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15 王国へと誘った本当の理由とは

「おお、帰ったのか組合長!!」


 建物の中に入ると、そこでは大柄な男たちが宴会を行っていた。


「もう、また昼間から酒を飲んでるんですね……」


「まあまあそう言うなって。狼王のせいで最近は魔物の数も減って、一緒に仕事も減ってんだ。酒でも飲くらいしかやることがねえんだよなぁ~」


「その狼王ですが、討伐されましたよ」


「いやーそうだろう、今回だって失敗に終わって……は?」


 アーロンの言葉を聞いた瞬間、その場にいた冒険者たちは一瞬にして静まり返った。

 そして酒の酔いも一瞬にして冷めたらしく、冷静にアーロンとの情報共有を始めた。


「流石に嘘だろ? あの狼王だぞ?」


「本当ですよ。そもそも嘘なんてつく意味も必要性も無いです」


「いやいや、ワイバーンなんか比にならんあの化け物を倒せるのなんて、それこそ逸話に残る勇者とかそんな奴じゃねえと無理だろうよ。だが、本当にその勇者が現れたのなら……話は別だろうな」


「そう思いますよね? だから、彼女に来ていただいたんです」


 アーロンはそう言って俺の方を向いた。

 同時にこの場の冒険者たちの視線が一斉に俺の方へと向かう。


「あ、えっと……初めまして」


「なるほど、アンタが狼王を……」


「確かにありえなくはないな」


 ううむ?

 彼らの反応が何やら思っていたものとは違うな。

 もっとこう、馬鹿にされる系の流れかと思ったんだが……。


「その、信じるのですか? そんな化け物をこんな女の子が倒しただなんていう話を?」


「そりゃあアンタの見た目だけを見りゃあ、誰だってありえないと思うだろうよ。だけどな、それだけで判断するのは二流のやることだぜ」


「その通り。お前さん、さては自身から溢れ出ている『強者のオーラ』に気付いていないな?」


 強者のオーラ……というのは何だろうか。

 少なくともゲーム内の主要スキルにそう言ったものは無かった。


「強者と相対した時に感じるオーラのようなものを、アンタからは感じるんだ。それもとびっきりに濃いのをな」


「とは言ってもシルバーランクの俺らに見抜けるのは強者のオーラの濃さくらいなもんで、それ以上のものを見るにはまだまだ実力不足なんだけどな」


 彼らの言葉から考えるに、この世界特有のある種のパッシブスキルのようなものなのだろうか。

 にしても強者のオーラねえ……何と言うか、悪い気はしない。


「はいはい、そこら辺にしておきましょう。本題はそれじゃないんですから」


「おっといけねえ。そうだったぜ」


「ふぅ……では改めて、ステラさんを王国にまで連れてきた理由をお話します」


 それまでの和気あいあいとした空気感とは打って変わって、アーロンはシリアスな表情と声色でそう言った。


「その言い方だと、狼王についてのお話をより詳しく聞きたかった……というだけでは無いということですね?」


「ええ、その通りです。ステラさんを誘った本当の理由は別にあります」


 考えてみればそうだ。

 狼王についての話を聞くだけなら、わざわざ王国にまで連れて来なくとも向こうで済ませればよかっただけなのだ。

 そうでは無く、勇者召喚のことについての情報を出してまで俺をどうにかして王国へと連れて来たかった。

 

 ……その理由を、聞かせてもらおうじゃないか。


「単刀直入にお伝えしましょう。近い内に、この世界に魔王が復活するのです」


 魔王……? 

 もしや魔王ルーンオメガか?

 アップデートver8.0で満を持してメインストーリーのラスボスとして君臨したあの魔王か。

 と言うより、ネワオンにおける魔王と言えばそれくらいしか思いつかなかった。


「その魔王と言うのは……魔王ルーンオメガのことですね?」


 普通に考えて、魔王が復活するなんてそんな与太話を信じる訳がないだろう。

 だがここはネワオンの世界、アヴァロンヘイムなのだ。

 だからこそ、俺は彼女の話を信じるし、更なる情報を得る必要があった。


「やはり、ご存じなのですね」


「おお! となるとやはり……」


 周りにいた冒険者たちがざわめき始める。

 なんだなんだ、知ってるもなにも魔王について聞いてきたのはそちらだろう。


「あの、魔王を知っていることが何か? それだけ重大な事なら知っている人もそこそこいるのでしょう?」


「ええ、今現在魔王が復活することを知っているのは我々魔物学者の一部と王族のみとは言え数十人はいるでしょう。そこから情報が漏れた可能性ももちろんあります。しかし、魔王の名までも知っているのは国王と私のみ。つまり、ただの冒険者であるはずの貴方が知っているはずが無いんですよ」


「な、なんだってー!?」


 と、大げさに驚いてみたものの、こうなることは何となくわかっていた。

 そうでも無ければ俺を勇者と言う謎の存在などとは断定出来ないだろうからな。


「僕が貴方に言ったこと、覚えていますか。王国は秘密裏に勇者召喚を行っていると。まるでまだ勇者は召喚されていないかのような口ぶりで。……実はその儀式は、既に何度も成功しているのです」


「……それにしては何と言うか、浮かない顔ですね」


 彼女の表情からすると、恐らく勇者召喚は実際には上手くいっていないのだろう。


「ええ、そうです。その通りなんです。確かに『呼び出す』事には成功しました。ですが、どういう訳か召喚されたはずの勇者は王国では無いどこかにいるのです」


 召喚自体は出来たが、場所までの指定は出来なかった……か。

 

「何かしらの条件があることはわかっているのですが、細かいところまでは未だ解明されておらず……そんな時、やっとのことで見つけた勇者の内の一人が貴方だったのです」


「それで何としてでも私を王国へと連れて来たかったわけですね。魔王を倒してもらうために」


「……はい。最初から利用するつもりだったことは否定しません」


 まあ、仕方がないだろう。

 きっと彼女に悪気はない。彼女もまたこの世界のために動いているだけなのだ。

 それだけ魔王と言う存在は強大で、凶悪と言う訳だ。人々を守るために、世界を守るために、犠牲は必要だと。


「……顔を上げてくださいアーロンさん。魔王が復活すると言うのなら、私が戦ってあげましょう」


「よろしいのですか? ここまで連れてきておいて今更ですが、魔王は最強最悪の存在と伝えられています。いくら狼王を倒せる実力を持つ貴方でも……」


 確かに魔王ルーンオメガはストーリーボスとは言え、その性能はエンドコンテンツに片足を突っ込んでいる程のものだった。

 ましてやこの世界での魔王がゲーム内と同じ強さだという保証は無い。


 だが、だがしかしである。

 俺を誰だと思っている?

 そう、ネワオンサービス開始からサービス終了まで前線で駆け抜け続けた男だ!

 エンドコンテンツすらも周回しまくっている俺に、たかだがストーリーボスごときが勝とうなぞ10年……いや100年早いってなもんだ!!


 それに何より、俺はこのネワオンの世界を楽しむと決めたんだ。

 それを魔王などに滅茶苦茶にされてたまるものか。


「ふっ、全て……私に任せてください」


 ああ、俺は今最高にカッコいい。

 冒険者たちの羨望の眼差しを受けながら、俺は密かにそう思った。

本作をお読みいただき誠にありがとうございます!

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