3-3 来訪者
頭に違和感を抱き苦悶の表情を浮かべている月乃は、自らの頭に手を当てて呻いている。
静也は心配の面持ちでその頭をさすっている。
「……すぐそこにいるよ。気をつけて……」
月乃の頭に埋め込まれているヘッジス・スカルが他の水晶髑髏に反応しているのだ。その共鳴が今まさに月乃の頭に違和感を与え続けていた。
「金錠!」
「間違いない。来るぞ」
狩人のパソコンにクリスタルスカルの反応が表示されている且つ、月乃の反応の下、生徒会室にいる月乃と静也以外がその扉の方に向けて警戒体勢をとった。
まもなくしてその扉が開かれた。
「失礼するよ」
そこから現れた人に全員の視線が集まった。だがその人は既に何回か見ている星条院高校の校長だった。
彼が入室すると、それに続いて別の人も入室した。
その人の方は全員が本当に初めて見る人だった。だからその警戒は必然とその人の方に向いた。
「皆さん。初めまして」
彼は自然的な笑顔で挨拶をした。その直後校長が口を開いた。
「他の生徒達には後日の全校集会で紹介しますが、まずは生徒会の皆さんに紹介します。彼は減田功削先生です。この度上からの指令で本校に赴任することになりました。もちろん各学年で担当教科を受け持つことになります」
「なるほどです。別に今日ご紹介に来ていただかなくても結構でしたのに。お忙しいのでしょう?」
今の月乃は会話をすることが難しいので、副会長の唯が代わりに話をした。
そんな中でも狩人は彼に目を向けながらも、万一の為にパソコンにロックをかけて閉じた。
「今日はここに来る予定でしたので忙しくないですよ。ただ、先にこの学校の生徒会を見ておきたくて校長に無理を言って願いを聞いていただいたのです」
唯は校長に話をしたつもりだったのだが、それに答えたのは減田だった。その声はやけに穏やかで、それでもどこか静かな威圧を感じさせるものだった。
「そうですか。私達生徒会は見ての通り、どこにでもある学校の生徒会です。特に変わったことはないかと思います」
「そうですか。しかし、校長や上からはもう聞いています。セブンスターズというのでしょう。欲にかられたGreedを適切に処理する先鋭部隊。その長である生徒会長の星見月乃さんはかなりの実力者だとか」
直後、減田の雰囲気が変わった。それは否応なしにセブンスターズのメンバーを緊張させた。
そして彼は最奥の月乃に目を向けた。
「あなたがその星見月乃さんですね。なにやら体調が悪そうですね」
「そんなことはないよ。黙って話を聞いていただけだよ」
月乃は平然と答えたものの、その顔には汗が滲み頭の違和感と戦っていることが目に見えた。
それを察した静也が二人の間に入った。
「あなたのことも知っていますよ。無波静也君ですね。星見さんに勧誘されて入会し、幾度となく持前の欲で仲間達とともに戦い勝利を収めたとか」
「俺は欲祓師としての仕事をしているだけだ。つまり何が言いたいんだ? 今日は挨拶だけなんだろ?」
静也は減田に鋭い視線を向けた。それはまるで絶対に近づけさせないと言っているかのようだった。
「そうですよ。今日は挨拶だけです。細かいことはまた後日にでもお話に来ますから、そう怖い顔をしないでくださいよ。生徒と教師として仲良くしましょう」
「……」
再び微笑む減田に対して静也は警戒を緩めない。もちろん他のメンバーも緊張を解かない。
その時、月乃が静也の袖を引いた。
「月乃?」
「静也、いいよ。分かった。それじゃ詳しいことはまた後日ということで」
月乃は一旦はこの場を閉めようと言った。そして校長の方に目を向けると、校長もそれを悟ったようで
「それでは今日はこれにて。これから先よろしくお願いしますね」
と言って減田とともに生徒会室を出て行った。
二人の足音が離れていくにつれて月乃の様子が好転していった。
「大丈夫か?」
「……うん。いきなりだったからびっくりしたよ」
数分後には月乃はすっかりと元通り元気になった。
それでも万能メイドたる能徒は温かいおしぼりとお茶を用意して持っていくと、月乃はおしぼりで顔の汗を拭いてお茶を飲んで一息ついた。
「ありがとう。みんなもありがとう。でももう大丈夫だよ」
その言葉によって全員の緊張がほぐれた。それからそれぞれの席に座ると、静也が気になっていたことを聞いた。
「校長は上からの指令って言ってたよな? それに減田はセブンスターズのことを知ってただろ? つまりその上っていうのはあれか?」
「そうだね。欲祓師を束ねる陰陽院からだね。星条院高校の校長とか一部の人は学校が陰陽院に通じていることは知っているから、それもあってまずは私達セブンスターズに会わせたんだろうね。その時点であの人が普通の人ではないのは確定だよ」
そこで唯も疑問に思っていたことを話した。
「それにしても急よね。始業式でもないし、それこそ年度始まりでもないのにどうしてこのタイミングで来たんだろうねぇ」
「そうです。それにあの減田先生は変な感じがしたです。笑っているはずなのに本心じゃないような感じがしたです」
それに続いて悟利が言った。
「大人なんてみんなそんなものだ。作り笑いや社交辞令って言葉があるだろ? 大人の表情や言葉をそのまま受け取ると痛い目に遭うぞ」
「そんな……大人って……大人って……」
悟利はかなりショックを受けたようで、心なしか目の光が薄くなった。
「金錠。なんか知ったような口ぶりだな」
「これでも社長なんでね。多くの大人達と接する機会があるんだ」
「そんなでも社長だもんな」
「変に言い換えるな。それで、どうしてこの時期に減田がやって来たかだが、心当たりがある人はいるか?」
と狩人が話を元に戻した。
「誰もないから困っているんだよ?」
「まぁ、そうだろうな。もちろん僕にもない」
「……ぁ。でも……参考になるか…分からない……けど……」
ずっとだんまりだった愛枷が口を開いた。
「あの人…ずっと……月乃ちゃんを視界に……入れてた…… あと……私も…… 私は…警戒されていた……だけかな……」
「ちなみに、愛枷はあの時非認知を使ってた?」
「使って……ないよ。ずっと見られてたから……急に…消えるのは……不自然……かなって」
「そうだね」
「なら、なんとなくだけど狙いは月乃か? でも愛枷も見ていたんなら愛枷もか?」
「月乃ちゃんは…分からなく…ないけど……でも……私を…狙う理由は……?」
「……分からない」
そしてまた全員が頭を抱えた。
「ところで狩人。パソコンの方は?」
手詰まり感を悟った月乃が話題を変えた。
「あぁ、問題無い。奴が入って来た時にはもうロック画面にしたから見られていない」
「そう。それじゃ、クリスタルスカルの反応は?」
「今さっき確認したが、学校から遠ざかっているようだ。まぁ、さっきので減田がその持ち主だってほぼ確定したわけで、この時間だし奴は帰っている途中なのだろう」
静也がそっとその画面を覗き見ると、確かにその反応は学校の敷地から出ていた。
「あの、こういう線は考えられないでしょうか?」
主である月乃の隣でずっと聞いているだけだった能徒が口を開いた。
次回は1/30の予定です。




