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3 とにもかくにも、まずは街へ行かねば

 と言う事で、暫定ネワオンの世界へと転移してしまった訳だが……。

 少なくとも俺にとっては別に悲劇でもなんでもないよな……これ。


 だってよく考えてくれよ。元の世界にはもうネワオンは無いし、生きがいを失ったまま社会の荒波に揉まれるのは正直ごめんだ。

 それよか終わるはずだったネワオンの世界で生きて行く方がよっぽど楽しいに決まってる!


「は……ははっ……!」


 そう考えると何だか肩の荷が下りたような気分だ。

 もう上司の顔色をうかがいながら仕事をする必要も、早朝深夜に満員電車に揺られて通勤する必要もない。残業ともハラスメントともおさらばだ!


 それどころかこの世界でなら俺は自由だ!

 何にも縛られることは無いんだからな!

 いやー僥倖、俺の第二の人生は始まったばかりってね!


 ……と、ここまでは良かった。

 実際のところは問題が山積みだ。まずこの草原がアヴァロンヘイムのどこ辺りなのかが全くわからない。

 このままだと間違いなく飢え死にする。

 せめて数日中には人のいるところに辿り着かないと終わりだ。


 いやいや、せっかくネワオンの世界に来たって言うのにすぐに飢え死にとか、死んでも死にきれないぞ!?

 せめてマップ機能でもあればいいんだが……。


 そう思った瞬間、目の前に謎の板が現れた。


「……おいおい、嘘だろ?」


 そこにはご丁寧に「MAP」と書いてある。

 つまりこれはそう、マップだ。マップであると言うことはマップであるということなんだ。


 だがどういう訳かマップは真っ黒に塗りつぶされていた。 

 いや違う、正確には今俺がいる場所らしき部分だけが明るく表示されている。

 よく見れば木々の配置なども目で見ている景色と一致していた。


 要はこのマップ、今は「初期状態」なんだろう。

 ゲーム内では全て解放していたはずだが、どうやらそこまで引き継がれてはいないらしい。


「仕方ない……確かアヴァロンヘイムの木があるのがマップのちょうど真ん中あたりだから……」


 脳内で必死にワールドマップを思い出す。

 幸いにも俺の頭はかなり精密にマップを覚えていた。そりゃ10年もプレイしていれば嫌でも覚えるものである。

 だがそのおかげで大体の位置関係はわかったぞ。


 恐らくここはアヴァロンヘイムの木から見て南に位置する草原のはずだ。

 ゲーム内においては初心者卒業ってくらいのプレイヤー向けのエリアだったからヤバイ敵なんかもいないだろう。

 魔物との戦いなんてのも今の俺にはよくわからないしな。


 ……魔物との戦い?

 

「あっ……」


 完全に失念していた。

 馬鹿か俺は。この世界で生きて行くということは、あの凶暴な魔物たちと共存していくということに他ならない訳だ。

 それが温室育ちの一般日本人である俺に出来るのか……?


「いや、待て待て落ち着け」


 そうだ心配はいらない。ここは素数でも数えて落ち着こう。


 よく考えてみれば大きめの街には迎撃設備もあるし、街を守る傭兵NPCはかなりの強さだった。

 きっと彼らがいれば大丈夫なはずだ。そうに違いない。

 ……まあ、その時はその時と言う事で。

 

 今はとにかく近くの街へ向かう。

 それが最優先事項であることは変わらないんだから。

 



 ……それから十数分後。

 よりにもよって魔物とエンカウントしてしまった。


「ボヨヨン」


「ぅっ……」


 粘度の高い体をしたその魔物は奇妙な鳴き声をあげながら距離を詰めてくる。

 ぬちゅり、ぐちゅり、と液体の混ざる音がだんだん近づいてくる。

 このままではきっとあの粘性のある液体に包み込まれて全身を可愛がられてしまう……エロ同人みたいに!


「来るな……来るなぁ!!」


 いざ魔物を前にしてしまえば俺はただの一般人と変わらなかった。

 いやむしろ平和ボケした現代人である俺はこの世界の一般人よりもずっと弱いかもしれん。


「ボヨヨヨン!!」


 そしてとうとうその時が来た。

 その魔物は俺に飛び掛かり、攻撃を始めたのだ。


「……」


「ボヨンボヨヨン」


 ぺちぺちと体を叩かれる。

 だが痛みはない。

 その理由は果たして、俺のステータスがゲーム内のそれだからなのか、それともこの魔物が最弱と名高い「スライム」系統の魔物であるからなのか。

 今の俺にはわからなかった。


 ひとつ言えるのは……。


「えい」


「ボヨアッ!?」


 少なくともスライム程度であれば俺でも戦えそうということだけである。

 その証拠にデコピンをするとスライムは断末魔をあげてのたうち回った後、奇麗さっぱり消失した。


「ふぅ……やったぜ」

 

 初めての魔物との戦いは、酷くあっさりしたものとなった。

本作をお読みいただき誠にありがとうございます!

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