25 彼女もまた、ネワオンプレイヤー
戦闘が終わり、ひとまず落ち着いた彼女はアイテムボックスから高精度の回復ポーションを取り出した。
そしてそれを頭にかけ……えっ、頭にかけるのか?
「どうかしたのかしら。鳩が豆鉄砲を食らったかのような顔をして……」
「いや、その……ポーションって飲むものだと思っていたんだが」
そう言いながら俺はルーシオの方を見る。
すると彼もなんとも言えないジェスチャーをしていた。
えっ……?
俺がおかしいのか?
「ああ、これね。私もこっちに来たばかりの時はそう思っていたのだけど、どうやらポーション系って体のどこかしらに瓶内の液体の大部分が触れれば効果があるらしいのよ」
「そうだったのか……」
確かにあの量のポーションを飲みまくるのは物理的に無理じゃねえかなとは思っていたが、そんな革新的な方法があったとは。
「ああ、そう言えば……まだ私の名前を言っていなかったわね」
そう言うと少女はスカートを指でつまみ、まさしくお嬢様と言ったポーズで自己紹介を始めた。
「私はメイデン・ホワイト。これは言わずもがなプレイヤーネームなのだけれど、その意味はステラにならわかるわよね?」
「ああ、そうだな。えっと……」
……この際だ。ルーシオにもプレイヤーについて伝えておこう。
どうせここまで派手に見せてしまったらもう隠し通すのは不可能だろうしな。
――――――
「……なるほど、それで召喚された勇者は圧倒的な力を持っているのですね」
プレイヤーと言うものがどんなものなのかを彼に伝えると、思ったよりもすんなりと受け入れてくれたようだった。
もっとこう、パニックと言うか、最悪の場合は信じてもらえないかもしれないとすら思っていたんだがな。
まあそれは良いか。すんなり受け入れてくれたこと自体は良いことだしな。
それよりもだ。今は本題に入ろう。
「メイデンさん……と、呼べばいいですか?」
「それで構いませんわ。それよりも急にかしこまってどうしたのかしら」
「いえ、さっきまでは急な事だったので砕けた口調でしたが、よく考えたらその見た目は作られたものであって中身と必ずしも一致している訳ではないじゃないですか?」
「……? ああ! そういうことなのね!」
彼女は俺の言いたいことがわかったようだ。
そう、結局のところ、この体はゲーム内のキャラのものであって本来のものでは無い。
つまり、彼女の中身は見た目通りの少女では無い可能性が高いのだ。
完全に少女を相手にする感じで接していたが、そのせいで不快な思いをさせてしまったかもしれなかった。
「フフッ、そんなこと気にしなくていいのよ? 私たちは同じプレイヤーなのだから。それに私だって貴方を呼び捨てにしているし、この口調も言ってしまえばただのロープレなのよ。……だから、お互い様ね」
その見た目も相まって、蠱惑的でミステリアスな少女と言った雰囲気だったんだが……今の言葉を聞いて何だか一気に俗っぽく感じるようになったな……。
「……ではメイデンと呼びま……呼ぶことにするよ」
「……」
何だろう。メイデンを呼び捨てにした瞬間、ルーシオから何とも言えぬ視線を感じたような……。
まあいい、今は話の続きをしよう。
「それでメイデン。これが嘘のようで本当の話なんだが……君はこの世界に召喚された勇者なんだ」
「あら、そうなのね」
「……あまり驚かないんだな?」
「だって気付いたらいつの間にやらネワオンの世界に来ていたのよ? 今更そんなこと、驚きもしないわ」
そうか。そうだよな。それを聞いたところで今更感はあるか。
この世界に召喚されたって言うのならそれが一番それっぽい理由な訳だしな。
「けどそれなら別の国を目指すことも出来たのでしょう? プレイヤーなるもののステータスであれば、近くの村くらいまでならひとっ走りで済むでしょうし」
「そうね。それはその通りよ。けれど……あれはこの国を彷徨っていた時のこと。ヒャッハー女だぁ! と、いきなり襲い掛かってきた方を返り討ちにしたが最後、いつの間にか私はこの辺りの女親分になっていたのよ」
「ああ……」
確かに、こんなに可愛い少女が高そうな服を着て高そうな装飾品を着けているんだ。
スラム街にとってはカモ……いや、それこそカモがネギと鍋とカセットコンロにシメのラーメンすら持ってきているようなものだ。
まあ実際はこのスラム街の誰よりも強かった訳だが。
「本来こういうのは私のロープレの内には無いのだけど、なんだか楽しくなってきてしまったのよ。それで親分として名を馳せていた時に、貴方たちが来たってわけね」
「そう言う事だったのか。それはまあ……この世界を随分と満喫していたようで」
「フフッ、それはお互い様でしょう?」
少女の視線がルーシオに向かう。
いや、彼とは別にそう言う関係では無いんだが。
「ええ、ステラとの旅は楽しいものですよ」
ルーシオ?
なあルーシオ?
それは違くないか?
「あら、それならもう行くところまで行ったのかしら」
「待て、メイデン。君は何か勘違いをしている。ルーシオも、変なことを言わないでくださいよ!」
何故か急にルーシオがそんなことを言い始めてしまった。
いや、急にでは無いのかもしれない。冒険者組合の時のこともある。
やっぱり彼は俺の事をそう言う風に思っているのだろうか。
だが彼には悪いが、俺にはまだその覚悟は無かった。
「その、ステラ……この際、私たちも互いに敬語を……いえ、忘れてください」
「ルーシオ?」
そんな時、ルーシオがそう言ってきたのだが……最後まで言い終える前にやめてしまった。
……何と言えばいいのか。彼が途中でやめてしまった理由が、恥じらいだとかそういった物では無いような気がする。
もっと根本的に俺との距離を取ろうとしているような……。
だがそれはそれとして距離が近く感じる時もあるんだよな。
なんだ?
どう言う事なんだ?
「……お二方、周囲に人の気配を感じます。それも敵意を持った者のようです」
「なんだって?」
ああ、こっちはまだ頭の中がモヤモヤしているのに、こんな時に敵対存在が現れるとは……あまりにもタイミングが悪い。
「数は8……どうやら私たちを囲むように陣取っているようです」
「あら、この辺りの方たちは大体が私の支配下のはずなのだけれど」
「となると、スラム街のゴロツキと言う訳では無さそうだな」
「これは……まさか!!」
ルーシオが何かに気付いたのか突然叫んだ。
『そう、そのまさかだよ。実験体ナンバー44』
そして間髪入れずにその叫びへの返答が聞こえてきた。
「誰だ!」
振り向くと、俺たちの背後にいたのは謎の人型機械だった。
そしてそれが現れたのと同時に、俺たちを囲んでいたであろうその他大勢が姿を現した。
そのどれもが同じような人型機械であり、最初の一体を含む全てにおいて生命の気配と言うものを一切感じなかった。
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