42 盗賊団の壊滅依頼
「ヒャッハー! ドスケベエロ女に可愛い幼女だぜ!」
「そして金になりそうな鎧を着た奴までいるぜ!」
「全部奪ってやるから覚悟しやがれぇぇ!!」
俺たちの前に現れた「ザ・盗賊」といった見た目の男たちがそう叫ぶ。
どうしてこうなったのか。それは遡ること数時間前のこと……。
――――――
「盗賊団の壊滅……ですか?」
今回アーロンがお願いしてきた依頼は普段とは少し違っていた。
と言うのも、今回の討伐対象は魔物では無く盗賊だったのだ。
「そうなんです。ちょっと前までは大した規模じゃなかったんですけど、活性化した魔物の討伐クエストで実力のある冒険者が出払っているのを良いことに、どんどん規模を拡大しているんですよ」
……なるほど。本来ならばクエストなどで定期的に数を減らせていたはずの盗賊だが、今は魔王関連の騒ぎのせいで対処が追いついていないと言う訳だ。
で、気付けば盗賊団の規模が滅茶苦茶にデカくなってしまっていたと。
正直なところ人間を相手にするのはあまり気が乗らないが、このまま好きにさせるのも不味いだろうな。
そう言う訳で今回は魔物相手ではなく、盗賊を相手にすることになったのである。
で、怪しい所を探っていたところ冒頭のようにテンプレのような絡まれ方をして……今に至ると。
「おいおい、よく見りゃ一人はエルフじゃねえか! こいつは高く売れるぜ!」
「いやそれは不味いぜ。エルフはアイツらのメイン商品だからな。俺たちが勝手に売ったりしたら最悪消されかねないぜ?」
「ああ、それもそっか……ま、それなら隠れてやれば大丈夫だって! どうせバレやしねえよ!」
……何やら穏やかじゃないお話が聞こえた気がしたな。
そういうのを警戒せずにしゃべってしまう時点で遅かれ早かれコイツらは消されそうだが……こちらもクエストでここに来ているんだ。遠慮なく倒させてもらおう。
と、その前に……。
「アンタらのアジトについて、教えてもらえるか?」
一応聞いておくとしよう。
コイツらの口の緩さなら、もしかしたらもしかするかもしれないからな。
「あぁ? いやいや言う訳ねえっての!」
まあ、そうなるか。
「では、強引にでも貴方達のアジトについて……教えてもらいましょうか」
「ル、ルキオラ……?」
どういう訳か彼女は妙に気合いが入っていた。
どうしたんだろうか。盗賊に何か恨みでも……いや盗賊なんだから恨みとは言わずとも負の感情くらいいくらでもあるか。
「おお、やる気か? だがなぁ……俺たちにはコイツがある!!」
盗賊の一人がそう叫びながら水晶のような何かを取り出した。
「見やがれ、このマジックアイテムを! これには第四等級魔法が封じ込められてんだ! てめえらごとき、あっという間にぶっ倒してやるぜ!」
彼がご丁寧に説明してくれたおかげで、あのマジックアイテムについて思い出すことができた。
あれはマジッククリスタルと言うもので、第一等級から第八等級までの魔法がランダムに封じ込められているアイテムだ。
基本は魔法系生産職がスキルで作り出すものだが、一応ガチャからも手に入れることが出来た。
MPを消費することなく発動までの猶予も必要なしに即時発動できるため、一時期はそれなりの使用頻度があったものだが……それも長くは続かなかったな。
その後に実装された装備品で詠唱速度が上昇……つまりは発動までの猶予が短縮できるようになり、さらには度重なる最大レベルの上昇によりMPの最大量も遥かに上昇した。
その結果、わざわざガチャから手に入れたり生産職から買ってまで使う程のアイテムでは無くなってしまったのである。
いやーそりゃ忘れもするよな……。
「ハハハッ! どうだ驚いたか? 恐れるか? まあ抵抗しなけりゃ命までは取らねえよ。そう、命だけは……な!」
……気付けば俺たちの周りを盗賊たちが囲んでいた。
どうやらこのまま俺たちを逃がすつもりは毛頭無いらしい。
ただ、周りを囲まれているとは言ってもあのマジックアイテムを持っている奴以外は完全に有象無象のようだ。
装備もランクの低いものだし、とてもじゃないが連携が取れているとは言えない陣形となっている。
「……ステラとメイデンは後ろをお願いします」
「ああ、わかった」
「了解したわ」
「さあて、そこの騎士は金目の物を全て置いていけ。んで、女二人は奴隷にしてやるから覚悟しとけよぉ~」
「残念ですが、覚悟をするのは貴方たちの方です……!!」
「ッ!? 何だその速さは!?」
背後でルキオラが仕掛けたようだ。今の内に俺たちは後ろの奴らを片付けておこう。
「は、ははっ馬鹿が! わざわざ魔法の範囲内に飛び込んできやがって! これでも食らいやがれ!!」
リーダーと思わしき盗賊がそう叫ぶのと同時に、後ろで大きな爆発音が響いた。
確か第四等級って言っていたし、この音からしてそれほど規模の大きくない爆発魔法のはず……恐らくはミニフレアかプチフレア辺りだろうな。
だが、その程度の魔法じゃあ……ルキオラは止まらないぞ。
「ひぃっ!? な、なんでだよ! 明らかに当たってただろうが!!」
「ええ、当たってはいましたよ。もっとも、命中したと言うだけであって一切のダメージにはなっていませんが。……では、今度はこちらの番ですね」
「ぐがっ……!?」
良い一発が入った音がするな。
まあ向こうは置いといて、こっちに集中しないと。
「アイシクルウォール!」
第三等級魔法のアイシクルウォールを発動させる。
この魔法はそのまま、氷の壁を作り出す魔法だ。
「ぐぁっぁぁ……!? か、体が凍って……」
「た、助けてくれ! 嫌だ、死にたくな……」
断末魔と共に盗賊たちが凍り付いて行く。
恐ろしい光景だが、相手は盗賊。やらなければこちらがやられるのだ。
「ふ、ふざけやがって……おい、お前ら! こっちに来て加勢を……は?」
「どうやら、もう動けるお仲間はいないようですね」
メイデンと俺、それとルキオラの攻撃の余波によって他の盗賊たちは全員無力化されており、今立っているのは盗賊リーダーただ一人であった。
「さあ、終わりの時です。何か言い残すことはありますか?」
「ひ、ひぃ……!?」
「ストップ! ルキオラ、ストーップ!! アジトについて聞き出さないと!!」
「……そ、そうだった!」
俺が声をかけなければ数秒後には盗賊リーダーの首が吹き飛んでいただろう。
だが彼らのアジトについて聞き出さないといけないため、そうなっては困るのだ。
「……と、言う事ですので……お話していただけますね?」
「あ、あぁわかった! 全部話す! だから殺さないでくれぇぇっ!!」
ドスの効いたルキオラの声は彼の精神にとどめを刺したようで、結局彼は全てを話してくれたのだった。