51 グリーンローズ家の宝石
その後、ケラルトたちの元へ戻った頃には遠くにあったはずの光の点が無くなっていた。
なんでも幹部級を立て続けに失った結果彼らは統率を失い、エルフたちに各個撃破されていったらしい。
「ルーシー!! よかった、無事だったのね……!」
「ステラ!」
「うぉっと」
ケラルトにルーシーを預けるなり、ルキオラが抱き着いてくる。
あの、その鎧でぎゅっと抱きしめるのは止めて欲しい。圧が凄い……。
「えっと、ルキオラ……?」
「途中凄い音が聞こえて、あたしステラに何かあったんじゃないかって心配で……」
「ああ、あれはネフェトって言う幹部が出してきたハリケーンドラゴンを倒した時のだな……」
「ハリケーンドラゴンって……もう無茶しないって言ったのに……!」
より一層、ルキオラが俺を抱きしめる力が強くなる。
「け、怪我とかはしてないから大丈夫だ……あぁ……いや、ごめんルキオラ。俺のこと、心配してくれてたんだよな」
倒したかどうかとか、怪我をしてないとかどうかは関係なく、ルキオラは俺のことを心配してくれていたんだ。
きっと、自分も一緒に行きたいのを我慢して、ここを……ケラルトたちを守ってくれていたんだな。
「ありがとう、ルキオラ。それにメイデンも」
「あら、私はついでかしら?」
「待ってくれそう言うつもりじゃ……」
メイデンは相変わらずだが、それでも彼女もまた俺の事を心配に思って……くれてるよな?
とまあなんだか色々とあったものの、大規模なエルフ狩りはこちら側の勝利で終わったのだった。
そして後日、クレアが言っていたようにハンガーウォルフはものの見事に空中分解を起こし、構成員のほとんどがお縄についたようだ。
また彼らの本拠地からは攫われたエルフたちの一部が助け出されたらしく、その中にルーシーの友人もいたのだとか。
これにて一件落着、大団円!
……とはいかないんだよな。
既に売られてしまったエルフたちを完全に追うのは難しいだろうし、購入者に恵まれなかった場合は既に亡くなっているということもあるだろう。
ハンガーウォルフを壊滅させたこと自体は大きな一歩であり、今後の被害を無くすためには重要なことだ。
それでも奴らがエルフたちに取り返しのつかない傷を与えたことに変わりは無いし、その傷を癒すにはきっととてつもなく長い時間がかかるのだろう。
――――――
それからまた数日が経った頃のこと。
「俺に手紙ですか?」
「ええ、ケラルトさんと言う方から届いていますよ」
アーロンはそう言って俺に手紙を手渡してきた。
「えっと……? ああ、そっかそう言えば……」
手紙の内容はとても単純なものだった。
前に言っていたグリーンローズ家に伝わる宝石だかなんだかを俺に渡したいらしい。
しばらくはハンガーウォルフ関連で忙しかったものの、ここ数日はそれも落ち着いてきたからこのタイミングで渡しておきたいとも書かれていた。
となるとあまり待たせるのも悪いし、さっさと行ってさっさと貰った方がいいかな。
そう考え、メイデンとルキオラの二人にそのことを伝えたのだが……二人も同行することになった。
別に待っていてくれて良かったのだが、一緒に行くと言って譲らないので結局俺が折れることとなった。
まあ二人共飛べるし、移動自体に問題は無いからいいか……。
今回は別に危険があるわけでも無いしな。
そんなこんなでケラルトの元へとやってきた俺たち三人は早速彼女に案内されて、酒場の地下のあの謎空間へと戻ってきたのだった。
「まだ使ってるんですねこの場所」
「ええ、ハンガーウォルフは壊滅したけどまだ見つかっていない同胞はいるからね。彼女らを探すための拠点として今も使っているのよ」
そう言うケラルトの表情は初めて出会った時と比べてかなり柔らかなものになっていた。
きっと、張りつめていた緊張が解けたんだろう。
「それで、渡したいと言うのがこれなんだけど……」
お高そうな箱に入れられた宝石をケラルトが見せてくる。
「グリーンローズ家に伝わる話によれば、これは多分貴方に渡すべきものなの。でも……」
彼女の表情が暗くなっていく。
……そうだよな。家宝として、今まで守り抜いてきた宝石なんだろう。それをぽっと出の人物に渡すことに抵抗があるのは当然だ。
俺だってそこまでして欲しい訳では無いし、断ると言うのも選択肢としては充分ありだと思うが……。
「いえ、ごめんなさい。私から呼んでおいて今更拒むなんてね……」
「そんなことは……」
「いいの、私の我がままよりも伝承の方が大事だから。……なので、どうぞ」
そこまでされると貰うのも拒むのも心に来る……!
けど彼女は覚悟を決めたんだ。であれば俺だって……!
「わかりました。ありがたく頂戴しますね」
箱の中の宝石へと手を伸ばす。
「ぇっ……」
しかし宝石に指が触れた瞬間、体に力が入らなくなってしまった。
「ステラ!? どうしたの!?」
ルキオラが俺の名を呼んでいるが、その声はどんどん遠くなっていく。
ああ、これ……駄目な奴だ。確実に俺は意識を失ってしまうだろう。
「ステラ……!」
意識が途切れる最後の瞬間まで、彼女は俺の名を呼んでいた。
本作をお読みいただき誠にありがとうございます!
「ブックマークへの追加」「ポイント評価」をしていただけると励みになりますので、是非ともよろしくお願いいたします!