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楽園の欲祓師  作者: 翡翠ユウ
第3話 フィッシュ・ボウルの内外

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3-6 定まった方針

「皆様、そろそろ下校時刻となります」


 一通り話しに区切りがついたところで能徒(のと)が言った。


「あれ? でも最後のチャイムが鳴ってないよな?」

「はい。今は結界の中ですので外界からの干渉を遮断しております。ですがまもなくチャイムが鳴る頃となります。以降残られていては不自然です」

「そうか。そうだな。ってことなら仕方ない。俺からの話は終わりだ」

「僕も何もない。質問は無いか?」

「無いです!」

「…ない……よ…」

「お姉さんもよ」


 面々がそう言うと、最後に月乃(つきの)が頷いた。


「では結界を解除いたします」


 それからまもなくして校舎には最後のチャイムが鳴った。


「それじゃ帰ろうか。次回からは生徒会室で学校のことを済ませてから事務所に行こうね」

「そうねぇ。少し手間だけど仕方ないわねぇ」

「昨今のセキュリティを考えれば当然のことだ。むしろ今までが特殊だったんだ」

「全部能徒の結界のお陰だね」


 ということで全員が帰り支度を整えて学校を出た。


***


 それから一行は一度セブンスターズの事務所に立ち寄った。

 

「まぁ、こんなものだろう」


 と言った狩人(かぶと)が自分のデスクの上に生徒会室から持ってきた件のノートパソコンを設置した。

 それは今でもヘッジス・スカルによる電波の反応を追っていた。

 ちなみに減田(げんだ)の反応は今はもう遠くにあった。


 その設置と問題なく動作をしているところを見届けた一行は事務所を出てそれぞれの家に帰った。

 今日も能徒に家まで送ってもらった静也(せいや)は、前回同様にお茶でも出すと試しに聞いてみたが


「いえ、お気持ちだけで結構です。星見様より無波(ななみ)様を送り届けたら帰宅するように言われていますので」


 と返答され、そんな能徒の背中を見送ったのだった。


 それから食事に入浴とやることを済ませた静也がそろそろ寝ようかとベッドの中に入った。そんな時、セブンスターズのグループLINEにメッセージが入った。


『ヘッジス・スカルの電波を組み込む人形のことだが、正式に作ることが出来るようになった』


 狩人からだった。


『だが、違和感を軽減させる方はまだどうとも言えない』

『そっか。案外早く決まったんだね』

『人形を作っている業者が海外なんでな、日本時間で終業時間でも向こうの国ではまだ営業中だから仕事の依頼はすぐに進んだんだ』

『それで、いつ頃完成なんだ?』


 狩人と月乃のやり取りに静也が加わった。

 そのメッセージにはすぐに既読が付き、その数は六となったので全員が見ていることが確認された。


『早くて来週の頭だ。そこから発送だからこっちには来週の終わりに届くのが最短だろう。それで、ついさっき業者から質問がきた。それに意見が欲しい』


 直後、その人形の大まかな大きさを記したイラストの写真が添付され完成品のイメージが全員に共有された。

 それによると、一般的なキャラクター物のアクリルキーホルダー程度の大きさだった。


『人形というわけだから、そのデザインをどうするかだそうだ。ちなみに今回作ってくれる人は一流の職人だ。注文すればその通りのデザインがくるぞ。何かいい案はないか?』

『ちなみにそのデザインは一種類じゃないと駄目なの?』

『いやそんなことはない。今回は完全なオーダーメイドだから量産の型が無いんだ。極端な話、全員が違ったデザインでも平気だ』

『だったらみんな違うデザインの方がいいと思うです! その方がバリエーションがあって楽しいです!』

『私もそう思います。全員が同じデザインの物を持っていたら目立ちますし、嫌でも注意をひくでしょう。怪しまれずに持ち歩くには共通のデザインではないほうがよろしいかと思います』

『一理あるな。ならそれぞれで希望するデザインを考えておいてくれ。それで明日中に発注を済ませたいから、放課後までに僕に直接言いにくるか、もしくはLINEで教えてくれ』


 そこで全員が了解の返答やスタンプを押した。


『全員の了解が得られたようだから以上だ。僕は寝る』

『待て、金錠(きんじょう)。最後に聞いておきたい』

『なんだ?』

『デザインは()()()何でもいいのか?』

『大丈夫だ。もし駄目ならその旨で向こうからメッセージが来るだろう。その時は共有する』

『分かった。なら考えて明日送る』


 他に質問等もなかったのでやりとりが終わりを迎えた。


「何でもか……」


 電気を消してベッドに入った静也が呟いた。

 そのまましばらく考えているうちにいつの間にか眠りに落ちていた。


****


「月乃。今日は違和感はなかったのか?」

「うん。校長先生から聞いたんだけど、どうやら減田は来週から来るみたいだよ。昨日来たのは本当に挨拶だけで、顔見せ程度だったんだね。良かった良かった」

「そうか。それなら違和感と戦うのも少しは短くなるな」

「うん。でも来週末までは耐えないといけないから憂鬱だよ」


 次の日の放課後、静也と月乃は早めに生徒会室に到着した。

 帰りのホームルームが早く終わったためにまだ他の人達は来ていない。

 普段なら外から聞こえる部活の声もまだ聞こえないので周辺はとても静かである。


「どうしても耐えられない時は早退するのもアリだと思うぞ」

「まぁ、それは最終手段だよね。でも生徒会長が早退するのはイメージとしてはちょっとなぁ……」

「関係なくないか? 上の人が無理をするから下の人も無理をせざるを得なくなるんだ。それで何か言ってくる人がいたら前みたいに俺が排除してやるよ」

「それは駄目だよ? あの時だって学校側や、それこそ掘くんや大川くんのご両親にバレないように大変だったんだから」


 堀と大川。以前に月乃にちょっかいを出した挙句、静也が排除欲求を使って粛清した生徒達だ。


「結局あの二人はどうなったんだ?」

「大川くんは静也が殺したよね? 堀くんは全部見ちゃってたし、手は骨折でアキレス腱も切断されてどう見ても事故じゃない怪我をしてたから私達で処理したよ」

「そうか。それについては今も取り上げられていないことを考えると、もしかして死体ごと消したのか?」

「まぁ、()()扱いになるようにしたよ。能徒が協力してくれたし絶対に見つかることはないよ」

「遊園地に行った時も最後は男の死体を任せてたもんな」


 と言った静也の脳裏には唯と出かけた最後にも男の死体を任せられていた能徒がいた。


「それこそブラックホールで消せば早かったんじゃないか?」

「そうなんだけど、それもそれで面倒で。それに、死体処理は昔から能徒がやってくれていることだからその仕事を取るのも悪くてね」

「そんなもんなのか」

「そうだよ。みんなそれぞれには何かしらの役割があるんだよ」


 そんな時、生徒会室のドアが開いた。


「星見様、無波様。お早いご到着で」


 能徒がやってきた。それに続いて悟利(さとり)愛枷(まなか)もやってきた。


「おなかすいたですぅ……」


 悟利がそう言うと自分のデスクの抽斗(ひきだし)を開けて中からお菓子を取り出して食べ始めた。

 愛枷はのそのそと椅子に座り、能徒はパーテーションの奥に行って着替えを始めた。


「静也。覗いちゃ駄目だからね?」

「覗かねぇよ。ところで、能徒は学校で授業を受けている間は制服なのにどうしてダメイドになっていないんだ?」

「無波様、それは単純なことです。私がダメイドになるのは気心が知れた方たちしかいない場合だけです。学校のように多くの方がいる状態では常に気を張っているのでそうはなりません」

「つまりクラスでは落ち着いていないし、クラスメイトに気を許しているわけではないと」

「私にとっての世界は皆様、セブンスターズの方たちとの日常です。それ以外ではどこか警戒をしている私がいるのです」


 すると能徒がパーテーションの向こうから出てきた。

 いつも通りしわ一つなく整えられたメイド服を着た万能メイドがそこにいた。


「ならクラスだといつも一人なんじゃないのか?」

「それは大丈夫です! 能徒はいつもわちと一緒にいるです! ペアを組んだり、グループで何かをやる時は一緒なのです!」

「わ……私…も……いる…よ……」

「なら平気だな」

「そうです! 今後修学旅行とかも一緒なのです!」

「修学旅行は学年が違うぞ?」

「クラス替えがあっても同じになれる気がするです!」

「小牧様…… 私は皆様のお陰で一人にならずに済んでいます。日々感謝しています」


 能徒はこれまでの毎日を思い返しつつも、その時々の楽しかったことを思い出して嬉しそうにしていた。


「一人といえば、心配なのは狩人兄ぃです。静也兄ぃと狩人兄ぃはクラスが違うです。だから何かをするにしても狩人兄ぃはボッチになるです。ボッチ極まるとはこのことです!」

「何が極まるだ」


 そんな時狩人が生徒会室に到着した。


「遅かったな。クラスでエア友達と会話でもしていたのか?」

「その友達の名前は友くんだとでも言うつもりか? 残念だが、僕はそこまで残念ではない」

「少しの残念は認めるんだな」

「…う、うるさい。僕はクラスでボッチなのではない。一人でいる方が楽なだけだ」

「それをボッチだと言うんだ。本当に極まるぞ?」

「いいんだ別に。そもそも僕は友達は多い方がいいなんて思わないのでな。それこそ僕にはセブンスターズが―」


 狩人はそこで口を閉じてそっぽを向いた。そしてそのままなんとも言えない表情のまま自分の席についたのだった。

 その一部始終を静也が見てはにやにやと笑っていた。


「あとは唯だね。珍しく遅いね」

「日直か何かなのかもな」

「かもね。唯もクラスが違うからなぁ」


 丁度その時、セブンスターズのLINEにメッセージが入った。


『体育館に来て。たたか』


 そこでメッセージが途切れていた。

 それを見た一同が同時に月乃を見た。


「うん。行こう。唯に何かあったみたいだね。戦ってるって打ちたかったんだろうね」


 そうして六人が一斉に生徒会室を飛び出した。

次回は2/6の予定です。

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