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55 メイデンのチャーム

 テントの中には風呂も用意してある。

 日本人としてはやはりこれは外せないのだ。

 幸いにも、魔石と言う魔力を持つ宝石を使えば水もお湯も用意は簡単だったからな。作ることはそんなに難しくは無かった。


「これ、お風呂……だよね?」


 そんなお風呂にルキオラは興味津々といった様子だ。

 風呂自体はそれなりに大きい街であれば公衆浴場が存在している。

 食べ物に関してもそうだが、恐らくは過去に召喚された勇者が伝えたものなんだろう。


 だが設置・維持共にコスト面に関しては中々に難しいものがあるようで、個人で持っている者はほぼいないし併設している宿もかなり少ない。

 だからこそ、こんなテントに風呂がついていること自体が異質なんだろうな。


「今からお湯を沸かすから、先に入っていてくれ。俺はその間に食事の準備をするからさ」


「いいの……? ありがとう、ステラ」


 食事に関しても、俺にはまだ隠し玉があった。

 それをお披露目するためにも準備が必要なのだ。


 それから少しして、食事の準備があらかた終わった頃、テントからルキオラが出てきたのだった。

 火照った肌に加えて彼女のふわふわの長い髪は湿度で垂れていて、普段の印象とはまた違ったものを感じる。

 端的に言えば、物凄く煽情的で、色気が凄かった。情欲を誘う美少女とでも言うべきだろうか。


「どうかしたの?」


「あっ、いや……何でもないんだ」


 いやいや落ち着け。彼女とはそう言う関係では無いんだ。

 同じパーティの仲間。そう、彼女とは仲間同士の関係なんだ。

 そう言った目で見ては彼女も困るだろう。


「あっ、それってもしかしてピザ?」


「んあぁそう、ピザだよ。持ち運びできるピザ窯も作ってみたんだ」


 彼女の興味が別の所に移って助かった。

 で、そのピザ窯だが……もちろんこれもまたマジックアイテムの一種だ。

 火力調節機能も付いているからピザ以外にも色々と応用が出来る。このテント含む俺の自信作の内の一つだった。


「それじゃ二人を呼んでくるからルキオラは座って待っててくれ」


 ルキオラにそう言い残して、俺はメイデンとケラルトの二人がいるテントへと向かった。


「メイデンにケラルトさん、夕食の準備が終わりましたけど……あれ、反応が無い?」


 このテントには内部の音を外に出さないようにする機能も付けたんだが、どうやらそれが発動しているらしく二人の声が聞こえなかった。

 でも何でそんな機能を……またメイデンが変な事をしているんじゃないだろうな。


「……入りますよ? ……えっ」


 テントの中に入るやいなや、ベッドの上にいる二人が目に入って来た。

 だが、ただベッドの上にいるだけじゃない。


「うぅ……メイデン……」


「ふふっ、もっと甘えてもいいのよ」


 どういう訳か、ケラルトが泣きながらメイデンに抱き着いているのだ。


「メイデン……また何かやったのか?」


「あら、心外ね。またって言われる程に何かをやらかしている気はないのだけれど」


「ぐすっ……違うの、彼女はむしろ私のためを思って……」


 ケラルトは顔を涙でぐちゃぐちゃにしたままそう言った。

 ……まるで状況がわからん。一体何があったと言うのか。


 その後少しして、落ち着いたケラルトは何があったのかを話してくれた。


「見苦しいところを見せてしまってごめんなさい……。私、どうやら自分でも認識できないくらいに思い詰めていたみたいなの。だけど彼女はそれを瞬時に見抜いて、ありのままの私を認めてくれた……それが凄く嬉しくて……」


 メイデンお前、ダンジョンでもそうだったが……前職はカウンセラーか何かなのか?


「それにその、包容力が凄くて……抱いているだけで心がすぅっとしていって、気持ち良くなって……」


「メイデン、一応確認するけど……ヤバイ薬とか使ってないよな?」


「そんなもの使ってないわよ。でも、コレは使ったわ」


 そう言うとメイデンは目を紅く光らせた。

 えっ何それ知らん怖い……。


「吸血鬼と言えばチャームでしょう? 私も例外じゃないってことよ。それで心の警戒を解いて、後はちょこちょっとね」


 魅了……ってことか。それを使って彼女の警戒を解き、そっからは話術で緊張や抱えているものの重圧から来る精神的ダメージすらも無きものにしたと。

 ちょっと、いやあまりにもぶっ壊れな組み合わせじゃないかお前それは。

 ……だが妙だな。グレーターヴァンパイアにそんなスキルあっただろうか?

 

 ネワオンでは職業以外にも特定の種族が最初から持っているスキルが存在する。

 俺のハイエルフの場合は「魔力循環」と言うスキルがあった。

 これはMPの自動回復能力を付与するもので、魔法系ビルドであれば持ち得のスキルだった。


 そして同様にグレーターヴァンパイアにも固有スキルのようなものがある。

 それは「吸血」と言うスキルであり、与えたダメージに応じてHPを回復することができるものだ。

 魅了とは似ても似つかぬスキルであることは確定的に明らか……彼女が使ったのは一体何のスキルなんだ……?


 ……まあ、そんなことはこの際どうだって良いか。

 少なくともケラルトの顔は憑き物が落ちたような、すっきりとしたそれになっている。

 それだけでいいじゃないか。別に、これ以上変に掘り下げる必要もないんだ。


「そう言えば、夕食の準備が出来たんだったわね。早くいかないと冷めてしまうわよ」


「んあぁそうだったな。ケラルトさん、どうぞこちらへ」


「ありがとう、ステラ。何から何までごめんなさいね」


「いえいえ、俺としても作ったマジックアイテムのお披露目タイミングを探っていたところなので」


「マジックアイテム……? って、これ全部今ここで作ったものなの!?」


 用意してあった料理を見た瞬間、ケラルトはそう叫んだ。

 

「ピザにチキンに、それにこれは生野菜……? 嘘、どうしてこんなに新鮮なの……?」


「冷蔵庫……いや、えっと……食材を冷やして保存するマジックアイテムを作ったんです」


 そう、隠し玉その2は冷蔵庫だ。

 魔法を水晶に封じ込められるのなら、氷魔法を上手いこと使って冷却装置を作れると思ったんだよな。 

 んで、実際に作れてしまった訳だ。これがあればいつでも新鮮な野菜や果物を食べられる。


 なお後で知ったことだが、アイテムボックス内のアイテムは時間が進まないようだ。

 つまり、別にこの冷蔵庫を作る必要はなかったのである。悲しい。


 とまあこうして一悶着あったとは言え、野営にしては豪華過ぎる夕食を終えた俺たちは眠りについたのだった。


 ……見張りをしなくて良いのかって?

 そこもまたマジックアイテムの出番だ。

 結界魔法を使ってテントを覆っているから、魔物が中に入ることは出来ない訳である。

 そう、本来ならそのはずだったのだ。

本作をお読みいただき誠にありがとうございます!

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