30 いざ、ダンジョン探索
この世界に来てから初めてのダンジョン探索が始まった。
とは言え、紅の華はシルバーランクほぼ手前のブロンズランクパーティらしいし、俺と同じくプレイヤーであるメイデンもいる。
手堅い。そう、あまりにも手堅かった。
「皆、止まってくれ」
先頭を歩いていたアイシャはそう言って俺たちを止めた。
ちなみに、タンクでありリーダーである彼女が先頭なのは当然の事として、その後ろに戦士であるルークが、そしてさらにその後ろに魔術師のマリンがいる。
そんな彼女の影に隠れるようにしてローリエが配置され、その後ろに俺、そんでもって背後からの襲撃に備えるために最後尾を戦士系であるメイデンが務めていた。
まあ、何の変哲もないごくごく普通の陣形だ。
「どうしたのリーダー、何かいた?」
「あそこ、見える? アイアンゴーレムが三体いるの」
彼女の指さす先を見るとそこには確かにアイアンゴーレムが三体いた。
アイアンゴーレムはその名の通り全身が鉄で出来ているゴーレムだ。適正レベルは18程だったか。
弱点は額にある宝石。または関節部分への一定ダメージの蓄積だ。
もっともこれは魔物図鑑に書かれていたものであって、実際にゲーム内に反映されていたものではない。
だがこの世界で見聞きしてきたものから判断するに……恐らくこの設定が反映されている可能性はかなり高い……と思われる。
それにしてもあのアイアンゴーレムたちは相当遠い場所にいると思うんだが、アイシャはよくこの距離で見えたな。
「どうする? やっちゃう?」
「いえ、先行した班が放置していると言うことは、きっと今すぐに倒すべき対象では無いと判断した個体のはず。こちらから手を出さなければ問題なく通り抜けられるはずよ」
アイシャの言う通り、アイアンゴーレムはゲーム内においては中立状態の……言わばこちらから攻撃を仕掛けなければ敵対してこない魔物だった。
今回の探索クエストの主な目的はダンジョン内で増えすぎた魔物の討伐だし、俺たちよりも前にここを通った班があえて残したと言うのならわざわざ倒す必要も無いのだろう。
「そういうことだから、私たちはこのまま警戒を続けながら進行を続ける。ステラとメイデンもそれでいいわね」
「ああ、構わない」
「私もそれで構わないわよ」
アイシャの判断に間違いはないだろうし、俺もメイデンも彼女の意向に従った。
なお、アイシャの敬語が無くなっていることにお気づきだろうか。
その理由は単純だ。冒険者として現場に出ている以上、相手の立場がわかるような話し方はしない方がいいとのことだった。
知能の高い魔物だとこちらの会話から誰が上の立場で、誰を優先的に狙うべきなのかを的確に見抜いてくるらしい。
だから少なくとも戦闘中やダンジョンの中などでは極力対等を演じる必要があるのだと、彼女はそう言っていた。
なので別に彼女と親しくなったとかそう言う事では無い。あくまで仕事上の関係。そう、勘違いしてはいけないのだ。
それからも俺たちは少しずつダンジョンの深くまで潜って行き、気付けば地下五層にまでたどり着いていた。
ダンジョンは五層おきに強力なボスがいて、それが次の階層への道を塞いでいる。なのでその次の階層へ行くためには絶対にボスと戦わなければいけなかった。
それはこの世界でも同じのようで、紅の華の面々は今の時点で既に緊張を隠せない様子だった。
とは言えボスとの戦いにおいては例外的に複数班での同時戦闘を許可されているらしく、こちらは物量で押すことが出来た。
少なくとも上層のボスならば、これだけの冒険者がいればそこまで苦も無いだろう。
「あれは……!?」
しかし、その楽観的な考えは見事に崩れ去ることとなった。
「嘘でしょ……どうして……」
そこには先行していたはずの班が壊滅状態で倒れていたのだ。
「お、お前ら……逃げろ……。あれは、俺たちが戦っては……」
「待って! 何があったの……! この先に何が、一体何がいるって言うの……!?」
アイシャのその疑問に彼が答えることは無かった。
「待って……今、治癒魔法を……!」
「無理よローリエ。……もう、死んでる」
「そう……だね」
急いで治癒魔法をかけようとしたローリエをアイシャは冷静に止めた。
いくら治癒魔法でも亡くなった者を回復させることは出来ないのだ。
見たところ男には鋭いもので引っかかれたような傷が付いている。
そしてその傷は深く、出血量も多かった。
せめて俺たちがもう少し早くここに辿り着いていれば……いや、もう過去を考えるのはやめよう。
この世界では軽率に人が死んでいく。それがこの世界の常識なんだ。
受け入れるのは難しいが、いい加減慣れないとな……。
それよりも、今重要なのは進むか戻るかの判断だ。
「アイシャ、どうするの? このまま行っても私たちに勝ち目は無いと思うけど」
「そうね。一旦戻って後続の班にこのことを伝えましょう。二人もそれでいいわね?」
俺もメイデンも、彼女のその質問にNOと答える程に楽観的な訳でも死に急ぎ野郎な訳でも無かった。
いや、或いは俺とメイデンの二人がいれば実は問題ないのかもしれない。
しかし今は班での行動なのだ。六人全員が無事に生きて帰れるのが一番であり、無茶は出来ない状況だった。
そう言う事もあり、引き返すことを決めた俺たちだったのだが……その道中で彼に出会ってしまった。
「てめえ……何で引き返してやがる」
そう、探索が開始する前に俺に突っかかって来た彼である。
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