13 エルトリア王国
あれから数日が経ち、とうとう俺たちはエルトリア王国へとやってきたのだった。
その間もアーロンの異常とも言える魔物愛を垣間見ることはあったが、これについて俺はもう、なんも言わん……。
「ようこそ、エルトリア王国へ!」
馬車から降りると、アーロンはそう言って俺の手を取った。
「王国は広いですからね。迷子になってしまうといけませんし、僕が責任をもってしっかり案内いたします」
女の子と手を繋ぎながらの街の散策と言えば聞こえはいいものの、今俺が手を繋いでいるのはあの魔物狂いだ。
正直、そう言った感情が全く湧いてこなかった。
「アーロン様、お待ちください! こちらの処理が先ですよ!」
そんな彼女を引き留めたのは護衛の中でも一番派手な鎧を纏っている騎士だった。
「すみません、今行きますね! えっと、僕は諸々の処理が残っているのでこれで一旦失礼します。昼頃には広場にお迎えに上がりますので、それまではご自由になさってください」
そう言うとアーロンと護衛たちは馬車を連れて王国の奥の方へと移動していった。
さて、一人残されてしまった訳だが何をしようか。
……まあ、無難に観光かねえ。
改めて王国の街並みを見てみると、まるでゲームの中に入ったかのような感覚になった。
いや、実際にゲームの世界に来ているようなものなのか。
とは言えここで生きている人の活気を感じられるのはゲームとの大きな違いだろう。
決まった会話しかしない村人や、商人などのシステム系のNPCとかとは違う。
彼らは紛れもなく、この世界で生きているんだ。
何と言うか感動するな……。
「なあそこの嬢ちゃん。ちょっと俺らと遊んでいかねえか?」
「ごめんなさい、そう言うのは……」
「まあまあ固いこと言わずにさぁ」
その時、俺の感動を見事に打ち砕くようなナンパが聞こえてきた。
そうだよな。ちゃんと生きているってことはこういうこともある訳だ。
まあそんなことは良いか。
「その子、困ってるみたいですが?」
「ああ? 何だお前は」
絡まれていた子を守るように、俺は男たちの前に立ちふさがった。
「いや……よく見なくとも、スゲエ体してんなぁねえちゃん」
「何だよこの男を誘う事しか考えて無さそうなドスケベな体はよぉ!」
「んじゃ、ねえちゃんが俺たちと遊んでくれるってことで良いな? 反論は聞かないケド」
案の定、男たちは俺の体に引っ張りだこのようだ。
「生憎と、そう言うつもりはありません」
「そうかい。なら力づくでその体、楽しませてもらうぜぇ?」
そう言うと男はナイフを取り出し、俺に向かって攻撃を仕掛けた。
「よっと」
「んぁ~……? なんで今のが当たらねえんだよ」
「おいおい、腕がなまったんじゃねえのか。それでも『飢えた狂犬』の元メンバーかよ」
「うるせえ……偶然に決まって……」
その後も何度も男が攻撃を仕掛けてくるが、俺はそのことごとくを避けて見せた。
「クソッ……! どうして当たらねえんだよクソがぁっ!!」
男の攻撃は単調だった。
そのうえでステータスによる補正があるのかは知らないが、彼の動きが俺には物凄く遅く見えていた。
あれ、なんだか楽しくなってきたな?
「ふふっ、どれだけ攻撃しても俺には当たらんよ」
日本での俺は絶対に言えなかったような強者の台詞も、ここでなら言い放題だ!
「舐めやがって……!!」
「よ、ほっ……ほら、どうしたどうしたその程度かぁ?」
「はぁ……はぁ……ク、クソッ! 覚えてやがれ!」
「ちょ、待ってくれよ!」
「兄貴ぃ~!!」
これ以上やっても仕方がないと思ったのか、男は捨て台詞を吐いて逃げて行った。
そして取り巻きも同様に逃げて行く。
「あの……助けてくれてありがとう」
すると俺の後ろに隠れていた少女がそう言って感謝の言葉を述べてきた。
「いえいえ、困っている女の子がいたら助けるのが男の役目ですから」
こんなキザなセリフも、今の俺なら言い放題。
なぜなら今の俺は強いから。心も、体も!
……そうでなければこんなことも言えない惨めな男だよ俺は。
「えっと、男……?」
「……」
そしてやらかすのもまた、俺と言う男だった。
「あ、その……私、女の子が好きだから、気分は男と言うか……」
おい、何を言っているんだ俺の口は。
このボインバインの体でそんなことを言ったところでただのやべえ奴だぞ。
いやどんな見た目でもやべえ奴だわ。
「そうなの……? ふふ、君って少し面白いね♪」
だが、どういう訳か彼女には刺さったようだ。
……何で?
「あたしはルキオラって言うの。その、助けてくれたお礼をしたいんだけど……」
「あ、えっと、ステラでぃす……ステラ・グリーンローズ」
完全に思考が持っていかれていたからか、俺は無意識的に条件反射で自己紹介をしていた。
しかも噛んでいる。
そして極めつけに、やらかしポイント②が発生してしまうのだった。
「苗字があるってことは、君って貴族だったりするのかな」
そう、この世界は苗字を持つ者が少ないのである。それこそ貴族とかそこら辺くらいなものだ。
「そう言う訳では無いんですけどね~あはは。それで、お礼についてなんだけど……」
もうこうなったら無理やり押し通すしかなかった。
「俺、この街に来たばかりで……案内をお願いしたいな~など思っていたり」
「そうなの? それならあたしに任せて。この街については少し詳しいんだ」
特に詮索されるでも無く、ルキオラは俺の要望に応えてくれるようだった。
本当に良かった……彼女が良い人で。
「それじゃあまずは……」
そう言いながらルキオラは俺の手を握る。
線が細い美少女と言った彼女の姿も相まって、どこか生命を感じにくい小さなその手は些細なことで消えてしまいそうに思えた。
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