3-22 極まる地味
月乃は狩人から渡された、ヘッジス・スカルと水晶髑髏の共鳴現象を軽減させる物を開封した。
「これは……」
「金錠。こんなものを月乃に渡すなんて正気か?」
「正気も何も、これが最善の形なんだ」
一同はそれに注目していた。特に静也にいたってはそれに対して顕著な反応を示したのだった。
そして月乃がそれを取り出してさっそく身に着けた。
「うん。大きさも調度いいね」
「そうか。とりあえずそれを着けていればある程度の違和感は軽減出来るだろう」
「両方着けた方がいいの?」
「どちらかだけでも問題ないが、二つの方がより効果は高い」
「そっか」
月乃が渡されたのは二つだった。それを両方とも身に着けると、サイズや着け心地に違和感がないことを確認したのだった。
「なぁ、金錠。一言だけいいか?」
「なんだ? まぁ、言おうとしていることは何となく分かるがいいだろう。言ってみろ」
静也はそれらを身に着けた月乃を見てあることを思っていた。それはきっと静也だけでなくここにいるセブンスターズ全員が思ったことに違いなかった。
「ド地味じゃねぇか! 地味に拍車がかかっているじゃねぇか! もはや立派すぎる個性の誕生だわ!」
その言葉に全員が納得を示した。
なぜなら月乃が身に着けたものは、茶色のチャップタイプの帽子と黒い瓶底眼鏡だったのだ。
両目隠れの黒髪もっさりボブカットに華奢な体躯。仮にも生徒会長とはいえ、セブンスターズ以外の人とはほとんど話さない。それでいて影も薄い。好きな物はしいたけであり、寝間着もしいたけ柄。服を含めた私物もいったいどこのブランドかも分からない地味なものを愛用している。
そんな地味という言葉を体現した月乃にまたその個性を加速されるものが渡されたのだ。それはそれは全員が納得を示して当然だった。
「そんなに地味になったかな? いつもと変わらないと思うよ?」
「いや、いつもの方がまだ派手だと思えるほどだ。金錠、やってくれたな?」
「言っておくが、帽子の色に関しては星見のリクエストだ。眼鏡はなんでもいいと言われたからそのまま発注したらこうなったんだ。僕に非は無い」
「責めているんじゃない。地味になるなら結構だ。むしろ喜ばしい。ありがとう、金錠。やっぱり今日のお前は最高だ」
「もはや不気味を通り越して気持ち悪いな。だが、無波がそう言うなら多分大丈夫だろう。星見も問題なさそうだし。他の皆はどう思う?」
それらを着けている月乃に対してご満悦な様子を示している静也を放置することにした狩人は、念の為に他のメンバーにも聞いてみることにした。しかし皆も一様にして問題がない様子だったのでこれで良しとしたのだった。
「でも、狩人。学校で帽子は着けられないよ?」
「安心しろ。実際帽子よりも眼鏡の方が遮断性能は上だ。帽子はあくまで補助程度だと思え」
「そっか。分かった」
「それにしても、あれねぇ」
「なんだ? 姉ヶ崎。気になることがあるのか?」
「だって、前髪のせいでせっかくかけている眼鏡が隠れているわよ? それじゃ何が何だかよく分からないんじゃない?」
「確かに。違和感というか変だな」
月乃が眼鏡をかけると、ただでさえ長い前髪によってどうしてもレンズにかかってしまうのだ。また、瓶底眼鏡が大きいゆえに中途半端にレンズの下側だけが見えてしまっているので、見る人が見たら違和感しかないのである。
だが、それに対して静也は
「そうか? 別にいいんじゃないか? これもこれで地味さというかイモっぽさの味が出ていていいと思うんだよな」
「前々から思っていたけど、静也は私がどこまで地味になっても構わないの?」
「月乃の地味は個性だからな。月乃に限り良いものとする。だが、他は駄目だ」
「その謎理論は置いておくとして、やっぱり変かな? みんなはどう思う?」
月乃が首を傾げた。やはりその様子は誰がどう見ても田舎っぽさやイモっぽさがある地味な少女のそれだった。
「そうね。お姉さんは少し変だと思うわ」
「うーん……わちは大丈夫だと思うです! 静也兄ぃが言っていたとおり、それも個性なのです!」
「………わたしも…眼鏡……かけたら…そうなる…から……大丈夫だと…思う……よ……?」
「私も特には。星見様がどうしても気にされるのであれば策を講じる必要があると思います」
「ちなみにその策は?」
「眼鏡をかけている間だけ前髪を上げてしまうとかでしょうか」
「能徒。それは俺が許さん」
「さようですか。では無しということで。ご放念ください」
「無波はどの立場で言ってんだよ」
問題無しと考えている者、逆に有りと考えている者に分かれたが、静也のその一言により唯一とも思われた策が却下されたので、もはやこのままでいく以外に道はなくなってしまった。
「月乃ちゃんはいいの? 静也くんがそう言っているけど、最後に決めるのは月乃ちゃんよ? それこそ、静也くんは彼氏じゃないんだし」
その言葉に反応を示した月乃。もちろん、唯もまた今回は完全に無意識に言っただけなので言い終えた後になってはっとしていた。
月乃はその様子を見て唯はわざと嫌味のように言っているのではないと悟り、あらためて自分の姿について考えてみたのだった。
「こういうのって彼氏以外が意見をしたら駄目なのです?」
そんな二人の心境はつゆ知らず、悟利が純真無垢な目で問いかけた。それに対して答えたのは能徒だった。
「ご自身の外見に関わることですから。自分が気に入ったファッションを他の人にとやかく言われるのは嫌でしょう? でもそれが恋人からだった場合はなぜだが許せてしまう、彼氏や彼女にはそういう特権のようなものがあるのです」
「うーん…… あ、あれです? 認めた相手からなら受け入れられるというやつです?」
「そうですね。そのようなものでもあるでしょう。周りも周りで恋人同士だから―という暗黙の了解のもとでその二人には外から意見を言わないものなのです」
「分かったような分からないようなです。だったら静也兄ぃは月乃姉ぇに何も言えないのです?」
すると少しの間誰もが口を閉じた。だが、
「別に静也なら私のあれこれに口を出してもいいよ。ずっと長い間一緒にいるんだし、そもそも静也だってたまには私の服に意見することがあるし」
「え? あるの?」
唯は驚いた。そして月乃もまたそれが失言だったことに気が付いた。そもそも、ただでさえインドアな月乃の服に意見をする機会自体が少ないのに、それが出来るということは本当に恋人もしくはプライベートでそういう機会があるということだからだ。
「む、昔ね。まだ小さい頃とか。ね? 静也」
「そんなことあっ―」
「あったよね? 静也?」
「そ、そうだな。懐かしいな。まぁそれはいいや。それで、結局眼鏡はそのままかけるのか? それとも本当に前髪を上げてしまうのか?」
「うーん…そうだね……」
本題に戻ると、月乃はまた悩んだ。だが、これ以上悩んでも仕方がないと判断したようで
「いや、このままでいくよ。見てる景色は変わらないんだし。それに、静也が私に前髪を上げてほしくないみたいだからね」
と判断して口元をにこっとさせた。
それを見ていた唯は少し複雑な気分になったが、もちろん顔には出さなかった。
「それじゃあらためて、全員の人形には問題が無く、星見の帽子と眼鏡にも不備はなくこのまま使うということでいいな?」
狩人のその問に対して全員が頷いた。
それを確認した狩人が能徒に視線を向けると、まもなくして結界が解除された。
「確認の時間を取らせて悪かったな。それじゃ、僕は帰るからあとはみんなで楽しんでいてくれ。僕が食べた分の金はここに置いておく」
「待つです!」
「どうした? 小牧。やっぱり何かあるのか?」
「違うです! 狩人兄ぃもまだ食べていくです! みんなで食べた方が美味しいです! それに、狩人兄ぃは帰ってもどうせボッチを極めるだけです。ならわち達といた方が楽しいです!」
「少し聞き捨てならないことが聞こえた気がするんだが?」
「気のせいだ、金錠。そういうことだから、もう少し俺らといようぜ?」
静也と悟利が狩人に優しい目を向けた。もちろん狩人にとって静也のそれは気味が悪かった。それでも、悟利が言ったことに間違いはなく、帰っても何もすることがないのもまた事実だった。
「……まぁ、いいだろう。僕がいる間に聞きたいことを聞いておくんだな」
「あぁ、頼りにしてるぜ」
「無波。そろそろ本当に気持ちが悪い。どうにかならないのか?」
「まぁいいじゃないか」
そう言った静也の顔はやはり狩人にとって不気味そのものだった。
それからセブンスターズの一行はバイキング終了の時間になるまで食事を堪能したのだった。




