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灰に踊る姫君ードンス・シュール・レ・サンドレ  作者: ミアヒェナー=エレント
第2章ー魔女と革命の足音
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茨の断片ーユンヌ・レートル

「もう一刻の猶予もないわ!今すぐ計画を実行しましょう。このままだと私たちみんな飢えてしまう」

「落ち着け、マリアンヌ。気持ちはわかるが、事を急いては全てが台無しになりかねん」

フランソワら共和派の幹部たちは高等法院(パルルマン)の会議室で、今月に入って2回目の会議を開いていた。

「あなたも知ってるでしょう?私達一般市民に課せられた税率を。もはや収入を超えているのよ!どうやって生計を立てろと!?」

彼女は必死な眼光でヒステリックにまくし立てる。

だが、その主張も当然のことだ。彼女たちにとって残された道は国に反旗を翻すか、黙って飢え死ぬかという究極の問題なのだから。

「そういうことではなく... まだ近衛兵隊長を懐柔できていない。彼の、近衛兵の軍勢なくしてこの計画は成功しないだろう」

「あの忠実な近衛兵隊長さまが、私達に付くと本気で思ってるわけ? 彼は今まで同郷の市民ですら問答無用で捕まえた男よ?」

しかしながら、共和派にとって近衛兵を寝返らせることは絶対に必要な事だ。全国に共和派の市民がいるとは言え、すぐに応じてくれるサン=ジュヌヴィのメンバーは数百人に過ぎない。

数十万を擁する近衛兵には到底及ぶはずも無いのだ。


「彼については手を打ってある。難しいが、不可能ではないだろう」

それを聞いて彼女は嘲笑するように息を吐いた所で、突然議会場の扉が開いた。

「......どうだ作戦は順調かね? そう願っているがな」

「っ、法院長様」

一同が頭を下げ敬意を示した相手は高等法院法院長、セヴェール=ロレーヌである。

元々庶民階級であった彼は彼らに相談の場を提供し、匿っていた。

「はい。共和派の逮捕は相次いでおりますが、未だ大規模な摘発には及んでおりません。これも法院長様の庇護によるものです」

「私はただ、一市民として王宮の怠慢が許せないだけだ。それに君の意見にも賛同する。貴族たちが経済を支配している内は国家の発展に後れを取る」

「えぇ、南方のメルクリオは既に王政を廃し大陸一の経済大国になっています。我らも彼らに倣うべきだ」

彼は暫く沈黙した後、こちらに向き直る。

「そういえばな、以前逮捕された共和派の3人の告訴状が届いていたのだが不起訴にしようと思う」

「不起訴、ですか?」

「あぁ、これ以上無実な者を罰する訳にはいかん」

それは少し意外だった。これまで共和派の罪人は決まって呵責とむち打ちの後に釈放されていたからだ。無条件に無罪とすれば王宮からの非難は避けられないだろう。

「無論、王宮からは再検討するように言われるであろうが...... 高等法院(パルルマン)の司法権は王権には属してはいない。私はアンリ善王がお定めになった慣例に従っているだけだ」

フランソワら一同は感服したように感じ入った。彼はつくづく肝がある人間だと。

**********************


「そういえば、フランソワ。お前宛に手紙が来ていたぞ」

法院長が帰った後、ジルベールが彼に一通の手紙を渡した。

それは漆黒の封筒に見たことが無い蝋印がされた奇妙な手紙だった。

「?見たことが無い紋様だな」

彼が不審に感じながらも、封筒を開け手紙を読む。

『サンジュヌヴィの国民議会議員、フランソワ=ブルッソー殿。貴君の、そして共和派の勇気ある行動を称賛するために私は筆をとっている......』

ネージュ語で書かれてはいるが、判別が難しいほどの飾り字だ。言葉使いや語彙がまるで数百年前の人間のように感じさせる。

「なっ、何故...私の名が?」

送り主を突き止めようと、読み進めていく。

そこにはサンドニージュが経済的に没落していること、このままでは王国の崩壊は避けられないことなどが記されていた。

『ついては、我も国家再生の援助をしたく存じる。貴君の元に我が使節を送る。詳しい事は彼女から聞いてほしい...... 敬具ービューゼドーネン王国、魔王シュレヒト』

その名前を見て一同は驚愕する。にわかには信じられなかった。

「魔王...シュレヒトだと!? 信じられない。彼はもう...」

「あぁ、”魔女大戦”で滅んだはずだ」

魔王。それはアルデバラン大陸において伝説として語り継がれている存在に過ぎない。

500年前に勃発した魔女大戦で人間族を含む連合軍に敗れ、死んだと言われている。だが、真相は不明だ。命からがら北方の国へ逃れたと言う者もいる。

どちらにしても彼やその配下の者たちは完全に過去の存在なのだ。


「『使節を送る』とはいったいどういう意味だ?誰が来るんだ!?」

「そんなの、でたらめに決まってるでしょ?あんたたち本気で魔王が書いたと思ってるの?」

皆に動揺が走る中、マリアンヌだけは馬鹿馬鹿しい、とばかりに冷め切った表情をしていた。

「だが......」

「そんなこと考える暇があったら、”王太子殿下”にパンでも貰ってきて頂戴!」

確かに、冷静になって考えればそんなことあり得ない。魔王が味方に付いてくれるなんて、まるで御伽噺だ。

「うむ...これは見なかったことにしよう」

誰かのいたずらかも知れない、彼はそう思い手紙を破り捨てた。


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