3-4 思考と対策
なぜこの中途半端なタイミングで星条院高校に減田が赴任してきたのか。
セブンスターズの面々が思考を巡らせるも、一向に答えらしい答えにたどり着けなかった。
そんな時、万能メイドたる能徒が口を開いた。
「減田先生は上からの指令で来たのですから、私達に関わる何か重要な任務を言い渡されている。とか」
セブンスターズは欲祓師を束ねている組織である陰陽院に所属している。
減田はそこからの指令でやってきたと全員が確信している。だからそんな減田は普通の人ではなく、セブンスターズと同じく欲祓師である可能性が高いのだ。
星条院高校にいる欲祓師は七人。
つまり減田の目的はセブンスターズに関係している可能性が高い。と能徒は推察した。
その言葉に全員は、特に月乃は納得の様子を示した。
「確かにそう考えるのが妥当かもね。となると次に気になるのは、私達に関わるその重要な任務だね。このタイミングだからきっと私の中のヘッジス・スカルの調査かな」
「可能性はあるな。減田に指令を下した上の奴は陰陽院だろう―というのが今の俺らの認識だろ? 思い出したんだが、こういうのは考えられないか? 最終的に指令を出したのは陰陽院だが、その深部にはアウルの楽園が関係している。前に金錠が言ってたよな? アウルの楽園もヘッジス・スカルを探しているかもしれないと。アウルの楽園から秘密裏に陰陽院に話が行き、それを陰陽院からの指令として受けた減田が実際に調査にやってきた。筋が通っていると思うんだが、どうだ?」
アウルの楽園。
陰陽院の中でも限られた人しか知らない深部中の深部である。かつて月乃は、そこに所属していた千取により教育されて今の戦闘力を手に入れたのだ。
もちろん月乃はアウルの楽園の存在を千取伝いに聞いており、それについては既にセブンスターズで周知の事実である。
静也が話した推測を月乃が吟味する。
その間他のメンバーも思考するが、その表情からして答えは明らかだった。
「十分に可能性はあるね。むしろ妥当かも」
「そうねぇ。お姉さんもそう思うわぁ」
「わちもです。それなら月乃姉ぇを見ていた謎も解けると思うです」
「……減田は……月乃ちゃんを……狙って…る……あり得る……」
「星見というより、その中のヘッジス・スカルだろ」
それぞれが納得を示した。
能徒は無言だが、その表情からして同じく合点がいった様子である。
「まとめると、減田は陰陽院もしくはその深部であるアウルの楽園から間接的に指令を受けて赴任してきた。その目的は月乃の中にあるヘッジス・スカルに関係している可能性が高い。アウルの楽園もヘッジス・スカルを探しているかもしれないから、むしろ十分に関係している。こんな感じか?」
「そうだね。そこから導き出される私達のやるべきことは―」
「ヘッジス・スカルを減田の手に渡らせてはいけない。もっと言うなら月乃に近づけさせてはいけない」
「うん。私も私で単身で近づかないようにしないといけないね」
静也と月乃の会話を前に口を挟む者はいなかった。
「とはいっても、一応は教師と生徒という立場で派手には動かないと思うわ。それこそ変に動いたら立場的に強いのは私達生徒側よ。しかも女生徒だから、その意見の強力さは今の世間の風潮から見ても明らかでしょう?」
「確かにそうだな」
「どういう意味です? 生徒と先生は人という名の下でみんな平等のはずです。ならわち達が何を言っても絶対に強いとは限らないと思うです」
「悟利ちゃん。世間は厳しいのよ? 男女間において何か問題が起きたら、人や世間は女の子の味方をするものなの。そこにどんな理由があっても、それこそ女の子側に問題があっても男性に非があるってなるの。代表的なのは痴漢の冤罪ね。女の子の方が絶対的に強いのよ」
「男女平等とはいったい……」
「小牧。世間とはそういうものだ。それを変えたければ政治家にでもなることだな」
「そんな……わちが信じてきた平和な世界っていったい……」
悟利の目からはまた光が消えた。
「でもまぁ、今回はそんな不平等のお陰で減田は下手に月乃に手を出せないんだ。もちろん社会的に死んでもいいって覚悟があれば別だが。もちろん少しでも月乃に変なことをしたら、俺が社会的にではなく物理的に排除するがな」
「静也……」
「月乃、大丈夫だ。奴が何かしてきたら俺が必ず守ってやるからな」
「……うん」
月乃は少し頬を朱に染めて俯いた。だがその長い前髪のせいでその頬は静也には見えなかった。
「羨ましいわぁ、月乃ちゃん。静也くん、お姉さんのことは守ってくれないの?」
「もちろん唯もだ。悟利も、愛枷も、能徒も。みんな俺が守るからな」
「静也……くん……」
「無波様……」
「待つです! 狩人兄ぃがいないです! このままじゃ狩人兄ぃだけが死ぬです!」
「まぁ、金錠も……な」
「なぜ僕だけ変な間があるんだ。まぁいい。僕は一人ででも生きていける」
「だから狩人兄ぃはいつまで経ってもボッチなのです! 素直に喜べばいいと思うです!」
「なっ! 僕は別に喜ぶつもりはない! だがまぁ…セブンスターズを守るという意味では大層なことだと思う」
狩人は相変わらず素直ではないものの、月乃以外の女子達もまた頬を少し赤くしていた。
「それで、具体的にはどう対処するつもりなんだ? 表立って襲ってくる可能性は低いにしても、奴は僕達と同じ環境にいるわけだ。幸い星見は奴が近付いてきたら頭の違和感で気付くことが出来るわけだが、それでも実際に事を構えられたらたまったものじゃない」
「そこなんだよね。向こうが派手に動けないのと同様に私達も変に動けないからね。減田がGreedであれば大儀のもとで処理出来るんだけど、今回はそうじゃないからなぁ。隙を見てブラックホールで消すことも、前に千取の遣いか何かで襲撃してきた丸い奴の時みたいに能徒の結界で囲んでぐしゃりってわけにもいかないしなぁ……」
「しかし星見様。私は星見様に危険があればどんなことでもお引き受けします。ご希望であればすぐに潰してきます」
「うん、ありがとう。でもまだその時じゃないよ。それに、減田はどこかに水晶髑髏を隠しているか体に埋め込んでいるんだよ? 変に潰すわけにはいかないよ。それこそ在処を確かめてからじゃないとね」
「そうです! 潰すのはクリスタルスカルを貰った後でも遅くないです!」
「……分かり次第……行動に…出る……」
「みんな血気盛んねぇ」
「おいおい、大事なことを忘れてねぇか?」
全員が全員、減田を潰す方向に動きそうなので静也が待ったをかけた。
「確かに対処はすべきだが、今は処理をする話じゃないだろ? それにさっき月乃が言っていたように減田はGreedじゃない。そんな人を殺すのは普通に殺人として捕まるぞ」
「むぅ……でも静也。殺人ってのはね、その証拠があるから殺人なんだよ? 証拠が無い殺人は自殺が謎の死だよ? それにね、死体を跡形も無く消せば失踪になるんだよ?」
「地味な顔で恐ろしいことを言うな。それでも駄目だ。俺らから奴に物理的に何かするのはGreedになった時か、奴から何かを仕掛けてきた時だけだ。いいな?」
「……仕方ないね。静也がそう言うならそうするよ」
「だが無波。やられてからやるんじゃ後手後手になるぞ。やられる前にやらないといつまで経っても先手は取れない」
「だから別のやり方で先手を取るんだよ」
「ほう。そう言うってことは何か考えがあるんだな?」
「まぁな。でもこれが先手と呼べるかは分からないが、有効な手ではあるはずだ」
静也はそう言うと、その考えを話し始めた。




