54 空間魔法付きテント
「グリーンローズの聖地……ですか?」
「そう、私たちには先祖代々守ってきた場所があるのよ。それで、そこにはステラ以外が立ち入れない所もあるの。きっとそこに行けばもっと詳しい情報が得られるはず……多分ね」
そうか、言わばこの世界のステラが本拠地にしていた場所ってことか。
であれば確かに色々と気になるものはある。
それこそ勇者召喚の魔法についてもわかるかもしれないし、元の世界に戻る方法も……いや、それは別に良いか。
それよりもステラと俺の関係性の方が気になるところだ。
「俺としても知りたいことは多いんです。ぜひ、お願いします」
そう言う訳で、俺たちは彼女とともにグリーンローズの聖地とやらに向かうこととなった。
しかしこの聖地という場所、どうやらフライで飛んで行くことが出来ないらしい。
と言うより、この聖地を含む広範囲が結界魔法で守られているために上からの侵入どころか決まった入口以外から入ること自体が出来ないようだ。
そのため、まずは聖地のある森までフライで飛んで行き、その後徒歩で入口へと向かうこととなった。
「……空を飛ぶってこんな感覚なのね」
俺に抱えられてここまで来たケラルトは血色が悪く、今にも倒れそうな状態となっていた。
まあそれもそうか。あの高さをあの速度で飛んできたんだ。慣れていないのなら、もはや怖いどころの話じゃないだろう。
ジェットコースターで最高速が出ている状態が常に続いているようなものなんだもんな……。
と考えると、メイデンはよくあんなにすぐにフライを使いこなせたよな。
振る舞いとかも割と最初からずっとあんな感じだし、恐怖感とかそう言うのが抜け落ちてるんじゃないのか……?
「ごめんなさい、少し休ませてくれないかしら……」
思った以上に精神的にも肉体的にも疲労しているようで、ケラルトはよろよろと動きながらそう言って来た。
そろそろ日も暮れそうだし、今日はもう動かない方が良いのかもしれないな。
「そうですね。それじゃあ今日は一旦ここで野営をして、明日の朝から入口に向かうと言うことでどうでしょう」
「ありがとう、それで構わないわ」
彼女からの了承を得た。と言うことは……早速コイツをお披露目する時がきたわけだ。
なのでアイテムボックスを開き、とあるアイテムを取り出した。
「あら、テントなんて持ってきていたのね」
「いつ野営することになっても良いように、常にアイテムボックスに入れているんだよ。だが、大事なのはそこだけじゃないぞ」
テントの入り口を開いて見せる。
「これって……空間魔法だよね?」
「ああそうだ。前にアーロンが使っていたテントを見て、俺も作ってみたくなったんだよ」
で、実際作れてしまった訳だ。
どうやら今の俺はゲーム時代に手に入れた「スキルとしての魔法」だけではなく、この世界準拠の魔法も一から学べばしっかりと使えるらしい。
流石はグランドウィザードと言うべきか。
「どうぞ、ケラルトさん。あの酒場の地下程の規模では無いですけど、これでも一夜を明かすには充分だと思います」
「いえそんな……空間魔法を使えるってだけでも凄いのに、これだけの家具を配置するなんて……」
「そう……なんですか?」
彼女に話を聞いてみると、どうやらあの時アーロンが使っていた空間魔法付きテントは相当な高級品だったらしい。
そもそも本来空間魔法はこれほどの規模で扱えるものでは無いようだった。
小箱の中身を少し増やすとか、その程度の使い方が基本なんだとか。
それこそ王国の図書館やあの酒場の地下を作ったのは賢者と呼ばれている最高峰の魔術師らしく、そこまで行かないにしろ快適に暮らせるくらいのテントを作れる魔術師は、魔法の腕だけで言えば冒険者ランクで言うゴールドランクは余裕で超えるだとかなんとか。
それほどの物を作れたって考えると、中々にこう……達成感があるな。
「それじゃあ皆の分を出すから待っていてくれ」
「待って、ステラ」
「どうしたんだ?」
アイテムボックスから追加のテントを出そうとすると、それをルキオラが止めた。
「ここだといつ魔物が現れるかもわからないし、少なくとも……ふ、二人以上で一緒にいるべきじゃないかな」
それは確かにそうだが、俺はこの見た目だが中身は男だ。流石に女の子と同じテントで寝る訳にはいかない。
そのことは彼女にも伝えていたはずなんだが……仕方ない、向こうでの性別は教えてもらっていないが、ここは消去法でメイデンと一緒にいるとしよう。
それにまあ、彼女であれば間違いが起こることは無いだろう。
いや起こす気はないけども。
「流石にそう言う訳にはいかないよ。でも、ルキオラの言う事ももっともだ。だから君はケラルトさんと一緒にいてくれないか?」
「それじゃあステラはメイデンと一緒ってこと……?」
ルキオラがジトっとした目で見つめてくる。
待て、彼女とはそう言う関係じゃないんだ信じてくれ。
「あら、私は構わないのだけれど。王国では同じ部屋で過ごした仲じゃない」
「お、同じ部屋で……!?」
「待てメイデン、話をややこしくしないでくれ」
あくまでメイデンが勝手に俺の部屋に居座っていただけだ。
断じて俺が誘った訳じゃないし、そう言う事もしていない。
「でもそうね……別に良いんじゃないかしら。貴方が信用できないような人物なら、もうとっくに事を起こしているでしょうし。私があれだけ誘惑しても手を出してこなかったのだから、きっと大丈夫よ」
「誘惑って……」
からかってきている訳では無かったのか?
いや、メイデンの事だ。彼女の言葉の全てを信じるのは危険が危ない。
でもきっと彼女なりに俺を信頼してくれているんだろう……そう思って良いんだよな?
「メ、メイデンもそう言ってるし……やっぱりステラはあたしと同じテントで寝るべきだと思うの」
「そう言う話だったっけ……? まあでも、ルキオラが良いなら……それで構わないか」
何か話の方向性がいつの間にやら変わっているような気がするが、この分だと引き下がってはくれなさそうだった。
なので、結局ルキオラと俺、そしてメイデンとケラルトが同じテントを使う事となった。
メイデンとケラルトを一緒にしておいて良いのかは少々心配なところだが、流石の彼女も下手なことはしないだろう。
……と、信じたい。うん、信じるしか無かった。
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