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32 幻惑竜

 あれから十数分が経ち、皆の集中も切れ始めていた。

 人間の集中力の限界は50分あたりらしいが、いつどこから襲われるかもわからない極限状態での集中力なんてせいぜい数分が限界なものだろう。

 この世界の人間にもそれが当てはまるかはわからないものの、これだけ保てれば普通は充分なのかもしれない。


 だが、今は違った。

 俺たちを襲おうとしている魔物は、まだまだ我慢比べをするつもりのようなのだ。

 これ以上は彼らも限界が近く、このまま行けば集中が切れた所を襲われ、一網打尽。

 無惨にも壊滅と言う訳だ。


 ……と、魔物は考えていることだろう。

 その考えは実際正しい。俺が向こうの立場で耐久戦を挑むとしたらそうするだろうよ。 

 しかしそれはあくまで、俺たちプレイヤーがいない場合のみに成立する話だった。


 何しろ俺たちプレイヤーは精神面にもステータスの補正を受けているのだ。

 このまま何十分も、何時間も、戦闘態勢でいられる訳である。


「見て、あれ!!」


 それに気付いたのかどうかはわからないが、とうとう魔物はその姿を現した。


「げ、幻惑竜だって……!? いやありえねえぜ。このダンジョンにあんな魔物がいるはずが……!」


「知るか、ここに居るっつんなら居るんだよ。それともあれか? てめえらは竜を相手にしたら何もできねえ雑魚だってのか?」


「なんだと!?」


「ルーク、落ち着いて。今は目の前の事にだけ集中するのよ」


 どうやら俺たちを狙っていた魔物の正体は幻惑竜と呼ばれる竜種のようだった。

 この魔物はその名の通り幻惑魔法を得意としていて、それを使って獲物に幻惑を見せて狩りを行うという習性を持っている。


 ゲーム内では透明になったり偽物をデコイとして出してきたりするくらいなものだったが、なるほど……獲物を道に迷わせるなんて使い方もあるわけだ。

 恐らく彼が先に進めなかったのは、幻覚魔法によって元の場所へと戻るように嘘の景色を見せられていたからだろう。


 だが種さえわかってしまえばこちらのものだ。

 先行した班を壊滅させたヤバイ奴が来る前に、こんな雑魚さっさと倒してしまおう。


「私とルークが前に出る! 魔術師たちは援護を頼んだ!」


 そう言ってアイシャとルークが前に出た。


 援護を頼むと言われても……あれだけ距離が近いと撃てるものも撃てないな。

 ネワオンにはパーティメンバーへのフレンドリーファイアは無効化されていたけど、この世界にはそんなものは無い。

 俺の魔法を真正面から受ければ間違いなく黒焦げ……いや、塵も残らないかもしれない。


 そのことを伝えて後ろに戻ってもらうか。


「第一等級魔法、ファイアボール!!」


「第一等級魔法、ウィンドアロー!」


 とその前に他の魔術師たちの攻撃が始まってしまった。


「どうするのステラ。貴方の魔法だと、周りにいるあの子たちも巻き込んでしまうでしょう?」


「それはそうなんだが、後ろに戻ってもらうにもこの距離だと声が届かないからな……」


 魔法や金属の当たる音によって彼らへの声がかき消されてしまう。

 このままでは意思疎通も出来ないままだ。


 せめて前へ出られれば話は違うんだが……。


「って、メイデンは前に出ないのかよ」


 そうだ、彼女に前に出て貰って伝えて貰えば……。


「無理ね。私はほら、アレの対処をしないと」


 そう言うメイデンの視線の先には大量の魔物がいた。

 どうやら俺たちと幻惑竜の戦闘音を聞いた魔物がおこぼれを狙いに集まってきてしまったようだ。


「一人で大丈夫か?」


「ふふっ、これくらいなんてことはないわ。それよりも貴方はどうするつもり?」


「俺は……仕方ない、あれをやるか」


 正直なところ、手はあった。

 今俺が抱えている問題を全て踏み倒せる画期的な手だ。

 だがその代償は大きい。


「あれ……って、なんなのかしら?」


 これはPVPでもほとんど使ったことは無く、基本的にギミック持ちのボスと戦う時くらいにしか使わないものだ。

 そのため、メイデンが知らないのも無理はない。

 

 そして願わくば、一生知らないでいて欲しかった。

 彼女に知られれば、恐らく一生からかわれることになる。


 だが、今やらないと状況がさらに悪化する恐れもある。いくら多くの経験を積んできた紅の華と言えど、ブロンズランクは竜種を相手に出来る程に強くはないんだ。

 ……覚悟を決めるしかなかった。


「……モードチェンジ『マナウォリアー』」


 俺がそう口にした瞬間、身にまとっていた俺の装備は一瞬にして消え去り、代わりにこれでもかと言う程に露出の多いビキニアーマーが装着された。


「あらあら、これは……随分とまあハレンチな変身ヒロインね」


 メイデンは俺の今の姿を見るなりニヤリとしながら開口一番そう言った。

 だから、彼女には見せたくなかったんだ。


 この姿は魔法系でありながら近接戦闘を行う職業であるマナウォリアーの持つ「モードチェンジ」を発動することで変身できるものだった。

 え、どうして変身したらこんなにドスケベなビキニアーマー姿になるのかって?

 それは、俺がそう言う設定にしたからだ。


 このモードチェンジと言うスキルは持っている装備の中からあらかじめマナウォリアー用に適応させておいたものを即座に装着して戦うというもので、せっかくだからと高性能かつエッチで見栄えのいい装備を設定したのだ。

 そしてこの設定は一度設定してしまうと特定の施設でしか再設定できない。


 そう、要するにゲーム内でならとお遊びで設定した装備を、俺は今こうして着ないといけなくなったわけである。クソが。


「それにしても、中々面白いスキルがあるのね」


「面白いってそれ、どっちの意味で言っているんだ?」


「両方よ、両方」


 メイデンは相変わらずニタニタと笑いながらそう言って来た。


 このスキルは魔法系をメインクラスにすると本来装備出来ないはずのアーマー系を例外的に装備することができる。

 そして魔法系ステータスの半分が物理系ステータスに加算されるという効果もあるため、一時的な魔術師の戦士化のためのスキルだった。


 だから彼女がこのスキルを面白いと思うのもまあわかる。

 一時的とはいえ、魔法系のビルドでありながら戦士のような戦い方が出来るのだ。その分、戦略も広がるものだろう。

 そして普通ならもっとしっかりとした全身鎧を纏い、前線で戦士に混ざって戦うカッコいい姿を見ることも出来るのだ。

 

 だが見ての通り、俺はふざけた装備を設定したせいで頭のおかしいイカレ痴女になってしまった訳である。

 おのれ、あの時のネタ欲求と性欲に塗れた俺め……絶対に許さんぞ。


「それじゃあ、私はアレの相手をしてくるから……貴方はその姿を彼らに見せてあげなさい?」


「ああ、わかったよクソ!」


 そうしてメイデンと俺は別れ、それぞれの戦いに身を投じることになった。

本作をお読みいただき誠にありがとうございます!

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