16 ルキオラの見せたいもの
あの後、魔王についてアーロンに色々と尋ねた。
彼女の話が正しければ、少なくともゲームにおける魔王ルーンオメガと大差はないだろう。
と言うかそのものと言ってもいいかもしれないレベルだった。
ただ、魔王が実際にいつ現れるのか。その細かいタイミングまではわからないらしい。
なんでも魔王の復活は予言魔法と言うもので知ったらしいが、分かっているのは復活する大体の時期だけのようだ。
そう言う事もあって、今なお王国は俺以外の召喚者を探している状態なのだと。
まあ戦力は多ければ多いに越したことはないからな。
つまるところ、しばらくの間……と言うか魔王が復活するまでの間、俺はフリーと言う訳だ。
ならばと俺は彼女を……ルキオラを探していた。
いや、「探していた」……じゃないが?
街の案内の続きをしてもらうために彼女を探したいところだが、生憎と連絡先なんてものも貰っていないのだ。
正直探しようが無……い?
いや、待て。確か彼女は冒険者をしていると言っていた。
となれば善は急げだ。早速アーロンに彼女について聞いてみるとしよう。
冒険者組合長である彼女ならきっと何か知っているはずだ。
「ルキオラさん……? えっと、聞いたことの無い名前ですね……」
「そう……なんですか?」
しかし、残念なことに一切の情報は得られなかった。
そもそもそんな名前の冒険者は登録自体されていないらしいのだ。
となると、あの時のあれはやはり俺が変に気をつかわないようにするための嘘……?
「何やら、人探しをしているみたいですね」
と、その時だった。
俺とアーロンの会話を聞いていたのであろう冒険者が後ろから話しかけてきた。
「え、ええ……ルキオラと言う、これくらいの背丈で、ふわふわの長い髪が特徴的な少女なんですけど……」
見ず知らずの他人に彼女の事を話していいものなのかと思うものの、彼は滅茶苦茶に厳つい全身鎧を纏っているし、冒険者としての腕は確かなはず。
少なくとも害は無いだろう……と思いたい。
と言うか今は藁にも縋りたい所だった。とにかく少しでも、彼女に関わる情報が欲しいのだ。
「……その子なら先程、広場にいる所を見ましたね」
「本当ですか!? ありがとうございます!」
彼にお礼を言い、組合の建物を出る。
もう移動してしまっているかもしれないが、それでも一筋の希望であることに変わりは無かった。
……それにしても彼の装備、今になって考えると妙な違和感があったな。
鎧にしては隙間を埋め過ぎだ……あれでは関節を動かすのに影響が出かねない。それにあの不死鳥のペイントも……どこかで見たような。
いや、今はそんなことはいい。今は急いで広場に行かないと。
「……いた!」
広場に着くと、そこにはルキオラがいた。
幸運にも彼が見かけた後も移動せずにこの場にいたということだろう。いやあ助かった。
「ステラ……!」
俺に気付いたのかルキオラが駆け寄って来る。
「そう言えば連絡先とか伝えて無かったよね。これ、私が今暮らしている宿なんだ」
そう言ってルキオラは宿の住所が書かれた紙を手渡してきた。
その、そんなに不用心に渡して良い物なのだろうか?
俺がもしかしたら夜間に襲いに行く可能性だってあるんだぞ?
「……どうしたの?」
しかしそんなことに気付いてもいなさそうな彼女は、純真無垢な笑顔で俺を見ている。
ああ、駄目だ。この子は俺が守らなければ。
「えっとね、今日は君に見せたい景色があるの。来てくれるかな……?」
ルキオラは俺の手を握り、心配そうに俺の顔を見つめてくる。
そんな顔をされて、断れるわけが無いだろう。
と言うかそもそも彼女の案内を受けるために来たのだ。元より断るつもりなど無かった。
その後、彼女に案内されるがままについて行くと……王国の中心辺りにある展望台へと辿りついた。
「ここからの景色を、君に見て欲しかったの」
展望台からは王国全体が見えた。
奇麗に整備された住宅街から、ついさっきまでいた活気溢れるエルトリアロードに、王国を囲む自然豊かな草原も、遠くに見える雄大な山々や海も、ここからならその全てが鮮明に見えた。
まるで世界全てが見えているような、それくらい壮大な光景がこの展望台からは見えたのだ。
「このエルトリア王国ってね、外からやってきて定住している人も多いんだ。だからこそ、これだけの多様な文化や商品が揃っているんだと思うの。色々な所を巡って……流れて……最終的にここに行きついた……」
そう言うルキオラの顔はどこか悲しそうだった。
それはまるで自分自身の事を言っているようで……。
「この街はね。ありとあらゆる物が揃うって言われてるの。それは宝石みたいに形のあるモノかもしれないし、何かになりたいという思い、つまりは実体の無いものなのかもしれない。けれど、やっぱり、もう二度と手に入らないものもあるんだよ……」
「ルキオラ……?」
彼女は覚悟を決めたようにゆっくりと深呼吸をすると、俺の目をまっすぐに見つめながら口を開いた。
「……多分もう気付いていると思うけど、あたしはこの王国の出身じゃないんだ。あたしの故郷は既に滅ぼされていて、もうこの世界には無い。家族も、帰る場所も、あたしにはもう……」
「待ってくれ……無理に言わなくてもいい」
「ふふ、優しいんだね君って」
儚げな笑顔を見せる彼女は、ここからの景色と相まってまさに悲劇のヒロインと言った様相を呈していた。
「でも大丈夫。確かにあたしは失った多くをこの街でなら取り戻せるかもしれないと思っていた。ううん、願っていた……だけどね。あたしがここにいる一番の目的は、魔王を……故郷を滅ぼした魔王ルーンオメガを倒すことだから」
「……何だって?」
突如として彼女の口から飛び出たのは予想外の単語……そう、紛れも無い魔王の名であった。
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