40 ルキオラの特異体質
これで全てが終わった。
ダンジョンは崩壊し、奴らに関するものも全て消え去った。
だが、俺の心は晴れない。
いくら復讐をしたところで、結局ルキオラは帰ってこないのだ。
ルーシオはルキオラで、どちらも死んでなんかいなかったのだと知った時……俺は物凄く嬉しかった。
なのに、なのにすぐに、彼女と別れることとなってしまった。
「……帰るか」
いくら過去を思っても、いくら悔やんでも、彼女はもう戻ってこない。
それでも王国では今もメイデンが待っているんだ。
早く帰って彼女を安心させてあげないとな……。
――――――
「ステラ……!!」
「……は?」
王国に戻ると、そこには何故かルキオラがいた。
いや、そんなはずは無いんだ。だって俺は目の前で彼女が生き絶えるところを……。
「ルキオラ……なんだよな?」
「うん、あたしだよ……ステラ」
その声も、その顔も、紛れもなくルキオラのものだった。
でもそれはあり得ないことで……。
「えっとね……ごめんなさい。本当の本当は……まだ、隠していることがあったの……」
そう言うと彼女は自分の「特異体質」について俺に話してくれた。
「あたしは魔導騎士として作られるときに、ある魔物の遺伝子を組み込まれたの。『鳳凰龍フェニックス』って……知ってる?」
彼女の口から出たのは、またもネームドボスの名だった。
鳳凰龍フェニックスはその名の通り不死鳥とドラゴンが混ざったような見た目をした魔物で、一番の特徴としては事実上の不死が挙げられる。
とは言えネワオンがゲームである以上はそう言う訳にもいかないため、ボス戦が発生するごとに3回まで生き返るように設定されていた。
それでも充分性能としては凶悪で、復活する度にデバフが無効化されたり、「不屈」と言う強化バフが重ねられたりして、とにかく厄介極まりない存在であった。
そう言えば「魔導騎士フェニックス」だったもんなぁ……くそっ、なんでもっと早く気付けなかったのか。
で、そんな魔物の遺伝子を組み込まれていると言うことは……だ。
「君は、不死……なのか?」
「そう、あたしは死なない……いや、死ねないって言った方がいいのかな。だからイダロン帝国が無くなって、目的も失っちゃって、生きる意味が無くなった後も……あたしは生きるしか無かった。こんな変な体質、他の人にも言えないから……ずっと一人のまま、死んだように生きていたの」
死ねない。きっとそれは魔導騎士として生み出された彼女にとって、物凄く苦痛なことだったのだろう。
それにこのことを知られれば面倒事に巻き込まれる可能性だってあった。
であれば彼女が孤独になってしまうのも必然……か。
「でもね……結果的にではあるけど、そのおかげで君に出会えたんだよ。それに、世界だって救えちゃった。だから、今はこの体質にも感謝してる」
「ルキオラは、強いな……」
俺なんてこっちに来てからの色んな事で何度心が折れそうになったかわからない。
それなのに彼女はずっと真っすぐに前を向き続けたんだ。
「ううん、そんなことないよ。君のおかげで、あたしはこの体を……自分自身を好きになってあげられる。……あっ、それはそれとして!」
「うん!?」
ルキオラは俺の前に来ると両手を振り上げ、俺の頭をぽかぽかと叩き始めた。
「あたしがこのことを言わなかったのも悪いけど、だからって一人だけで残って後始末なんて、そんな危ないことはしちゃだめ!」
「あはは……ごめんって」
あの爆発攻撃をしてこないから本気でやってる訳じゃ無いのはわかるが、彼女が俺のことを大事に思ってくれているのは本当なんだろうな。
その証拠に、ルキオラは涙を浮かべながらも心の底から安堵したかのような笑みを浮かべている。
「もう、今度やったら絶対に許さないんだからね」
「本当にごめんって、肝に銘じておくよ」
「あらあら、随分と楽しそうね。夫婦喧嘩かしら?」
遅れてやってきたメイデンは開口一番そんな事を言いやがった。
「夫婦って……」
「そ、そう言うのじゃない……よ?」
ルキオラは何だかまんざらでもない気がしたが、そういえばルーシオは俺に対して気があるような素振りをしていたっけか。
「えっと、ルキオラは俺の事が……」
「あ、ステラさん!! よかった無事だったんですね!!」
「ア、アーロンさん!? どうしたんですかその恰好!?」
走って来たアーロンはヨレヨレになっているというか、やつれているというか、とにかくただ事ではない様子だった。
「どうしたも何も……空からとんでも無い隕石が降ってきて、ダンジョンが消し飛んだって聞いたんですけど!?」
ああ、そうか。世界魔法を使ったことについては俺たちしか知らないんだったな。
「おかげでただでさえ魔王関連で大変なのにどんどん仕事が増えて……ああ、たまには魔物に囲まれて癒されたい……」
その気持ちはよくわからないが、彼女が大変そうなのは見ての通りだった。
この際、俺がやったってことも隠しておいた方が良いのかもしれないな。
「幸いにもメイデンさんからの情報で、調査対象の魔物が原因だと言うことはわかっているのですが……あれだけの規模となると後処理も中々に大変なんですよぉ……」
「……?」
「あら、何かしら」
メイデンの方を見ると、ニヤリと笑いながらこちらを見返してきた。
なるほど、全ての責任を終焉の魔物……及びアイツら人型機械たちになすりつけておいてくれた訳か。
グッジョブだぞメイデン。
「ですがとにかく、まずは無事に帰って来てくれたことを祝いましょうか! おかえりなさい、ステラさん! メイデンさん! ……それとその方は? その鎧は確か……」
「あたしはルキオラ。えっと、この姿の方が分かりやすいでしょうか」
そう言うとルキオラは魔導騎士としての兜をかぶった。
その瞬間、彼女の声がルーシオだった時のそれへと変わる。
……何その技術すごい。
「ルーシオさん!? 貴方女性だったんですか!?」
「すみません、冒険者として活動するのであればこちらの姿の方が色々と便利なのです」
「まあ確かに女の子は舐められますからねぇ……」
この世界に来たばかりの時の宿屋での事を思い出すと、彼女の言うことも頷けた。
「組合長こんなところにいたんすか! また魔物の群れが近くの村に出たらしくて、さっさと依頼を出してくれって村長が!」
「こっちなんて渓谷のワイバーンが増えて増えて仕方ないからどうにかしてくれってうるさいんだ!」
今度は冒険者組合でアーロンの手伝いをしていた人たちがやってきた。
どうやら魔王関連のごたごたはまだまだ全然収まっていないらしい。依頼は増えて行く一方のようだった。
「あ、ああ……また仕事が増えて行く……」
「……大変そうですねアーロンさん。もしよければその依頼、俺たちが出ましょうか?」
「え、ええ!? たった今帰って来たばかりなのに、良いんですか!?」
「ええ、俺はまだ全然動けますので」
MPこそ減ったものの、体力面ではまだまだ余裕があった。
それに王国に被害が出てくる前にさっさと片付けた方が良いだろうしな。
「あら、まるで貴方だけで行くみたいじゃない?」
「それなら私も同行しましょう。三人であればあっという間のはずです」
「良いのか? 皆疲れているんじゃ……」
「私なら構わないわよ。あの程度、戦った内にも入らないんだから」
「私も復活したばかりで全快済みですから心配はいりません。それにステラを放って置いたら、また無茶をするかもしれませんからね」
正直なところ、ルキオラのその言葉に俺は言い返すことが出来なかった。
「助かります! ただでさえ王国の冒険者だけでは足りなくなっていたんです。なので、貴方たちが力を貸してくれると言うのであればもう百人力ですね!! まさにオーガに金棒! ワイバーンに宝剣!」
「金棒……はともかく、宝剣……?」
オーガに金棒はわかるが、ワイバーンに宝剣はよくわからなかった。
「……えっと、昔ね。ただでさえ強いのに、物凄い力を持った宝剣を使って戦うワイバーンの英雄がいたんだって」
「そうなのか……ありがとうルキオラ」
俺がアーロンの言葉に疑問を抱いていることに気付いたのか、ルキオラはその意味を教えてくれた。
「えへへ、どういたしまして。てっきりステラは何でも知っているのかと思ったけど、そうじゃなくて何だか少し安心したよ」
「そりゃ何でもは知らないよ。知って……いや、なんでもない」
「……どうかしたの?」
知っていることだけ……と繋げようとしてしまったが、直前で踏みとどまる。
せっかくの異世界なんだからやりたい放題やってやろうと思ったんだが、異世界と言えどやっぱり恥ずかしいものは恥ずかしかった……。
「それでは、お三方! 早速組合に戻って、依頼の契約と依頼内容の説明と行きましょう!」
徹夜続きなのかテンションがおかしくなっているアーロンに連れられ、俺たちは冒険者組合へと向かった。
……きっと、魔王によって異常発生した魔物との戦いはまだまだ終わりはしないだろう。
しかし隣には頼れる仲間がいるし、王国には守りたいものだってたくさんあるんだ。
つまり、俺たちは負けないし、負けられないと言う事。
何しろ俺の異世界ライフは、ネワオンの世界を満喫するというその目的は、まだまだ始まったばかりなのである。
こんなところで躓いてなるものかってんだ。
待ってろまだ見ぬ世界。俺たちの冒険は、まだまだこれからだ……!
本作をお読みいただき誠にありがとうございます!
これにて『第二章』は終わりです。次章をお楽しみに!
「ブックマークへの追加」「ポイント評価」をしていただけると励みになりますので、是非ともよろしくお願いいたします!