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49 屍のネフェト

 これだけ鬱蒼とした森の中だとフライも使えないし、こういった場所に慣れているルーシーとの差は離されるばかりだな……。

 

「……って、あれは?」


 前方に何かが落ちていることに気付いたのでよく見てみると……。


「うげ、首だこれ……」


 それは首だった。

 どうやら鋭利なもので切り落とされたらしい。物凄い奇麗な断面をしている。

 エルフの物ではないし、恐らくハンガーウォルフ側のものだろう。


「多分この辺りに……あ、あった」


 辺りを見回すと、近くに本体と思われる体が倒れていた。

 大きな鎌と一緒……となるとケラルトが言っていた「首狩りのオルタナ」って言う幹部だろうか。

 恐らく……いや確実に、ルーシーがやったんだよなこれ?


 彼女、思ったよりも強いのかもしれない。

 それでも単身で跳び込むのは危険が危ないから早く合流したい所なんだが……残念ながら移動するだけで中々に時間がかかる。

 もどかしい、焼き払いたい……けど、それは流石に不味いよなぁ。


「って、こっちにも倒れてるな」


 それから少し進んだ先にもまた倒れている人がいた。

 それ以降も進むたびに幹部と思われる者たちの死体が転がっていた。


 凄いな彼女、これだけの数を連戦で倒し続けているのか。

 それにそのおかげで、死体の位置関係から彼女が向かった方角がわかる。

 いくら強くてもこれだけの連戦続きだと辛いだろうし、さっさと彼女の元に……。


「なめんじゃないわよぉ!!」


「ッ!?」


 今のって虚像のクレアとか言ったあの幹部のものだよな……?

 それもかなり気迫があると言うか、かなり切羽詰まった叫び声だった。

 不味いぞ、いくらルーシーが強いと言っても彼に勝てるとは思えない。


「どこだルーシー! どこにいるんだ!」


 とにかく声が聞こえた方へと走る。すると、倒れているルーシーを発見した。


「ルーシー!? 大丈夫なのか!?」


「わた、しは……大丈……夫。だが、あの人……が、まだ……」


 ルーシーの指さす先が少し明るくなっている、恐らくは松明か何かが転がっているのか。

 そしてわざわざ指差したと言うことは、俺に向かって欲しいと言う事なのだろう。

 でも彼女を放置していいものなのか……?


「お願……い。彼を、クレアを……助けてく……れ」


「……分かった。ならせめてこれを」


 ポーションだけ渡して、俺は彼女の指さした方へと走り出した。

 どうして彼女がクレアを助けて欲しいのかはわからない。だがあれほど俺たちを邪険に扱っていたはずの彼女がこうして頼ってくれたんだ。

 その願いに、希望に、応えないわけにはいかないだろう。


 そのまま木々の間を抜けて灯りの元へと走ると、そこにはクレアともう一人知らない青年がいた。


「だからさ、君と僕とじゃ実力に差がありすぎるんだよ」


「うるさいさよ……負けるとわかっていても、戦わないといけない時がね……女にはあるのよ!!」


 全身傷だらけのクレアと戦っているのは誰だろうか。

 あの感じだとかなりの実力差があるのは明白だが、彼もハンガーウォルフの幹部なんだろうか?


「……おや、また新しくエルフがやってきたようだね」


 気付かれたようだ。

 けど今すぐに攻撃をしてくるような雰囲気では無かった。


「あなたがどうしてここに……!? だ、駄目よ! いくらあなたでもネフェトには勝てないわ!」

 

 ネフェト……か。どうやらそれが彼の名前らしい。

 けど、そんなことはどうだって良い。今はクレアを助ける。それがルーシーからの頼みなんだ。


「そう言う訳に行かないんだ。クレアを助けて欲しいって、ルーシーに頼まれたんでね」


「あの子が……?」


「それで馬鹿正直に来てしまったんだね。つまり、僕に勝てると思ってるわけだ。序列トップである僕に」


 序列トップ……だって? 

 そうかそれなら納得だ。あの時見たクレアの実力でこれほどまでにこっぴどくやられるなんて、普通はありえないだろうからな。


「まあいいよ。戦うなら拒否しないさ。君を無力化した後に彼を殺し、さっきのエルフの子を僕のコレクションにしてやるだけだからね」


「コレクションだって?」


「そうだよ。僕の死霊魔法を使えば、美しいまま永遠に保存することが出来るんだ」


 そう言うとネフェトは自らの周りにエルフを出現させた。 

 ……いや違う、これは死体……なのか?


 死霊魔法に動く死体……確か呪術系の職業にそんなスキルがあったな。

 なるほど、そう言う事か。その死霊魔法でルーシーもあの中に加えようって言う訳だ。

 ……させるかよそんなこと。


「と言うより、君も相当な逸材じゃないか。奴隷として売ってしまうのはもったいないなぁ。うん、そうだ。君こそ僕のコレクションになるべきだよ」


「生憎と、俺もルーシーもお前のものになるつもりは無い」


 誰がお前のコレクションになんてなってやるものか。

 それに彼女だってお前のものにはさせないぞ。絶対にだ。


「面白いことを言うね。君にそのつもりが無くても、僕の意思こそが絶対なんだよ。だって君は僕には勝てないんだから」


「その通りよステラ! 彼の実力はまだまだこんなものじゃないのぉ! 彼は隠し持っているの、全てを亡き者に出来る切り札を……!!」


「もう遅いよ。既に、召喚は終了したからね」


 彼がそう言うのと同時に、彼の前に魔法陣が現れた。

 そしてそこから何か、ドス黒い真っ黒な何かが出てくる。


「今まで使っていたのは見た目が微妙だから戦闘用に使っていただけの捨て駒エルフなんだけど……これは違うよ。最強にして最凶の怪物、かつて一夜にしてたくさんの街を滅ぼしたとされる災厄の魔物『サイクロンドラゴン』……の、屍さ」


「何だって!?」


「驚いたかい? 恐怖したかい? ……でももう無駄だよ。これは物凄く狂暴でね。召喚者である僕でさえ一度召喚してしまったらもうエネルギーが尽きるまで止めることは出来ないんだ」


 サイクロンドラゴンと言えばその名の通り暴風雨を起こすことを得意とするドラゴンであり、高い身体能力だけではなく強力な風魔法をも使う魔物だ。

 紛れもなく、強い魔物ではあった。

 

 そう、強い魔物ではあるのだ。


「どうしたのかな? 怖くて動けないかい? 命乞いをして僕のものになると懇願すれば、何とかしてあげないこともないけどね……?」


「もう駄目だわ……あなたはあの子を連れて逃げなさい。私が何としてでも時間稼ぎをしてみせるから……!」


「…………だろ」


「え? 何だい? 声が小さくて聞こえないなぁ」


「その魔物、この状況で出すには弱すぎるだろ……」


 確かにハリケーンドラゴンは強い。でも強いと言ってもそれはこの世界基準での話だ。

 適正レベルは280ちょっとで、使用できる魔法も七等級まで。ゲームにおいては登場時こそ強かったものの、結局カンストレベルが遥かに上昇している中ではただの雑魚でしか無かった。


 つまり、今のこの状況で偉そうに出してくるにしてはこう……正直、拍子抜けなのである。

本作をお読みいただき誠にありがとうございます!

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