45 盗賊団ハンガーウォルフ
そこはとある酒場の地下だった。
「……」
ケラルトは酒場の店主と何やら話をしている。
と思えば、今度はすぐに彼女はこのまま奥へとついてくるようにと俺たちに言うのだった。
「こっちよ」
酒場の奥にある階段から降りると、そこには扉があった。
「……ようこそ、私たちの拠点へ」
「おぉ……!」
彼女が扉を開けると、そこには地下とは思えない規模の空間が広がっていた。
恐らくはアーロンがあの時見せてくれたテントのように、建物内の空間自体を拡張しているんだろう。
……だが、その規模は段違いだった。
彼女たちの中か、もしくはこの酒場か。どちらにしたって、かなりの腕の魔術師がいるのは間違いなさそうだな。
「ここにはハンガーウォルフから同胞を助け出すために、たくさんのエルフが集まっているの。まあ色々と説明をするためにも、ひとまずは座って話せる場所にでも行きましょうか」
そう言うケラルトについて行くと、椅子と机がまばらに置かれている会議室のような部屋へと案内された。
「さて、それじゃあ何から話しましょうか。伝えたいことも、聞きたいことも色々ある訳だけど……そうね、まずは盗賊団について情報共有をしておきましょう。さっきも言っていたように、貴方たちもそれが目的なのでしょうし……」
ケラルトは盗賊団……ハンガーウォルフについて、今現在手に入れている情報を俺たちに話してくれた。
まず、この盗賊団は元々は「飢えた狂犬」と言う冒険者クランだったらしい。
ちなみに冒険者クランと言うのは複数のパーティが集まって作られた組合非公式の冒険者組織のようで、アイテムや装備の交換及び譲渡を行ったり、場合によってはクエストに同行したりして傭兵のようなことをしたりするのが主らしい。
ただそれらは全て組合を通さず行われているものであり、時折トラブルが発生することもあるのだと言う。
そして飢えた狂犬はある時に大きな揉め事があり、完全に空中分解を起こしてしまったようだった。
その時に残った者たちが冒険者をやめ、盗賊になったのがハンガーウォルフの始まりなのだと言う。
だがこの世界において、盗賊は本来そこまで問題になるような存在では無かった。
指名手配されている者たちは多くの賞金稼ぎに狙われ、それこそクエストとして実力のある冒険者に討伐依頼が出されることだってあるのだ。
このハンガーウォルフだってすぐに霧散する。王国も最初はそう思っていたようだ。
現に彼らは最初の内は街道を通る行商人や低ランクの冒険者を襲うなど、典型的な小物ムーブを繰り返していたらしい。
しかしある時を境に全てが変わったのだと、ケラルトは言った。
それまでとは打って変わって組織的な行動を起こすようになり、構成員も増え、あの盗賊リーダーのようなマジックアイテムを使用する者が突然現れたのだと、そう言ったのだ。
つまり、かなりの規模を持つ何らかの組織が彼らに助力を行い始めた……と言う事なのだろう。
そうでも無ければこんなにも唐突に規模を拡大することなどありえないのだから、その読みは間違いないと思われる。
そしてその組織を調べるうえで重要なのが、エルフの誘拐及び奴隷売買だろう。
彼女の話によれば、攫われたエルフは各地の貴族や富豪に売られているようだった。
となれば必然的にそう言った層に売り込みをかけられる程の有力な奴隷商が怪しいのだが……。
「奴隷商が関わっているってのが厄介なのよ。奴隷の売買は国にとっても重要な産業。下手に手を打てば国内の経済に大きな影響が出かねないわ」
ケラルトがそう言うように、この世界では奴隷売買が一般的に行われているし、それはここエルトリア王国も例外では無かった。
そして国の経済活動の中枢にまで関わる奴隷売買を行う奴隷商は中々に特別な扱いを受けている。
そのため国としても「奴隷商が怪しいから」と言う雑な理由で取り調べを強行する訳にもいかなかったようだ。
ちなみに、ここで言う奴隷商と言うのはあくまで身寄りのない子供だったり自ら奴隷となることを志願した者を取り扱う国公認の奴隷商のことだ。
誘拐したり村を焼いたりして強制的に奴隷にするような非合法な奴隷商もいるにはいるようだが、そう言った者たちは基本的には規模が大きくなる前にすぐに摘発されてしまうらしい。
つまり、今回エルフの奴隷売買を行っているのは国公認でありながら裏で違法取引をしている奴隷商ということになるわけで……だからこそ厄介なのだった。
正直なところ後者であれば摘発してハイ終わりとなるものの、前者である以上は決定的な情報が無ければ国も動けないのだろう。
「そう言う事だから、私たちは奴らを摘発するための情報を集めつつ、独自に捕らえられた同胞を助けて回っているのよ」
「そう言う事だったんですね。……であれば、改めて俺たちも協力しますよ」
ここまで色々と話してくれちゃあ「情報をありがとう、ではさらばだ……」と言う訳には行かないもんなぁ。
「協力には感謝するわ。でも、そのためにも……貴方たちの事を教えてほしいの。どうしてあんなにも強いのか。そして、どうして『ステラ・グリーンローズ』の名を持っているのかを……ね」
彼女の言う事ももっともだった。
何も知らないまま背中を預ける訳にはいかないのも確かだからな。
だから、今度はこちらが話す番だ。
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