43 エルフの女性
盗賊リーダーの話によると、彼らの本拠地はエルトリア王国内のとある都市にあるようだった。
またその付近ではエルフが度々行方不明になることで知られているため、彼らが言っていた「エルフがメイン商品」と言う情報とも一致していた。
もちろん王国側も何の対策もしていない訳では無い。
しかし何をするにしても盗賊団の方が一枚上手だったようで、結局今に至るまで決定的な情報を手に入れられていないのだと言う。
……まあ、それも無理も無いだろう。
末端の盗賊リーダーにすら、マジックアイテムを配備できるだけの規模なんだ。それもこの世界基準だと相当強力な第四等級魔法が封じられているものをな。
明らかにこの世界の常識を逸した組織だってことは、確定的に明らかだろう。
で、俺たちは今その都市の冒険者組合に向かっている途中なのだが……。
「そう言えば、どうしてルキオラはあの盗賊を相手にする時、あんなに気合が入っていたんだ?」
「ふぇっ!? あ、えっと……」
あの時のルキオラは明らかにただ事では無かった。その理由も知っておいた方が良いのかもしれない。
何しろ、俺が思っている以上に彼女は波乱な人生を歩んでいるみたいだからな。
何か力になれるかもしれないし、逆にやってはいけないこともわかるかもしれない。
「それは……その……」
「言いたくないのなら無理強いはしないよ。ルキオラが言いたくなった時に言ってくれればそれで構わないから」
とは言え、無理に聞き出すべきものでもないだろう。
下手に関係を崩すよりかは、しっかりゆっくり時間をかけて……。
「あ、あの盗賊たちがステラのことを良くない目で見てたから……!」
「……うん?」
「だって、ステラって凄く奇麗で可愛いでしょ……? だから、そう言う目で見られることが多いのはわかってる……でも、だとしても、あたしは君がそう言う目で見られるのは……嫌なの」
「そ、そうか……? そうなのか……気を付けるよ」
その場の空気に流されてそう言ってしまったが、気を付けるって何をどう気を付ければ良いんだ……?
それにルキオラに奇麗で可愛いって面と向かって言われるとこう……恥ずかしさもありながら何だかゾクゾクして、嬉しくて……。
って、何を考えているんだ俺は!
「ご、ごめんねステラ、急に変な事言っちゃって」
「いや、気にしないでくれ……。聞いたのは俺の方なんだからさ……」
今の俺はハイエルフの美少女……なんだもんな。そうかぁ……。
「……にやけてるわよステラ」
「んなっ!?」
メイデンのその一言は完全に意識外からの一撃だった。
「そんなに彼女に可愛いって言ってもらえたのが嬉しかったのかしらね~」
「ち、ちがっそう言う訳じゃ……!」
「でも、ラブコメをするのもここまでね。着いたわよ」
メイデンの視線が俺の顔から目の前の建物へと移動する。
「……そうか、ここなんだな。この都市の冒険者組合は」
アーロンの所に比べれば規模は小さいものの、それでも他の村や街に比べればよっぽど大きかった。
そしてこれだけ大きいのなら、多少なりとも情報は集まっているはずだ。
……とは言え、盗賊団の上の方の奴らはかなり慎重に動いているみたいだからなぁ。
結局は決定的な情報は得られないのかもしれない。
「貴方……!」
と、その時だった。
後ろから女性の声が聞こえてきた。
「貴方正気なの!? この都市でその耳を出したままにするなんて、攫って欲しいって言っているようなものじゃない!」
「うぇっ!? あ、貴方は……!?」
「……ここだと不味いわ。付いてきてくれるかしら」
そう言うとローブを深くまで被った女性は歩き始めた。
「ステラ、君はどう思う? ……あたしはあの人、怪しいと思ってる。けど、何か知ってるのも確かだと思うの」
「……ついて行こう。少なくとも、何かしらの情報は得られそうだ」
罠かもしれない。だがそれと同時に、またとないチャンスかもしれないのだ。
それにもしもの場合は返り討ちにして情報を引き出すことも出来る。俺たち三人ならそんな荒業だって可能だ。
「分かった。君を信じるよ」
「ありがとう、それじゃあ行こうか」
……そのまま女性について行くと、人気のない裏路地の方へと入って行った。
「ここなら大丈夫そうね」
そして、そう言って立ち止まった女性はローブを脱いでその顔を俺たちへと見せた。
「……その耳」
「そう、御覧の通り私もエルフなのよ」
何となくそんな気はしたが、やはりこの女性はエルフだったようだ。
「この都市付近でエルフの行方不明者が増えているの、知らないなんてことは無いわよね?」
「ええ……俺たちがここに来たのも、それ関連なので」
「なら話が速いわね。この都市で面倒事に巻き込まれたくないのなら、エルフであることは隠した方が身のためよ」
彼女の言う事ももっともだ。
件の盗賊団にエルフが攫われている所に、俺みたいな美少女エルフが無防備にやってきたらそれはそれは目立つことだろう。
だが、だからこそ……奴らを炙り出せる。
考えても見ろ。自分で言うのはあれだが、これだけ美少女なハイエルフなんだ。相当な額で売れるのはもはや確定的に明らか。
であれば奴らが手を出してこない訳が無いんだ。
この囮作戦をルキオラに認めて貰うのに、一体どれだけ苦労したことか……!
「……ワケありみたいね。貴方、確かそれ関連でここへ来たって言ったわよね? どういうことか、聞かせてもらえるかしら」
「申し訳ないが、我々はまだ貴方を信用していないのです。こちらの情報を出す前に、貴方が信用に足る人物だと言う事を証明していただきたい」
「そうね、その通りだわ。それならば、私の名前を明かしましょう……」
ルキオラにそう言われ、エルフの女性はまず自身の情報を明かすことにしたようだ。
「私は見ての通りエルフ。でも、ただのエルフでは無いの。ケラルト・グリーンローズ……それが私の名よ」
「……ッ!?」
今、なんて言ったんだ……?
聞き間違い……なのか?
いや、確かに彼女は……「グリーンローズ」と名乗っていた。
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