3-9 どうしてここに……?
体育館を使用禁止にした生徒会一行は、悟利により大怪我を回復された彼を残してその足で校長室を訪れた。
ちなみにその彼は気を失っているので、目が覚めた時に万一逃げないように手足を縛り、騒がれないように口にはガムテープを貼り付けて閉ざしたのだった。
「失礼します」
月乃の抑揚の無い声と、普通に入室していく様子に続いて他の面々も順に入室した。すると、そこで驚くべき光景を目の当たりにした。
「なんでここに……」
「あぁ、これはこれは生徒会ご一行じゃないですか。どうですか? あれから元気にしていますか?」
まさに今校長と話をしていた様子の彼は、生徒会の入室とともに振り返った。
穏やかで自然的に話す彼は
「減田……」
「無波君、せめて先生を付けてくださいよ。まぁ生徒達からの呼ばれ方なんて大体そんなものですよね」
セブンスターズが現在警戒している人物である、減田功削だった。
その存在を認識した途端に全員に緊張が走り、静也は一番前にいる月乃を隠すようにして前に出た。そして今いる場所からは絶対に近づけさせないという威圧を放った。
また、万能メイドである能徒は万一に備えて校長室全体に結界を張った。最後尾にいた愛枷にいたっては全員の影に隠れており、減田にまだ見られていなかったことを察すると同時に、有事に備えて非認知を発動した。
「そんなに怖い顔をしないでくださいよ。ってこれは前にも言いましたね」
「それで、今日は何しにきたんだ?」
「先生には敬語を使いましょう。まぁ、生徒達は大体そんなものですよね。今日は出勤当日の最終準備と説明ですよ。校長から呼ばれてね」
月乃と静也の目線が減田の影から少しだけ見える校長へ向いた。
「そうです。減田先生は来週の月曜日から正式に本校に着任され、皆さんに授業をおこなってもらいます。その説明のために呼びました」
校長はセブンスターズのことや、その所属している上層部である陰陽院のことは知っている。しかし、そのさらに深部であるアウルの楽園については知らない。
校長からしてみればセブンスターズがこんなにも目に見える形で減田を警戒しているのは不思議でならないだろう。だがそれに対してなぜとは言わずに減田を呼んだ目的のみを話したのだった。
「そうですか。そういうことなら俺達が変に何かをするのはおかしなことですね」
「無波君。校長には敬語ですか? 僕はまだ教師として認めてもらっていないようですね」
「正式な着任は来週だろ。それまでは俺達の教師じゃない」
「酷いですねぇ。まぁでも、来週からは教師と生徒ということで。よろしくお願いしますね」
一見すると人の良さそうな男である。だがその言葉ともに見せた笑みの奥には何かこう、不穏なというか歪なものを感じざるをえず、それを一様に察知したセブンスターズが警戒を緩めることはしなかった。
「そういえば、星見さん。今日は元気そうですね。体調はもういいんですか?」
「まぁ……それなりには」
「そうですか。そうですか」
静也の後ろにいる月乃は長い前髪で顔全体を隠すようにして俯き、回答についてもそれ以上は何も言わなかった。
「それでは僕はこれで。最終の説明も終わりましたので、来週からはどうぞよろしくお願いしますね」
そして減田は校長に挨拶をして校長室を出ていった。
次第にその足音が小さくなっていき、ついに聞こえなくなると校長が口を開いた。
「驚かせてしまったみたいだね。言うのを忘れていた」
「いえ、その……平気だから」
そこでやっと月乃が静也の前に出てきた。
「ところで、どうしてそこまでして君達は減田先生を警戒しているのかね? 上と何か関係があるとか?」
「それはその……まぁ色々とあって。でも校長には迷惑をかけないから安心していいよ」
「そうか。もし何か困るようなことがあれば遠慮なく言うといい。私が出来ることは限られているがね」
「うん、その時は頼りにするよ」
「それで、今日はどうしてここに来たのかね?」
あぁそうだと当初の目的を思い出した月乃がそれを話し始めた。
「実は体育館が壊れちゃって、その修理業者の手配と当面の間使用禁止にしてほしいんだよね。もちろんみんなには不自然じゃない言い訳を考えてくれると助かるかな。あと生存者が一人いるから陰陽院の監視付きで病院に送ってほしいな」
「なるほど。搬送についてはすぐに手配しよう。体育館はセブンスターズの活動でやってしまったということだね?」
「うん。大分派手にやっちゃって。もちろん死体はこっちでどうにかするから、施設の修繕だけお願いしたいんだよね」
「分かった。そういうことなら校長としての権限でどうにかしよう。費用は陰陽院に請求する感じでいいね?」
「うん。大丈夫。迷惑をかけるけどお願いね」
「任せておくといい」
そうして要件を済ませた生徒会一行は校長室をあとにした。
***
「今日はびっくりしたね」
生徒会としての仕事を終わらせた一行は、その足でセブンスターズの事務所に立ち寄った。
そして最奥の席に座った月乃が安心した様子で言った。
それから能徒がお茶を淹れている間に他のメンバーがそれぞれの席に座ってくつろぎ始めた。
「そうだな。でも気になったことがあるんだよな」
「ん? あぁ、もしかしてあれのこと?」
「そうだ」
すると静也が月乃の頭に手を置いた。
「どうして違和感が出なかったんだ?」
静也のその疑問は全員が思っていたらしく、部屋の空気感が変わった。そして全員の視線が必然と月乃に向いた。
「うーん。どうしてだろうね。実は私にも分からないんだよね」
「まさか月乃が寝ている間に抜き取られたとかはないよな?」
「それはないと思うよ? 普通に取られてたら今私はここにいないでしょ?」
「まぁ、そうだな」
月乃は頭を撫でられながらもその視線を静也に向けると
「ところで、いつまで撫でてるの?」
「いや、なんか触り心地がよくて。どうしてこんなにサラサラのツヤツヤなんだ?」
「知らないよ。まぁ…いいけど」
月乃はそのまま視線をもとに戻すと、その口元が僅かに綻んだ。また、頬も少しだけ朱に染まっていた。
その時静也の手が不意に月乃の耳に触れた。
「ん……っ」
月乃は一瞬びくりと身を震わせ、小さいながらも少し甘い声を漏らした。
「あ、ごめん。大丈夫か?」
「…うん。そろそろいいかな? 能徒がお茶を運んでくるから」
そう言った月乃は少し俯いていた。そのせいで長い前髪が一層下に伸び、その表情が完全に隠されてしまった。
そこで静也は何を思ったか、手を遠ざける前に偶然を装って再び耳に触れた。いや、巧妙に指でなぞったのだ。
「んん……っっ」
「お?」
その反応はさっきよりも大きかった。
自分が悪戯をしたことでそんな反応を見せた。だからもしまた何かをしたらもっと別の反応が見られるのではないだろうか。
そんな探究心にも似た衝動が静也に宿った。しかし
「静也。もう駄目だよ?」
そう言われ、両耳を覆われたことで更なる行動に出ることが出来なくなってしまったのだった。
そんな様子を唯は羨ましそうに見ていた。悟利は耳が気になったのか自分の耳に触れてみたりもしていた。
「皆様。お茶が入りました」
そこで能徒がお茶を運んできたので静也の悪戯は完全に終了したのだった。
「それで、どうして月乃に違和感が出なかったかについてだが、何か思い浮かぶ人はいるか?」
静也が何食わぬ顔で仕切り直した。だがそれを見ている月乃の口元はむっと強張り、まだ耳を覆っていた。
「そうだな。まず前提としてあるのは、星見の頭にはまだヘッジス・スカルが残っている。それはここで星見が健在なのだから疑いのない事実だろう。それに、さっき減田が待つクリスタルスカルの反応の履歴を見返してみたんだが、あの日の違和感の後に帰宅されてから動いていないようなんだ」
狩人が今ある事実を淡々と説明した。それにより全員はさらに頭を抱えた。
「金錠。それが壊れている可能性は?」
「この前確認したばかりだろ? それはない」
「そうか……ならどうして。もちろん月乃が苦しまないならそれに越したことはないんだが、なんか不気味だな」
「こういうのはどうです? 減田おじはクリスタルスカルを食べたのです! お腹が空いていて美味しそうだったからなのです!」
「いやいやクリスタルって言うくらいだから、どうせ水晶の類だろ。ダイヤモンド並の歯がないと食べれないぞ」
「残念です」
悟利はいつも通りである。そしてさっき男子生徒を回復させた分のエネルギーを補給するために菓子パンやお菓子を食べていた。
「ねぇ、単純にこうなんじゃないかな?」
月乃が口を開いた。
そこに静也が目を向けると、耳から離されていた手が再びそこにくっついた。
「何もしないって」
「むぅ…こういう時の静也は信用出来ないんだよね。まぁいいや。それでどうしてなのかなんだけど」
その答えに全員の視線が集まった。




