3-7 ガールズトークと視線
少し前。
「疲れたわぁ」
「そうね。急に体育館でやるだなんて困るよね」
本日最後の授業を終えた姉ヶ崎唯は女子更衣室で着替えをしていた。
唯のクラスは体育館で体育の授業だった。本来なら校庭でやる予定だったのだが、急遽変更になったのだ。しかもその内容が
「なんでサーキットトレーニングだったのかしらね。いくら先生達が運動不足を敵視しているとはいえ、女の子をそこまで鍛えようとするのはどうなのかしらねぇ」
「そうだよね。これじゃ女子全員がマッチョになっちゃうよ」
「ふふふ。それは困るわよね。女の子は適度に丸みを帯びていた方が男子受けはいいものね」
「そうそう。でも丸すぎてもデブだなんだって男子は言うから、調度いいってのが分からないのよね」
「まぁ男の子にも好みがあるから、一般的な調度いいなんてのは一生の命題なのかもねぇ」
唯は友人とそんな話をしながら体操服を脱いで着替えを続ける。
毎回ではあるが、唯が着替えている様子は女子といえど否応なしに多くの人が見てしまう。なぜなら
「それにしても、姉ヶ崎さんってどうしてそんなにスタイルがいいの? 胸は大きいし腰はくびれてるし、お尻もなんかこう調度いいし。食事に気を付けているとか何かやってるの?」
唯の大人顔負けのスタイルは女子達からでも注目を浴び、それこそドキッとしてしまう要素が多くあるのだ。
肌は白く張りがあり、肌トラブルなんてものとは一生無縁なほどに綺麗に整っている。そしてなによりもシルエットからして高校生離れしているのだ。
胸は大きくそれでいて重力に逆らっているかのように上向きに張りだし、双丘の谷間はどこまでも深い。腰は抱きしめたら容易く腕をまわせるほどにきゅっとくびれていて、確かに多少の肉はあるものの一切合切無駄なものではないのだ。
そこから続く臀部へのラインもまた全人類を魅了しそうなほどになめらかで、それでいてまさに調度いい肉付きとともに太ももへと続いていた。もちろん垂れてなんかおらず胸同様に上向きの張りがあっていわゆる美尻の域、いや、それすらも超越しそうな美しい丸みはまさに黄金比に匹敵するものだった。
それらが大人が着けるような刺激的な黒い下着に包まれては、その境目にむちっとした健康的で魅惑的なラインを顕現させていた。
まさに調度いいを体現した抜群のスタイルは今まさに更衣室の女子達から羨望の眼差しを向けられていた。いや、毎回向けられている。
そんな中で唯は彼女の質問に対して少し考える素振りを見せる。
なにせこのスタイルは唯の欲である性欲の副産物でもあるからだ。
性欲の高さはいくら人間とはいえ動物としての魅力を上げるのに欠かせないものだ。高低により若々しさやそれこそ唯のようにスタイルの良し悪しが変わり、それは必然と内面から外見へと変化をもたらす。
つまりこのスタイルや肌感も、それこそさっきから振り撒いている女性としての魅力すらも唯の性欲の高さからくるものなのである。
だから唯はその質問に言葉を選んで答えた。
「そうねぇ。毎日自分を高められるようなことはしているわね」
「なんか深い。なんだろう、デトックスとか?」
「ある意味デトックスね。朝にやると一日を通して体が軽くなって活動的になるの。夜にやるとスッキリして睡眠の質も上がる気がするわね」
「へぇ。なんだろう。気になるなぁ」
そんな会話を既に着替えを終えている女子達も聞いていた。
やはりみんなが唯のスタイルや美貌に憧れているのだ。
「ねぇ、具体的に教えてよ。私も姉ヶ崎さんみたいなスタイルになりたいの」
その子の目は輝いていた。
確かにその子のスタイルは普通だ。健康的ではあるものの何から何まで普通の域だ。しかしそれは唯と比べてである。この星条院高校の女子全体で見れば良い方ではある。だがそれでも目の前に自分よりも、言うなら他のどんな女子達よりも抜群のスタイルを持つ唯がいるのだから憧れを抱くのは当然だ。
それを感じ取った唯は、その眼差しや懇願するような雰囲気に対して再びどう答えようか悩んだ。
「そうねぇ…… でもみんなも既にやっていることだと思うわよ? それこそ高校生なんだからそういうことに興味が出てくると思うし。それこそ男の子は特にね。だからなにも特別なことはしていないの」
「興味が出てくること?」
その子は頭上にハテナマークを浮かべているかのように首を傾げた。
対して周囲にいた他の女子達は唯が言いたいことを察して少し頬を赤くした。それと同時にどこか納得の様子を示していた。
「なんだろう…… 分からないよ」
「それなら、帰ってからいつも何をしているのかとかを思い返してみて? 一週間くらいのね。そうすると分かるわ」
「うーん…… 起きて、学校に行って帰ってお風呂に入ってご飯を食べて寝てるよ? それが毎日だからなぁ…… あ!」
「分かったのね」
「うん。毎日牛乳飲んでる」
「それだけ?」
「うん。そうだよ。あとはキャベツを食べたり大豆を食べたり。豆乳も飲んでるよ」
「……そう」
唯はどうしたものかと思った。それとともにその子からは悟利にも似た純粋さを感じたのだった。
「え? みんなもそうだよね? やっても勉強とショッピングくらいだよね?」
と彼女は周囲の女子達に問いかけた。だが一様にしてその答えを困っているようだった。
「もしかして私がおかしいのかな。全然分からないよ」
「おかしくはないわよ。ほんの少しだけ興味が出てくるタイミングが人と違うだけよ。だから深く考えなくていいわ。人は人。あなたはあなたなんだから。ね?」
「うん。そっか。よく分からなかったけど、その内分かるようになるよね」
「そうよ。だから大丈夫よ」
その子は納得を示した。それにより唯や他の女子達も続けて質問をされるかもという心配から解放されたのだった。
「それにしても、姉ヶ崎さんはいつも自分を高めているの?」
今度は別の女子が質問した。
「人並じゃないかしらね。みんなと同じくらいよ」
「そっか。てっきり毎日の朝と夜かと思ったよ」
「まぁ、話の流れ的にそう思われてもおかしくないわよね」
「うんうん。でもそうだよね。姉ヶ崎さんはそういうことに興味がないのかと思ってたからなんだか親近感がわいたよ」
これで親近感ってどういうこと?
と唯は思った。それと同時に人並と言ったことでそう思われてしまったことに罪悪感を覚えたのだった。
本当は自分が人並ではないことを理解しているのだ。なんなら思春期男子にも引けをとらないということも。
そんなこんなで着替えが済んで全員が更衣室を出た。
教室に戻る道中でも質問が投げかけられた。
「姉ヶ崎さんはさ、言うなら男子の憧れの的じゃない? なら実は彼氏とかいたりするの? もしかして彼氏が美貌とスタイルの秘訣とか?」
「そんなことはないわよ。それに、彼氏はいないの」
「えー、そんなまさか。そんなに綺麗なのに?」
「どんなに綺麗でもスタイルが良くても靡かない男の子はいるのよ。でもそういう男の子を落とすのは憧れるわね」
「ってことは好きな人はいると?」
「どうでしょうねぇ。秘密よ」
唯の頭には彼の姿があった。
実際、唯の外見をもってして落ちない男はいないのだ。だが彼、無波静也だけは別だった。それこそ先日二人で外出した時のように魅了の能力を使わない限りはどうもできそうにないのである。
自分には他の女子には無いものを持っている。性格だって悪くないし、なんならお姉さんという男の子が好きな属性を持っている。なのにどうして彼は自分に落ちないのか。なんなら自分と比べて、いや、全ての女子の平均であり地味を極めたような普通の子であるところの星見月乃にばかり靡いている。自分の方が外見は良いはずなのに、どうして……
それが唯の唯一の悩みである。
だから思うのは、もしかしたら静也は唯が最大の武器としている外見の良さが通用しない、それこそ内面も見て自分と合う合わないを判断しているのかもしれないということだ。
だったらその相性の良さを示すには時間が必要だ。その点、月乃と静也は幼馴染なのだから既に時間は超越している。だから月乃に対しては、いくら唯でも唯一持っていない安心感と相性の良さを静也は感じているのかもしれない。
唯の頭では色々なことが思考された。
そして今はまだ月乃には敵わないということを理解したのだった。
教室に到着すると、帰りのホームルームが開始された。
その途中で廊下側の窓に目を向けた唯は、月乃と静也が歩いて行くのを発見した。
「はぁ……」
唯は小さくため息をついた。それは担任の声量によりかき消されては教室の空気に消えた。
「それじゃ以上だ。みんな気を付けて帰るんだぞ」
担任が教室を出て行くと、クラスメイト達が部活の準備にと着替えたり帰る支度をしていた。
唯もまた生徒会室に行く準備と忘れ物を確認していると、あることに気が付いた。
「あら?」
「どうしたの? 姉ヶ崎さん」
「もしかしたら体育館にタオルを忘れてきたかもしれないわね」
「そっか。体育館は部活で使われるから早めに行った方がいいかもね」
「そうね。それじゃ行ってこようかしらね」
唯はそう言って荷物を教室に置いて体育館へ急いだ。
そんな様子をどこからか見ている人がいた。
唯がそれに気が付くことはなかった。
次回は2/14の予定です。




