3-10 疑問と生まれた懸念
「それで、どうしてかなんだけど、こういうのは考えられないかな?」
月乃が呟いた。それにより全員の視線がそこに集まった。
「なぜ?とかそういうのは無しにして、単純に減田はさっきクリスタルスカルを持っていなかったんじゃないかな」
そこで唯が疑問を投げかけた。
「でも月乃ちゃんのヘッジス・スカルは今も頭の中よね? なら他の水晶髑髏だって体の中にあるんじゃない?」
「そうとも限らないよ? だって現に私のヘッジス・スカルだって過去に持ち出された結果今ここにあるんだし。ならその形は体内に無ければ維持出来ないものということにはならないでしょ?」
「そう言われればそうね。でもそんな大事なものなら肌身離さずに持っておくものだと思うけどね」
「うーん……それはまぁ今後の減田の人間性を見ていけば明らかになるんじゃないかな。もしかしたら案外ズボラな性格とか、家のセキュリティじゃないと安心しないとかね。ということで念の為に確認だけど、狩人。さっきの時間帯に減田のクリスタルスカルはどこにあったの?」
「そうだな。履歴を遡ると確かに学校の中には無かったようだ。それこそ多分この場所は家だろうな。住宅街で反応が出ている」
狩人がパソコンの画面をセブンスターズ事務所にあるスクリーンに投影した。そこには学校から離れたところで今も反応を示している印があった。
「ほらね。思った通りでしょ?」
月乃が少し自慢げに言った。だがそれにより新たな懸念点が出てきてしまった。
「ということは少し困ったことになったぞ?」
「そうですね。多少危険なことになりました」
と静也と能徒が口を揃えて言った。そしてその懸念点は愛枷や狩人も気がついたらしく頷いた。
「どういうことです? わちには分からないです!」
悟利と同様に唯と月乃も分からないようで首を傾げた。
「この前俺達は減田からの危機を避けるためにその対策を話して決めただろ? でもそれはあくまで減田がクリスタルスカルを常に持っている、もしくは体内にある場合の話だったんだ」
「うん」
「つまり、今回その減田のクリスタルスカルが持ち運び可能なものと分かった時点で減田を察知することが出来なくなった。同時に、いつどこで襲われるか分からなくなったんだ。それこそ、前に決まった人形や月乃自身の違和感で気付いた途端に逃げて回避出来たんだ」
「あぁ、そうだね。確かにそれは痛手だね。どうしようかな……」
「あわわ、月乃姉ぇが減田おじに襲われるです。ピンチです!」
「まずいわねぇ……」
やっと理解した三人は頭を抱えた。そこで狩人が提案した。
「だったらもう地道に護衛するしかないだろ。奴がクリスタルスカルを持ってこないならどんなに優れたパソコンも機能もガラクタ同然だ。僕達としてはただ星見を守ればいい。そんな中でも奴のクリスタルスカルを狙っていく。それだけしか出来ない。いや、それに注力するしかないんだ」
「だよな。そうなるよな」
「でもそれはなんかみんなに悪いかな。だっていつやってくるか分からないってことは、いつ何時でも護衛をするってことでしょ? それはみんなの負担が大きいよ」
すると静也が再び月乃の隣に立ってまっすぐと見ると、真剣な顔で口を開いた。
「大丈夫だ、気にするな。他のみんなが疲れたとしても俺がどんな時でも月乃を守ってやるから。そこに負担なんて無い。だから俺に月乃を守らせてくれ」
「静也……でも…」
「ちなみにいくら月乃でも拒否権は無いからな? 全員が受け入れても俺だけは受け入れないからな?」
「……もぅ」
月乃は再び俯いた。やはりその長い前髪のせいで静也からその表情が見えなかったものの、月乃本人は頰を赤くしていた。そして口元が緩み、ほころんでいた。
「星見様。私もです。皆様のメイドとして、主である星見様のためにどんな状況でも必ず守ってみせます」
「能徒まで……」
そこで静也と能徒の目が合い、確かに強く頷いた。
「わちもです! わちが本気になれば減田おじなんて楽勝です! かかってこいなのです!」
「わ…わたし……も…… ずっと起きているのは……得意…」
「お姉さんもよ。迷惑とか負担とかそんな水臭いこと言わないの。ずっとやってきた仲じゃない」
「みんな……」
顔を上げた月乃は決意を確かにした仲間達を見て嬉しそうに笑った。
「ということだ。みんな月乃を守りたいんだ。金錠は何も言っていないが、嫌がるなら俺がどうにかしてやる」
「ちょっと待て。僕は嫌がっていないだろ?」
「でも結局何も言ってないじゃないか。守るつもりがないなら俺が力づくで頷かせてやるぞ?」
「誰もそんなことは言っていないだろ。まぁ、あれだ。僕も同じだ。星見を取られたら終わりなんだからな」
狩人はいつも通り少し恥ずかしそうに、それでもしっかりとした強い意志を宿した目で言った。
「決まりだ。いくら減田がクリスタルスカルを持っていなくても俺達がいれば大丈夫だ。何かしてきたら必ず返り討ちにしてやる。それで二度と社会に出られないように徹底的に排除してやる」
静也は最後にその瞳を赤く輝かせた。そこにはまさに有言実行するという強い覚悟が宿っていた。
それを見た月乃は
「ありがとう…静也」
と静かに呟いた。
しかしその小さな声は当の本人には聞こえていなかったようだ。
「だが、それでもこの前決めたことは継続しないとまずい。そうだろ? 金錠」
「もちろんだ。既に今朝全員が希望した人形の形を依頼し終えている。もちろん今更取り消しは出来ないからこっちもこっちで進める。それこそ、気分でクリスタルスカルを持ち運びする性格だったらその機会がもったいないし、星見や他が気付けたのにいつの間にかやられていたなんてことになったら目も当てられない」
「本当こういう時だけは頼りになるんだよな」
「普段が役立たずみたいじゃないか」
「でもヘタレボッチではあるだろ?」
「僕はボッチではない。望んで一人でいるだけだ」
「それをボッチって言うんだよ」
「う、うるさい」
狩人と静也のいつものやりとりを見た一同からはさっきまであった不安が無くなっていた。
「それで、もちろん今日から護衛を開始するんだろ?」
「当然だ」
「とは言っても学校は終わったし、あとは安全に家まで送り届けるだけだぞ?」
「まぁそうだが、それが大事だろ? たかが帰り道、されど帰り道。そんな一瞬の隙にやられないとは限らないんだからな」
「確かに」
「ではそこは私がやります。いつもお送りしていますので」
と能徒が名乗り出た。するとそれに続いて
「それを言ったら俺もだな。俺だって途中までだけど一緒に帰っているし」
「ならわちもです! 途中までです!」
「あらあら、だったらお姉さんもよ?」
「みんな……一緒に…帰って……いる……いつも…どおり…」
「確かにそうだな。だったらもういつも通りみんなで帰って、最後まで一緒の人が月乃を家に送り届けるというのでどうだ?」
「賛成です! 守るです!」
その時月乃が能徒に目を向けた。そしてその意思を察した能徒が頷いた。
「能徒? どうかしたか?」
「いえ、なんでもないです。お気になさらず」
「そうか。でも何かあるなら今のうちに言っておいてくれると助かるんだが?」
「静也、能徒は何でもないって言ってるよ?」
「でも何かあったら……」
「何でも、ないんだよ?」
月乃はこれ以上何も聞かせないと言っているかのように静也をじっとりと見てはにっこりと口元が笑った。
「まぁ、それならいいんだけど」
「うん、それでいいんだよ」
満足した月乃はにこっと口角を上げた。
「それじゃ今日はここまでね。最後に、狩人。その人形はいつ頃出来るんだっけ?」
「来週末だ。最短で届くように手配したから心配するな」
「うん、分かった。ありがとうね。みんなもありがとうね」
そうして今日のセブンスターズは解散となった。
次回は2/27の予定です。




