47 エルフ狩り
あれから数日が経ち、とうとうエルフ狩りが決行されるであろう日がやってきた。
予定通り俺たちはケラルトたちと共に件の森へと向かい、奴らを迎撃する準備を始めた。
ちなみにエルフ狩りが行われると言うこの森は「ヴォーガラン大森林」と呼ばれる森だ。
確かネワオン内に置いては適性レベル100以上の敵が出てくるエリアだったはずだが、どうやらこの世界だと高くても30行けばいいくらいのようだった。
魔力が潤沢に含まれた空気や土壌によって魔法生物の楽園と化した……みたいな設定だったが、こうして実際に現実世界として見てみればより一層その通りなんだなってのがわかる。
異常なまでに太く大きい木々に、数えきれない程の種類の植物が地面を覆い尽くしている。
生息している魔物の数も多く、まさに生命の宝庫といった様子だ。
これなら確かにエルフがいてもおかしくはない……と言うか、実際にたくさんいるらしい。
「ケラルト、外から来た者に話してしまって本当に大丈夫だったのか? やはり今からでも……」
「大丈夫よルーシー。彼女たちは信用できる。それに物凄い実力を持っているのも確認しているわ。何も心配はいらない」
今回のエルフ狩りに対しての迎撃作戦に俺たちを加えたのはケラルトの独断……と言う程でも無いにしろ、リーダーである彼女がほぼほぼ先導しているのは事実であるために、俺たちをあまり良く思っていない者がいるのもまた事実のようだった。
現にルーシーと呼ばれた彼女は俺たちのことをかなり警戒しているみたいだ。
「今は少しでも戦力が必要なの。お願いルーシー、分かってちょうだい」
「……はぁ、分かった。ケラルトがそう言うのなら、そう言う事にしておく。だが……!」
ルーシーが鋭い目でこちらを見てくる。
「妙な行動をした瞬間、その首は無いと思え!」
こ、怖っ……!
俺たち、そこまで信用できない程に怪しいだろうか……。
王家と同じ名を持つハイエルフに不気味な程にミステリアスな少女に機械のような鎧に身を包む魔導騎士なんだぞ。怪しい訳が……。
あ、怪しい……!
「ちょっとルーシー!」
ケラルトが止めようとするものの、ルーシーはそのまま向こうへと言ってしまった。
「ごめんなさいね。彼女、友人をハンガーウォルフに攫われてしまって……それ以降ずっとあんな感じなのよ」
「……それは災難でしたね。まあ、こんな状況では警戒し過ぎるくらいがちょうどいいのも事実ですし、俺も気にしていませんから」
「そう言ってくれると助かるわ」
とまあ、なんやかんやあったもののあっという間に時は経ち……いつの間にか日が暮れそうな時刻になっていた。
誘拐を行うのであれば、そろそろ辺りが暗くなってやりやすくなってくる頃合いだろう。
「……来たわ」
と、その時だった。
ケラルトの見ている方向の先、ずっと遠くの方でたくさんの光がゆらゆらと動いているのが見えた。
「恐らく松明でしょうね。それも結構な数があるみたいだけれど」
メイデンの言う通り、あれは松明で間違いないだろう。
動き的にも高さ的にも人間が持っていると考えれば全て辻褄が合う。
だが気になるのはその数の方だ。見えるだけでも百は超えている。
松明を持っていない者がいることを考えれば、実際にはそれ以上の人数で責めてきていることになるだろう。
「奴らにとってこのエルフ狩りは何としてでも成功させなければならない苦肉の策……って読みは、どうやら正しそうだな」
足のつかないように誘拐を行うにはいくら何でも人数が多すぎるのだ。
これでは証拠を残すので探してくださいと言っているようなものだろう。
「ひとまず、このまま様子を見ながら向こうの動きを確認しましょうか。でも一応、いつでも戦える準備はしておいてちょうだい」
ケラルトがそう言うように、今は観察に徹するのがベストだろう。
エルフには暗視能力があるから、この暗闇でも奴らを充分観察することができる。
正直この状況において、これは圧倒的アドバンテージと言って良い。向こうは光源が無ければ何も見えないんだからな。
なおエルフでも無いメイデンがこの暗闇でもしっかり見えているのは彼女の種族がグレーターヴァンパイアだからだ。
またルキオラに関しても魔導騎士の鎧には暗視機能が付いているらしいから何の問題も無いとのことだった。……その鎧、多機能過ぎないか?
「この森のエルフたちは既に奥へと避難させているから、このままここで迎え撃てば……」
「アイツらが……絶対に許さない……!!」
「ッ! ま、待ちなさいルーシー!」
ケラルトの制止を無視して、ルーシーが飛び出して行ってしまった。
不味いな。彼女の実力はわからないが、あれだけの数を相手にして何とか出来るとは到底思えない。
「俺が行ってきますケラルトさん。メイデンとルキオラはもしもの時のために待機していてくれ」
「私も戦いたいところだけれど、仕方ないわね」
「ステラ……気を付けて」
「二人共ありがとう。それじゃ、少し行ってくる」
この場は二人に任せて、俺はルーシーの後を追った。
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