53 ネワオンと異世界
「そんなことが……でも、ステラは確かにそう感じていたんだもんね……?」
「そう感じることを含めてただの夢であり与太話って可能性もあるにはあるが……」
「けど、それにしてはえらく具体的なのよね。原初の魔王については私も聞いたことがあるの。この世界に現れた最初の魔王であり、そこからこの世界は長い魔王との戦いを続けることになった……ってね」
「何だそれ、俺は知らないぞ……どこで聞いたんだ?」
メイデンは俺も知らない情報を出してきた。
いやまあ俺だって何でも知っている訳じゃないが、少なくともネワオンに関しては誰よりも詳しい自身があった。
「イダロン帝国のスラム街に残された文献に書いてあったのよ。まあ、ただのおとぎ話みたいなものだと思って心の片隅……いえ、かなり奥の方に追いやっていたのだけれど。まさかここでその情報が役に立つだなんてね」
イダロン帝国か。そう言えばあの国は魔王と戦うために魔導騎士を作っていたんだったな。
であれば魔王に関わる文献を集めたりしていてもおかしくはないのか。
「それよりも、重要なのは勇者召喚の方ね。貴方が見た夢が正しいのなら、かつてこの世界に存在した方のステラが勇者召喚の魔法を完成させたことになる。そしてルーンオメガよりも前の魔王が何体も復活しては討伐されていると言うことは……既にこの世界には何人もの勇者が召喚されていることになるじゃない」
メイデンの言う通り、魔王程の存在を倒せるのなんてそれこそ勇者でも無ければ不可能だろう。
であれば必然的に彼らはこの世界に複数人いることになる。
王国が召喚した勇者だけではなく、もっと多くの勇者がこの世界にはいるってことだ。
「でもその割にはあまり話を聞かないよね」
「多分、時間が経ちすぎているのよ。考えてもみて? 召喚された勇者が長命種でもなければ、その寿命はせいぜい数十年くらい。これじゃあ既に亡くなっていると考えた方が自然よね」
「確かにそうだな。けど、それだとまだ問題がある」
ネワオン内での時代とこの世界の時代の差は500年以上だ。
もしも魔王との戦いが最初の百年とかで行われたのなら、その後の数百年で勇者本人は死に、歴史が風化していく可能性も無くはない。
だがそうだとしても、長命種が見聞きした戦いを伝えないはずが無いんだ。
エルフのような長命種が存在するこの世界において、証人が数百年生きたまま語り継ぐことは決して難しい話じゃないだろう。
そのことをメイデンに伝えると、彼女は少し考えた後に口を開いた。
「そもそも、ネワオンとの時代差自体がこの世界とゲームとの関係性に何の影響も与えないんじゃないのかしら」
「何だって?」
「だって、あれは結局のところただのゲームなのよ。私たちがゲームと同じ見た目と能力で召喚されているのはあくまで勇者召喚の力であって、別にゲームの世界そのものに召喚されている訳じゃない。それは貴方だってわかっているでしょう?」
……いや、そうか。確かにそうだ。メイデンの言う通りだった。
この世界はネワオンにそっくりではあるものの、微妙に違う所が多い。
それはてっきり時代の差が原因なのだと思っていたが……そもそもあのゲームとは違う、似て非なる世界である可能性だって充分あるのか。
むしろ、これはネワオンをやり込んでいて、ネワオンの事を知り尽くしていた俺だからこそはまってしまった泥沼のようなものと言える。
なまじ持っている知識と一致するものが多すぎるからこそ、ここがネワオンそのままの世界だと勘違いしてしまっていた。
「だからねステラ、ここはネワオンに似ているだけの世界であって、ネワオンそのものではない……と言う事も充分あり得るのよ」
「だとすれば色々な部分にも辻褄は合うしな。ありがとうメイデン。君がいなければこの情報にはたどり着けなかったよ」
「あら、随分とすんなり受け入れるようだけれど、結局はこれ自体もただの推測に過ぎないのよ?」
「それでもだ。君のおかげで視野が広がった……。何がどうあれ、この事実は変わらないんだ」
もちろん彼女の推測も、今持っている情報では百パーセント正しいと確信できるものではなかった。
だが、少なくとも俺一人では絶対に思いつかなかっただろう。
自分ではできないことを仲間同士で補う……うん、やっぱり仲間っていいものだな。
「ステラ! 目が覚めたんですって!?」
とその時、部屋の扉が勢いよく開いた。
そして慌てた様子のケラルトが入って来る。
「良かった……宝石に触った瞬間倒れちゃったんだもの。貴方の身に何かあったらどうしようかと……」
「心配をおかけしてすみません、ケラルトさん。それにベッドまで使わせてもらうなんて……」
「気にしなくて良いわ。元はと言えば私が貴方に渡したいって言いだしたんだからね」
「ありがとうございます、ケラルトさん。それで……貴方に話しておきたいことがあるんですけど」
夢で見た光景を彼女にも話すことにした。
グリーンローズの血筋として彼女も知る権利が……それと同時に、知る必要があるとも思ったのだ。
「……そうなのね。それじゃあやっぱり、貴方にはあれを見せるべきだわ」
だが彼女の反応は思っていたよりも冷静沈着といったもので、感情を表に出すことなく淡々とそう呟いていた。
かと思えば、急に覚悟の決まった目で俺を見るなり……。
「ステラ、貴方に見せたいものがあるの。私たちの……グリーンローズ家の聖地へと来てくれるかしら」
と、そう尋ねてきたのだった。
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