくと言うか、具体的にはMPの自動回復能力が強化されている感じがする。

 俺がハイエルフだっていうのも関係があるのかもしれないな。

 

 ……ただ、この森はゲームには存在しなかった。

 これまでの事からこの世界にゲームとは違う点が多いことはわかっている。それはこの森も例外では無いと言う事だ。

 予期せぬ事態が起こる可能性だってあるし、慎重に進むに越したことはないだろう。


 しかしと言うべきか、そう言う時に限って何も起こらないものである。

 時折、この森の原生魔物が姿を現すものの、温厚な者たちばかりで攻撃を仕掛けてくるわけでも無かった。

 ヒャッハー経験値だぁ! と、こちらから手を出したところで利点も特にないので、戦うこともなく俺たちは進み続けた。


「ここよ」


 ケラルトがそう言って立ち止まった。

 一見して何も無いように見える場所だが、彼女が懐から取り出した宝石を掲げると、何やら結界のようなものが現れたのだった。


「これがケラルトさんの言っていた結界ですね」


「ええ、魔物も人も、あらゆるものを弾く聖なる結界なの。……開いたわね、行きましょう」


 結界が裂けるようにして入口が出来たため、そこを通って結界の内側へと入る。

 するとすぐに結界は元に戻った。なるほど、セキュリティはバッチリと言う訳だ。


 その後、ある程度進んだ頃だろうか。物凄く大きな湖が見えてきた。


「ここがグリーンローズの聖地……かつて私たちの先祖が治めていた地よ」


「ここが……」


 今となっては文明など感じられない程に自然に帰してしまっているようだが、風化したレンガの欠片のようなものが湖沿いに散らばっていることからも、ここに何かしらの街……それもそれなりの規模のものがあったことがうかがえた。


「あっ、待って!」


「えっ」


 無意識の内に湖に近づいていたようで、ケラルトは慌てた様子で俺を止めた。

 だが時既に時間切れ。俺の片足は湖の水に浸かってしまっていた。


「今のこの湖は魔力が濃すぎて、生物が触れるとその魔力濃度に耐えきれなくて体が……」


 な、なにそれ怖い……!

 いや勝手に入ったのも悪いけど、もっと先に言っておいてくれよ……!

 ま、不味い……このままでは致命的な致命傷に……ん?


「ステラ、大丈夫なの!?」


「あ、あぁ……大丈夫みたいだ」


 体の端から消失していく……などと言う事はなく、むしろMPが回復している感覚すらあった。


「嘘、何ともないの……?」


「何ともない……ですね?」


「良かったわ……でもどういうことなのかしら。ドラゴンですらこの湖に触れたら魔力火傷を起こすくらいなんだけど」


「そんなに恐ろしい湖なんですかここ……」


「昔はそんなことは無かったんだけど、魔王との戦いの過程で物凄い量の魔力がこの辺り一帯を襲ったのよ。それ以降、森も湖もまともに住めるような環境じゃなくなってしまって……」


 ああ、道理で結界の中に魔物がいなかったわけだ。

 流石の魔物も、魔力が多すぎたら駄目ってことだな。


「あれ? でもその割には植物は普通に生えてますよね」


「それなんだけど、今ここに生えている植物はほとんどが……いえ、全てと言っていいかもしれないわね。気付けば、いつのまにか勝手に生えてきていたものなのよ」


「えっ……」


 生物が環境に適応するように進化していくというのはあるあるだが、全く無かったはずの場所に勝手に生えてくるって……そんなことあるのか?

 ましてやまともな生物も生きられないような水の周りで……?


「さて、あまり長話をしていても危険だし、早く進みましょうか」


「危険?」


「ここの異常な魔力を帯びた空気をずっと吸っていると、体の内側から徐々に壊死していっちゃうのよ。魔力過多とでも言うのかしらね」


「ッ!?」


 なんてことだ。あまりにも危険すぎるだろここ!


「まあでも、数時間程度なら大丈夫よ。……多分」


 多分って、そこは断定して欲しかったな。


「じゃあ行きましょう。聖地の中でもステラしか入ることが出来ない場所があるの」


 そう言ってケラルトは歩き始める。

 それについて行くと、何やら小屋の跡地のようなものが見えてきた。


「あそこがステラが魔法の開発に使用していたアトリエよ」


 あの中に、俺の記憶や勇者召喚に関する何かがあるかもしれないのか。


「でもステラ以外は扉が開けられなくて、結局中に何があるのかは誰もわからないの」


「それじゃあ結局俺たちでも開けられないのでは……」


 と、その時だった。


「あら、そうでもないみたいよ?」


 どういう訳か、扉が開いたのだ。


「そんな……数百年以上もの間、何をしても開かなかったのに……」


「……やっぱり、俺が鍵なのか?」


 彼女の言葉からして、この扉が開いたのは間違いなく俺がここにいるからだろう。

 つまり、やはり俺は……。


 いや、深く考えるのは後だ。

 今はとにかくこの先に進んで、情報を得る。それが最優先だった。

本作をお読みいただき誠にありがとうございます!

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