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楽園の欲祓師  作者: 翡翠ユウ
第3話 フィッシュ・ボウルの内外

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3-21 人形の形

「全員集まっているようだな」

狩人(かぶと)、遅いよ」


 一行はバイキングレストランにて狩人と合流した。

 先に食事をしていた六人のテーブルには所せましと数々の料理が並べられ、それぞれが思い思いのままに堪能していた。


「空港からそのまま来たんでな。休日だから道が混んでたんだ」

金錠(きんじょう)、何か食べるか? 注文してやるから言ってくれ」

「そうだな。とりあえずアイスコーヒーを貰おうか。あとは適当にサンドイッチ。というか、無波(ななみ)が僕にそんなことを言うのは気持ちが悪いな。ついにイカれたのか?」

「そんなことを言うなって。ほら、注文したから少し待っててくれよな」


 静也(せいや)はさっきの窮地のタイミングで狩人からかかってきた電話により難を逃れたのだ。だから、とりあえずこの場ではその借りを返すために献身的でいることにしたのである。

 そこから狩人が席に座ると、まずは目の前の異様な光景に疑問を抱いた。


「なぜ今日は無波の隣に能徒(のと)と深見がいるんだ? いつもは星見か姉ヶ崎だろ? それに、どうして小牧は誕生日席なんだ?」

「理由は簡単だよ。狩人」

「そうねぇ。今日はこれなのよ」


 そう言った月乃(つきの)と唯は狩人の両隣にいた。


「今日の席次はじゃんけんで決めたです! そうしたらこうなったです!」


 悟利(さとり)が満面の笑みでフォークとスプーンを持って答えた。その口元にはスパゲティか何かのソースが付いており、その様子はさながら幼児のようである。しかし食べている量は幼児ではないのはお馴染みだ。


「わちは嬉しいです! いつもは端っこだから今日はここからみんなの顔がよく見えるです!」


 そう言っている間に隣の能徒によって口を拭かれたのだった。


「ほら、金錠。コーヒーとサンドイッチだ。よく噛んで食べろよ」

「だからなんで今日は親切なんだ? 逆に怖いぞ?」

「まぁ気にするなって。俺達は友達だろ?」

「怖いを通り越して気持ち悪くなってきたな」

「それで、本題は?」

「そうだった。能徒。悪いが結界を頼む」

「承知しました。お待ちください」


 全員の前に料理と飲み物があることを確認した月乃が狩人に本題に入るように促した。そしてまもなくして結界が安定すると、狩人はバッグから小包を取り出した。


「前にそれぞれでデザインを言ってもらった、減田(げんだ)が接近した時に震えて教えてくれる人形が出来たんだ。今日はそれを渡しにきた」

「思ったよりも早く出来たね。週明けになると思ってたんだけどね」

「クリエイター曰く、簡単なデザインもあったから早く出来たんだと。それで日本を観光したいみたいだからついでに持ってきてくれたんだ」

「へぇ。何にしても早くて助かったよ。ありがとうね」

「あ、そうだ。星見にはこれもある。減田が接近してきた時の頭の違和感を軽減させる物だ」


 そうして狩人はまた別の小包を取り出すと、そっちは月乃に渡した。


「ありがとう。これで学校に行くのが嫌にならなくてすみそうだよ」

「良かったな、月乃。俺からも礼を言うよ」

「……なぁ、能徒。無波はこの数日で何があったんだ?」

「金錠様、どうかお気になさらず。恐らく本日だけだと思いますので。明日からはいつも通りかと思います」

「それもそれでどうかと思うんだが、まぁいい。それじゃ、渡していくからそれぞれで確認してくれ。不備があれば明日までなら修正が出来るからな」


 ということで狩人が小包を開けて全員にその人形を渡した。

 分厚い保護シートに包まれていたそれを開封すると、その大きさは当初聞いていたアクリルキーホルダーくらいの大きさで、材質的にも一般的なそれよりも強度がありそうなものだった。


「うん。いい形だね」

「そうね。大丈夫そうね」

「すごいです! 美味しそうに出来ているです!」

「……かわいい」

「ここまで精巧なものになるとは。感服いたします」


 デザインはそれぞれのリクエストによる完全オーダーメイドである。

 月乃はお馴染みのしいたけで、そのデザインの笠の部分には鍋なんかに入れる時のように十字の切れ込みが描かれていた。

 唯はピンク色のハート型、悟利は茶碗に入ったご飯、愛枷(まなか)は藁人形、そして能徒は自らが来ているメイド服だった。


「こうやって見ると能徒と愛枷以外は簡単そうなデザインだな。そりゃ出荷も早くなるわけだ。金錠のは?」

「僕のもシンプルなデザインだ」


 ということで示されたそれは、RPGゲームなんかでよく見るコインやお金が入っている口がきゅっと閉じられた袋のデザインだった。


()錠だからってお金関係のものにするとは。いやぁ、センスがいいな。素晴らしい」

「そろそろその感じにも慣れてきたぞ。実のところ、無波のデザインが一番大変だったとクリエイターが言っていた。僕にリクエストした段階でお前には希望が全て叶う保障はないと予め言っておいたが、実物のクオリティはどうだ? ちなみにだが、無波の場合は作り直しに金がかかる」

「どうして?」

「それほど緻密でこだわりの多いデザインだったからだ。クリエイター曰く、ここまで細かく注文されたのは初めてだ。大変だから出来れば直したくないとのことだ」

「そんなにこだわりのリクエストをした静也くんのデザインはどんなのなの?」


 静也だけがまだ包みを開けていなかった。なのでそこまでの物となると、否応なしに全員の注目が集まった。


「見たいか?」

「見たいです! もしかして静也()ぃはパフェのデザインにしたですか? あれは複雑そうです!」

「残念だが違うんだなこれが。よし、見とけよ」


 そうして静也がその包みを開けて人形を全員の前に表した。


「静也、これって……」

「そうだ。うん、よく出来ているな。このなんとも言えない地味の塩梅が難しいと思っていたんだが、見事に再現されている。このクオリティの物を出されたら、製作者は一流のクリエイターで間違いないと認めざるを得ないな」


 静也はそれを確認するとご満悦な様子でそう言った。だが、狩人以外の五人は全く予想外の物が出て来たので少し困惑していた。


「素晴らしいだろ? 名付けて()()()()()()()だ」


 そのデザインは、地味を極め体現した月乃を若干デフォルメしたものだった。


「どうして私……?」

「だって月乃を守るんだから、その危険を教えてくれる物は月乃のデザインがいいと思ってな。それに、最近の推しグッズでもよくあるだろ? こういうデフォルメのキャラ」

「意味が分からないよ。それに、これは恥ずかしいよ?」

「推し活というやつに見えるから大丈夫だろ。ちゃんと毎日肌身離さず持つからな?」

「私が恥ずかしいんだよ?」


 月乃は思わず口元をむっとした。

 その様子を見ていた唯は狩人に何やら言いたげなようで視線を送っていた。


「姉ヶ崎。完全に別の物に作り変えるという注文は駄目だからな?」

「どうして分かっちゃったの? 静也くんのそれが許されるなら、お姉さんも静也くんのデフォルメキャラクターにすれば良かったな…… 本当に駄目?」

「駄目だ。無波のそれでかなり神経を使わせてしまったんでな、取引相手が僕とはいえ我儘は言えない」

「そう……分かったわ。それにしても、能徒」

「はい」


 唯はふと能徒に目を向けた。そしてその能徒はその視線の意図が分かっているようで、二人は同じように月乃と静也に目を向けた。

 静也はいまだにその月乃ちゃん人形の精巧さと本人さながらの地味さ加減にご機嫌である。また、それを見て物申している月乃は恥ずかしそうである。それでも二人の目には心なしか嬉しそうに映っていた。


「でも、これは静也くんが決めたデザインだからお姉さんは何も文句は言えないわよね」

「はい。星見様と姉ヶ崎様は無波様が自発的に決めたお二人のことや、選択に対してお互いに干渉しないと決めておられますので」

「そうね。あの時だって、もし静也くんが月乃ちゃんの方を選んでいたなら悲しいけど受け入れるしかなかったもの」


 唯は少しだけ寂しげな顔となって目の前に置かれているコーヒーを飲んだ。それはもう既に大分冷めてしまっていた。


「唯姉ぇ。これを食べるです」


 すると悟利が唯の空いている皿に小さなケーキを置いた。


「どうしたの?」

「なんか元気がなさそうだったです。そういう時は美味しいものを食べるのが一番なのです」

「悟利ちゃん……」


 悟利もまた月乃と唯の静也に対する想いは知っている。だが、それでも


「唯姉ぇ。今日も楽しいです。今日のわちはいつもと違ってみんなの顔がよく見えるです。みんなも楽しそうです。こんな日がずっと続いてほしいと思っているです。だから唯姉ぇも元気を出すです」


 悟利はみんなの楽しそうな姿が好きなのだ。特にどっちの味方とかではなく、ただただこうしてセブンスターズの仲間達と楽しく過ごしたいのである。


「愛枷も皆の様子を見て嬉しそうにしてるです。狩人兄ぃも前までは今みたいじゃなかったです。ここが居心地がいいんです。唯姉ぇも月乃姉ぇも、もちろん静也兄ぃもです。だから楽しく過ごすのがいいと思うです。唯姉ぇはいつも通りのほうがいいです」


 普段唯に世話をされていたり食欲ばかりの様子ではなく、一切の濁りの無い瞳で言った悟利を前にした唯は驚いた。また、まさか悟利にこんなことを言われる日がくるなんてと思ったのだった。

 そうして唯は悟利がくれたケーキを食べると、いつものように凛々しく微笑んだ。


「そうね。今はこの楽しい時を楽しまないとね。ありがとう、悟利ちゃん」

「いいのです」


 悟利もまたいつものように無邪気に微笑んだ。


「それで、結局それぞれで不備は無いということでいいんだな?」


 そこで狩人が問いかけた。それに対して月乃だけが不服の様子だった。


「静也のをどうにか直して? これじゃ私が恥ずかしいよ」

「一身上のものは却下だ。破損といったミスでないなら受け入れるんだな」

「そんな……」

「そういうことだ。いやぁ、いいものを貰ったよ。ありがとうな、金錠」

「……まぁいい。深見も問題無いな?」

「う……ん……藁人形…かわいい……うれし……」


 愛枷はその人形を大層大事に抱えていた。


「あぁ、そうだ。星見。共鳴による違和感を軽減させる物なんだが、それも確認しておきたい。出せるか?」

「分かった」


 次は死活問題となっていた月乃の違和感を軽減させる物について確認が始まった。


「これは……」

「金錠。こんなものを月乃に渡すなんて正気か?」

「正気も何も、これが最善の形なんだ」


 今度は静也が驚いた顔になった。

 すると月乃がそれを取り出してさっそく身に着けた。

次回は4/24の予定です。

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